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プーチン・リスクを思い知った習近平の本音。対米では“共闘一択”の苦しい立場

4月12日にはアメリカのバイデン大統領が初めてその行為を「ジェノサイド」と明言するなど、世界から大きな批判を浴びているロシア軍によるウクライナ侵攻。プーチン大統領とは対米政策における「盟友」である習近平国家主席ですが、今後もその関係が揺らぐことはないのでしょうか。これまでも「黒幕は習近平か。露のウクライナ侵攻で台湾併合への士気を高める隣国の目論見」等の記事で中ロ両首脳の思惑を解析してきた、外務省や国連機関とも繋がりを持ち国際政治を熟知するアッズーリ氏は今回、さまざまな要素を勘案しつつ習近平氏の本音を推測。さらに中国がこの先ロシアとどのように接してゆくのかについても考察しています。

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習近平は今プーチンに何を思う

米中対立が激化する近年、中国にとってロシアは対米国でタグを組む重要な戦略的パートナーである。新型コロナウイルスの感染拡大が2年前から始まり、コロナの始まりが中国武漢だったということで欧米を中心に中国への批判が高まる中、ロシアは一度も中国を批判せず沈黙を続けてきた。同じく米国と対立するロシアも大国化する中国は大きな支えで、中国との政治経済的な協力を重視している。正に習近平とプーチンは国益や戦略目標では異なるところはあるものの、互いに助け合う仲だったといえる。

習近平は2月4日、北京五輪開催のタイミングで訪中したプーチンと会談した。会談で習近平はプーチンが嫌う北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対する意思を示し、プーチンは習近平が掲げる1つの中国を支持する立場を表明するなど互いの核心的利益を互いが尊重し合う形となった。北京五輪を巡っては米国や英国など欧米諸国が外交的ボイコットを実施する中、大国ロシアの指導者が訪中したことは習近平にとっても心強かったに違いない。

しかし、プーチンは北京冬季オリンピックの閉会直後、パラリンピックの開会前というタイミングでウクライナへ侵攻した。プーチンの中にはさすがにオリンピック期間中に侵攻すれば中国の顔に泥を塗る恐れがあるので、その後なら大丈夫という気持ちがあっただろうが、オリンピックパラリンピック双方での偉大な成功を掲げる習近平はさすがにまいった!という心境になったことだろう。パラリンピックではウクライナ選手団に国際的な注目が集まったが、習近平としてはそういったマイナス的な報道は望んでいなかったはずだ。一部の中国専門家は、「ウクライナ侵攻によって習近平はプーチンリスクというものをまざまざと知ることになったので、今後ロシアとの関係を再考することになろう」とも指摘した。

舵取り困難な問題に直面する習近平氏

国際社会の中で影響力を高める中国としては、各国からの対中批判はなるべく避けたいことから、ウクライナ侵攻でロシア支持を表明することはできない。しかし、習近平は中国にとっての最大の競争相手を米国と位置付けており、そのためにはロシアとの良好な関係が重要であることを熟知している。それがウクライナ情勢における中国の曖昧な姿勢に繋がっていて、習近平は戦略的に、中国の国益を中長期的に考え行動に出ている。

ウクライナ侵攻でロシア軍の進軍が思うように行かず、プーチン政権の脆弱性も指摘されるなか、ロシアのラブロフ外相は3月30日に中国を訪問して王毅国務委員兼外相と会談し、両国が戦略的に協力していくことで一致した。米国など欧米諸国はロシアへ経済制裁を強化するなど非難を強めているが、中国は経済的にロシアと協力する姿勢を示している。王毅国務委員兼外相の対応からも、「やってしまったものは仕方がないが、対米でやはりロシアとは関係を重視する必要がある」という中国の本音を読み取ることができる。

現在のウクライナ情勢でプーチンは後に引きない状況になっており、おそらく限界まで強気の態度を貫くことだろう。この問題は長期化する可能性が濃厚で、その分中国がどのような姿勢を見せるかに日々国際社会の関心が注がれることになる。これは中華民族の偉大な復興を掲げる習近平としては舵取りが難しい問題である。上述のように、米国は別として、中国としてはできるだけ多くの国と良好な関係を維持、発展させたいのだが、ロシア寄りの姿勢を長期間に渡って維持すれば、常に多数の国から非難の対象になるというリスクが付きまとう。今後、習近平はロシアへウクライナ侵攻はなかったかのような態度で対応していくことになるが、多くの課題が中国を待ち構えている情勢といえる。

image by: plavi011 / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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