テレワークの普及等でスーツの需要が激減し、窮地に立たされていた紳士服業界ですが、ここに来て各社がさまざまな知恵を絞り打ち手を講じています。そんな中、一線を画す取り組みをスタートさせたのが、洋服の青山です。今回のメルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』ではMBAホルダーの理央 周さんが、カジュアル路線を打ち出す同業他社とは逆に、オーダースーツを強化する洋服の青山の戦略を紹介。さらにその成否の秘訣をマーケティングのプロとしての目線で解説しています。
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洋服の青山のブランド戦略に学ぶ、ブランド構築のステップ
スーツの業界各社が頑張っています。コロナ禍で在宅ワークが増え、対面での営業や仕事が減ったこともあって、スーツの需要が以前よりも減り、業界としては苦戦しています。
さらに、ユニクロやワークマンといった、これまではスーツに力を入れてこなかったアパレル各社も、カジュアルなスーツやジャケットを販売しはじめています。
私も持っていますが、ジャージ素材のジャケットやスーツも流行っています。結構使い勝手が良くて、ちょっとした打ち合わせにも着ていけますし、ZOOMなどでの打ち合わせでシャツの上に羽織って出席することもできるので、汎用性が高いアイテム、ということがいえます。
このコロナ禍で、スーツやジャケットに対する、ビジネス服としてこれまでの常識が変わりました。べつな表現で言うとすれば、仕事着というカテゴリーの幅が、とても広くなってきています。
そんな中で、スーツの大手各社も、頑張って自社の特徴を出した、さまざまな打ち手を売っています。
アオキは、スーツ中心から、カジュアル路線を強化していて、今流行りのパジャマスーツを販売しています。
ホームページによると、「パジャマ以上、おしゃれ着未満」というコンセプトで、お値打ちですが、遊びや仕事、旅行など、色々なシチュエーションで着ることができる、万能タイプのバリエーションを揃えています。
スーツのはるやまも、カジュアル路線を狙っています。やはり、オンとオフの境目をなくし、今までよりも仕事着をよりお得に買いたい、という市場が伸びるとの判断でしょう。
そんな中で、大手の洋服の青山は、オーダースーツを強化する、という戦略に出ています。
今まではこの業界はどちらかといえば、既製品のスーツをたくさん作りお値打ちに売るという、コストリーダーシップの戦略をとっていました。
アオキやはるやまが、カジュアルにシフトし、この路線の延長でいく中、洋服の青山は既製品を縮小して、少し値段が高くなりますが、ユーザーのニーズごとにカスタマイズできるオーダースーツを強化するという、差別化戦略に出たのです。
私もたまにオーダーをするのですが、私は背も高くなく、腕も若干短めなので、袖の長さとか、肩幅がぴったりするオーダーが、専門店よりもお値打ちに作れる、となると行ってみたい気になります。
先日も青山は、オーダースーツの老舗の麻布テーラーを買収しました。
日経MJによると、青山の自社内にも「シタテ」というオーダースーツのブランドはありますが、麻布テーラーの知名度と実績によるイメージを生かし、当面は麻布テーラーのブランド名は残して事業を行うということです。
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洋服の青山は、全国に店舗があります。人流が戻りスーツやジャケットの需要が出てきた時に、「ちょっとくらい高くてもいいので、自分の好みのものが欲しい」「ぴったりマッチしたものがいい」という人たちをターゲットにするのでしょう。
コロナ禍の中で「自分を見つめ直す」機会が増えました。なので、コロナがもう少し落ちついて外出できるようになると、「自分が欲しいもの」を求める人に受けそうです。
業界内の多くの企業が、安く多く売ろうとしている中、青山は逆に「付加価値」をつけて売ろうとしているのです。
薄利多売から差別化に持っていくこの戦略が上手くいくかどうかは、付加価値の付け方にかかっています。
付加価値は、そのままブランドに直結します。
ブランドを構築するということは、知名度やイメージを上げることだけでなく、品質への信頼感や、機能性への安心感、ターゲット層が「これは自分のマッチしたブランドだ」と感じるアソシエーションという「連想度」を高めていくことが必要です。
連想度とは聞きなれない単語と思いますが、ターゲット層の心の中に醸成されていく、ブランドへの“共感度合い”を指します。
連想度が高ければ高いほど、すなわち、共感されればされるほど、同じような業種、価格帯の中から、選ばれるブランドになるのです。
そのためには、「青山にいけば、自分にマッチしたテーラーメイドのスーツを、お値打ちに作ることができる」というブランドの個性、自我を、はっきりさせる必要があります。
スーツをこれまでと同じビジネス服、と定義しているとより厳しい競争にさらされます。
その中で、この青山の戦略、特にブランド構築がどうされていくのか、注目したい事例です。
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