ロシアのウクライナ侵攻を受け、これまで取り続けてきた軍事的中立の立場を転換し、NATOへの加盟を申請したスウェーデンとフィンランド。トルコが反対の立場を崩していないため正式加盟を巡っては難航が予想されますが、そもそも北欧2国のNATOへの参加は正しい選択と言えるのでしょうか。今回のメルマガ『室伏謙一の「霞が関リークス」増刊号』では国会議員や地方議員の政策アドバイザーを務める室伏謙一さんが、両国とロシアとの歴史や現在の関係性を鑑みつつ、その判断の是非を考察しています。
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スウェーデンとフィンランドのNATO加盟への動きをどう考えるか
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州における安全保障環境は大きく変わりました。このことは欧州各国のその後の動きを見ても明らかであり、このことについて異論の余地はないでしょう。
そうした中で、スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟を申請すると表明しました。
NATOは第二次世界大戦後、東西対立が始まる中で設立された西側の集団安全保障体制であり、その対抗する相手はワルシャワ条約機構(WP)です。平ったく言えば、米ソ対立の道具だったわけであり、NATOは西側陣営、WPは東側陣営と呼ばれたりしました。
さて、両陣営は対立はしていましたが、両陣営間で武力衝突は起きていません。結局両陣営が目指していたのは、現状維持でした。それがソ連の崩壊によってWPが最終的に解散し、対立も終結したはずでしたが、NATOは存続し、事実上の盟主であるアメリカのクリントン政権以降、旧WPへの拡大、東方拡大が進められます。これが今回のウクライナ危機の遠因となっているわけですが、その辺りの詳しい解説は、オンラインサロン「霞が関リークス」をご参照いただくこととして、NATOは冷戦終結後、その役割が終わったにも関わらず存在し続け、むしろ欧州の安全保障を脅かす原因ともなりかねない存在になってしまったと言えると思います。
さて、集団安全保障の基本的な性格は、それに参加する一国に対する攻撃を他の参加国に対する攻撃と見做して対処するというものです。したがって、特定の集団安全保障に参加するということは、どこか特定の国や特定の勢力(複数の国)を脅威と考え、そこからの武力攻撃を受ける可能性が考えられるような場合です。
これを今回NATOへの加盟を表明したスウェーデンとフィンランドの場合に当てはめて考えてみましょう。
両国とも過去にロシア又はソ連と戦争した経験があります。ただし、スウェーデンの場合は18世紀初頭の話ですし、ロシアがスウェーデンに侵攻したのではなく、バルト海の覇権をめぐる争いでした。
フィンランドの場合は、20世紀の第二次世界大戦中の話で、こちらは国境を接するソ連による侵略戦争と言っていいものでした。ただし、時は第二次世界大戦勃発直後であり、ナチス・ドイツが破竹の勢いで膨張しているという特殊な状況でもありました。ソ連はナチス・ドイツの膨張に対抗するためにフィンランド領の一部を必要としたという、なんとも身勝手な話が、ソ連による侵攻の背景としてあったわけですが、そんなことも平気で主張し、要求し、それに応じないなら攻撃だということが起きてしまう状況だったということです。
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こうした過去の歴史における経験があるから両国はNATOへの加盟へ舵を切ったと言えるかといえば、まずスウェーデンは該当しませんね。そもそも当時スウェーデンは欧州の強国であり、ロシアのような弱小国家が対抗できるような国ではありませんでした。
フィンランドはと言えば、確かに数十年前の話であり、これは十分関係ありうると考えられるかと言えば、ロシアと直接国境は接していますが、ドイツがロシアを攻撃しようとしているわけでもなく、他の旧東側の諸国にしても同様であり、当時とは、当然のことながら状況が全く違います。したがって、軍事的に備えることは当然としても、歴史的経緯、経験を踏まえて、あえてNATOに加盟ということにはならないでしょう。
そもそも、集団安全保障に参加する理由として非参加の他国による脅威や武力攻撃の可能性を挙げましたが、現状ではロシアからフィンランドへの武力攻撃の可能性は極めて低いと言っていいでしょう。
逆に、NATOに加盟することで、自分たちはロシアを脅威だと思っています、武力攻撃を懸念しています、はっきり言えばロシアは敵国ですと表明するに等しくなり、かえって両国の置かれた安全保障上の状況を悪くしてしまうのではないかということが懸念されます。
要するに、スウェーデン、フィンランド両国の判断は誤りではないのか、ということです。
しかし、多くの日本人はこれが理解できない人と思うので、最後に集団安全保障をめぐる「不都合な真実」に触れておきましょう……(メルマガ『室伏謙一の「霞が関リークス」増刊号』2022年5月19日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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