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いじめ探偵が告発。被害者への誘導尋問がバレた「教師の呆れた一言」

これまでに500件以上に及ぶいじめの実態調査を行い、1万人以上の被害者からの相談に対応してきたという、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんですが、プロとしての読みが奏功し問題がスムーズに解決する例も多々あるようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』で取り上げられているのは、とある公立中学校で今年4月に発生したいじめ事件。阿部さんのどんなアドバイスが効果を発揮したのでしょうか。

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同級生と部活の先輩らからの恐喝受け20万円を巻き上げられた中学2年生の男子生徒。いじめを矮小化する手口

中学2年生の男子生徒A君は、今年4月から5月の1か月間で、同級生と部活の先輩らからの恐喝行為を受け、およそ20万円を巻き上げられていた。

主には飲食費であり、これを支払わないと殴る蹴るという暴行行為やしつこくLINEグループに入れて罵詈雑言を浴びせるという行為をした。

また、部活では「しごき」と称して、A君と他2人の生徒を対象に、不必要なトレーニングなどを行うように強要し、他2人の生徒はこれにより怪我をして部活を休部していたのだ。

私は4月中旬に保護者から相談を受け、大手寿司チェーン店で先輩や同級生を含め、A君が食事をしている様子を確認した。その前後全ての記録から、A君が全ての会計をしている様子やそのレシートなどを入手し保管した。

また、A君の保護者に協力してもらい、A君に実施した聞き取り記録から飲食チェーン店や100円ショップなどを周り、保管できていなかったレシートを入手し、防犯カメラの記録の保全を依頼するなどした。

その他、A君の協力からLINEで「A君をゴミ」と呼び、「ゴミ男と遊ぶ会」などと称するグループLINEの提供を受けた。

これらを時系列にまとめ、また、私が介入を始めてから行った録音データを書面化した資料などを含めて学校に対応を求めた。

公立中学校の対応

公立中学校の対応は、まずは調査だった。

部活の顧問である教員と各生徒が所属するクラス担任らが事態の聞き取りを各当事者に行うというものだ。

加害行為に乗じていた同級生5人のうち、3人はそうした被害を起こしてしまったことを認め、被害生徒に弁償とお詫びをしたいということであったが、他1人は完全否認し、もう1人は、行為は認めたものの、その後割り勘にしたと嘘の主張をした。

先輩2人は、LINEは認めるが、奢ってもらったのであり、他でジュースやお菓子を奢っていると嘘の主張を繰り返し、問題になるくらいなら返済すると主張した。

一方で、A君も調査対象となり、クラス担任と部活顧問からの呼び出しを受け、校長室で聞き取り調査を受けた。

A君曰く、「顧問の先生は、しごきや先輩が殴ったり蹴ったりするのは知っているはず」。それもそうだ、顧問教員は部活にはほとんど顔を出さないというが、そうしたしごきや暴力で他の生徒がしっかりとそれを理由にして休部しているのだ。

しかし、顧問はまるで初めて聞いたかのような対応をしていた。

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その上で、顧問はA君への聞き取りでは、誘導尋問を仕掛けたのだ。

顧問 「BやC(主体的に暴力をふるっていた先輩)が、君に厳しく対応したのは、君がレギュラーになりたいと言っていたからだとは思わないかな?」

A君 「思いません」

顧問 「そうか、でもさ、体ができていないとケガをしたり、他の経験者とは差が出るじゃない、だから、厳しく感じたかもしれないけど、まずは体つくりからだと思ったというのは、ちょっとはわかるんじゃない?」

A君 「まあ、そう言われれば、そうかもしれないですけど」

顧問 「だよね。そう思うよね」

これは、教員など教える側がよくやりがちな会話法であり、「見方を変えれば、こう考えられないか?」「少しはそう思えないか?」という視点を変えて、見解を変更させたという形を作ってしまう。

結果、こうした質問と変更しただけの見解をもって報告内容を誤魔化し、保護者にこう言うのだ。

「こどもは学校での顔と家での顔を使い分けます。お母さんから聞いた話と息子さんの話は一致していないこともあって、大事にしないようにするのがいいですよ」

今回、予告なく聞き取りをA君は受けることになったが、これまでの経験から、私からはもしかすると、大したことはなかったというように印象操作をするような報告書を作るための質問をぶつけられるかもしれないという話と、その場合は、「今思えばではなく、正確にそのとき、どう感じていて、今結果としてこうなっています」ということをちゃんと話そうということだけは少しシミュレーションしていた。

立場に差がある者が行う聞き取り調査の場合は、立場が強い側が質問者になると、強者が欲しい方向に展開していくことが可能になる。

質問者は場をコントロールする支配力を持つのであって、回答者である弱者は強者のさじ加減で、どうにでもされる可能性があるのだ。

特にいじめの場合、加害者側はこの質問者に挑発的に対抗したり、根拠なくしていないと拒絶姿勢を示したり、黙秘をして困らせるということもできるが、救いを求める被害者はより事態を正確に把握してもらいたいという思いから、質問に従順に答えるようになりやすい。

つまり、質問者にとって被害者はコントロールしやすい相手になるのだ。

だからこそ、もしも、抵抗できないかもというときは、きっと録音は厳禁だと告げられるだろうが、構うことはない、録音してあとで教えてくれという話をしておいた。

結局、A君は聞き取りのために授業中に呼び出されたときに、2台持っていたICレコーダーの内、1台の電源を落とすふりをして、靴下と脛の間に仕込んだレコーダーは録音状態のまま、これに応じたのだ。

当然、提出資料には録音内容もあったから、聞き取りをする教員は、「録音は厳禁だから」「録音したら盗聴で訴えるかも」と脅しを入れてきたのだ。

録音をしていなければ、本件は学校の調査でもみ消されていただろう。

録音があったから、ここでの詳細な事態がわかることになり、しっかり分析をして、決めつけた前提ある質問方法や後から印象操作のため見解を変えさせて、なんとなく被害者本人に同意させるというやり方で、実際は大したことなくて、親が騒ぎ過ぎなのだという結論にしようとする手口を暴くことができた。

当然、後日録音があったことを顧問は知ることになり、「そんなの無効だ!」と抵抗はしてきたが、そんな言い訳を聞く余地もないだろう。

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A君は

A君は部活の顧問が変わらないことも、先輩らが部活をクビになったとしても、結局学校に残ることも承知の上であった。

今ある法では限界があるのだ。

A君はすでに、別の部活に入り直し、それよりは、学業優先で頑張ろうと考えていたから、手口が暴けて、彼らが自分から距離をおくことを約束したところで、終わらせたいと考えていた。

結果として、校長自身がA君とA君保護者に謝罪をした。また、顧問のバイアスの掛かった質問の仕方や、同席していて「あれ??」と疑問を感じつつも、その場で強く指摘したり制止できなかったクラス担任は謝罪意思のある他生徒らとA君に謝罪をしたのだ。

また、一方で謝罪意思を示した加害生徒らは積極的に証言をしたが、他の加害者らは謝罪自体はしなかった。正確には、反省になっていない自分よがりな言い訳を「反省文」と銘打って出してきたに留まった。

但し、学校から教育委員会への報告書には加害行為をしたと明記されることになった。

この段階で、A君とA君の保護者は、これ以上は時間の浪費になりかねないと考え、これ以上の対応はしないで、むしろA君の安全保障を学校から取り付けることにしたのだ。

そのため、かなりスピード感のある終結ということになったが、A君の話によれば、謝罪しない加害者らは、すでに別の同級生をターゲットにして同じようなことをしていると聞いた。

しかも、手口は進化しており、LINEは全て消されており、録音機を持っていないか持ち物を全てださせるのだそうだ。

A君はもう関わりたくないという気持ちがあるが、私の名刺を渡してよいかということであったので、渡しておいてとお願いした。

よく学校は証拠を持ってこいというが

証拠がこれだけあって、証明すべきことは全て証明出来ていても、加害者が認めないと何のお咎めもないというのは、何ともおかしな話である。

あくまで加害者ではあるが、正直に加害を認めた者は罰を受け、認めないものは主体的に行っている証言や動画があっても、罰を受けることは無いのだ。

これなら、認めないで罰を受けない方がいいと考える者もいよう。

ただでさえ被害を受け、被害側は負担の多い状態になっているのに、さらなる負担を強い、それでも加害者は処分などを受けることはない。

形ばかりの反省文を書き、弁償は親が均等で負担し、何もなかったかのように学校で楽しく暮らすわけだ。

今回、警察にも被害届の相談をしているが、学校での問題が多いことや金の貸し借りは民事だと担当者が言って、やる気が無いため、A君の保護者が被害者本人の負担が大きくなることを考え、相談を取りやめている。

確かに被害を主張するとき、相応の証明活動は必要だというのはわかる。しかし、その負担に応じた加害側の負担はあまりに少ないのである。

また、加害行為をした者が何度も同じような被害を起こしていくというのはよく見るもので、いじめにおいては加害と被害の逆転現象はたびたび起きるが、重篤被害で常習加害者の場合は逆転現象が起きる方が珍しいのではないだろうか。

被害者が表面的な解消をしてから、あの加害者はまた他でいじめをしているとか、数年経ってから、反社会的行為を繰り返しているという話はよく聞くことである。

今回はいじめという言葉極力使わず、○○行為というように書いたが、教育的指導という枠組みに限って、広義のいじめ行為に対応していくのはもはや限界を超えていると思うのだ。

こども家庭庁が今後こうした問題に取り組むようだが、どうも予算も少ない中でどのように対応するのか、期待しないで観察していこうと思う。

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編集後記

本件では急遽の対応で、相談当初はなかなか直接話す機会が作れなかったし、多くの時間を取ることができませんでした。

できれば、学校への説明では同席をして第三者機関が介入していることがわかれば、顧問が誘導的な質問をして、被害を矮小化するような対策をすることはなかったかもしれません。

顧問の先生からは、「はじめっからあんたが来てれば、こんなことしなかった!罠にはめやがって」と文句言われましたから。

ただ、私が顔を出さなくても、本来あるべき姿は、被害者を説得して親を悪者にするのではなく、問題に真摯に向き合い、被害者の安全確保や加害者の更生のために、いち早く動くべき、であるはずです。

それより先に、全教育機関に言えることですが、徹底した予防教育とそれに伴う環境整備をお願いしたい。

今回、A君は被害の期間が短く、まだ本人に気力が残っていました。こうしたことには個人差もあるし時期や運など多角的な要因があります。

A君は私に先に相談して、実際にどうなっていくかの予想やその根拠を聞いていたから、心の準備ができていたと話してくれました。もし話を聞いていなかったら、学校の対応にショックを受けて、もう何も信用できないじゃん、ってなっていたとも言っていました。

そして、録音はある意味保険だねっていう話もしてくれました。

録音が無ければ真実が隠されてしまうというのは何とも世知辛いところですが、今のところ、最善策であろうと思います。

ちなみに私もDVをしていたことを隠し、我々を騙して依頼をしてきた人から滅茶苦茶な脅迫、命にかかわるような脅しをされました。DV加害者には絶対に加担しないのが、私の絶対方針です。ですので、調査中途であっても断ることになります。

思い通りにならないことで腹を立てたDV男からは、調査を途中でやめる悪徳探偵ぐらいのことを言われましたが、DVを認めた発言や私に暴力行為をしたり、暴言や強要をしている様子がバッチリ録音されているので、今のところ大丈夫です。今では外に出るときは録音しっぱなしが習慣になっています。

転ばぬ先の杖、転ばぬ先の録音というところでしょうか。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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