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ウクライナ苦戦。攻勢強めるプーチンが勝利宣言する「ロシアの日」

プーチン大統領による軍事侵攻開始から3ヶ月あまりが経過するも、未だ終わりが見えないウクライナ紛争。両軍ともに一歩も引かない姿勢を鮮明にしていますが、その疲弊もまた激しいものがあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、刻一刻と変化する当紛争の戦況を分析・紹介。その上で、現時点での停戦は困難であり紛争は長期化するとの見立てを示しています。

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ロシア軍、最後の反撃

ウクライナ戦争の転換点にきている。ロシア軍が主力をセベロドネツク包囲に投入、ルガンスク州の完全な支配をして、当面の勝利宣言をするようである。今後を検討する。

ウクライナ東部での戦争は、ウ軍の主力が、イジュームやボルチャンスクに向けて進軍したが、ロシア軍の主力はセベロドネツク包囲に向けて攻撃しているが、これが成功している。

ロシア軍は、ポパスナ方面でウ軍前線を突破して、セベロドネツクの補給線を切った状態になったが、その後、ウ軍はメイン道路だけは確保したようである。

しかし、ロシア軍はポパスナの高い地点を占領したことで、広範囲のウ軍の動きが監視できるようになり、このため、再度、補給路が切られたようである。この高地にあるロシア軍の榴弾砲や多連装ロケット砲を潰さないと、ロシア軍が有利だ。

この高地の榴弾砲やロケット砲を潰すには、航空戦力が必要であるが、ウ軍には今時点で有効な航空戦力がない。

このため、ルガンスク州のガイダイ知事は、ウ軍の同州からの撤退が「可能性としてあり得る」とした。セベロドネツクはロシアが占領することになる。6月12日の「ロシアの日」を目指して、リマンなども取り、これでルガンスク州全体をロシアは完全制覇して、ロシア編入を進め、勝利宣言をしたいようだ。

この攻撃に、ロシア軍は有効に多連装ロケット砲を使うので、ウ軍は劣勢に立たされている。ロシア軍は、第2次大戦末期ドイツ軍の「バルジの戦い」のような攻撃であり、残り少ない現有の優秀な部隊を集め、それに多連装ロケット砲やBMP-Tなどの温存していた兵器を渡して戦っている。リマン方面でも同様であり、ウ軍はドネツ川東岸から撤退することになるようだ。

これに対して、宇ゼレンスキー大統領は27日、テレビ演説で東部ドンバス地方を死守するために「あらゆる手」を尽くすと明言し、「ミサイル攻撃や空爆、何でもありだ」と述べた。

このような事態になり、強くウクライナはM270多連装ロケット(MLRS)とM142高機動ロケット砲(HIMARS)を要求し、この供与を米国は事態改善のために決定するようだ。しかし、射程300キロのM26ロケット弾の提供はしない。射程70キロ程度のロケット弾だけの提供になる。M777榴弾砲の射程距離は25キロであり、それより長いし、集中的に1ケ所に弾を集めて攻撃できる。

これにより、ロシア軍と対抗ができるようになる、この訓練に1週間程度必要であるが、6月中には実戦で使用されることになるが、セベロドネツクの防衛には間に合わない可能性はある。

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もう1つ、ロシア軍は、50年以上前のT-62戦車を近代化改修して、実戦で使うようだ。T-72戦車の損耗が激しく、1,000両以上が破壊されて、予備がなくなったことで、仕方なく、旧世代の戦車を使うしかない。

このため、戦車を先頭に立てる戦いができないが、この戦車を配備したBTG(大隊戦術群)を複数個作ったようである。これで、再度、ハルキウへ向けて攻撃を再開した。

この攻撃で、ロシア軍は戦車を先頭に攻撃する方法ではなく、攻撃地域への砲撃から開始して、偵察隊を出し状況を見て、その後に戦車隊を送る攻撃手法になり、攻撃速度は落ちたが、確実性は増している。その分、ウ軍の防御は苦しくなっている。今までの手法が使えない。

このような攻撃では、火力の量が勝敗を決定する。また、ZALA攻撃ドローンをロシア軍も使い始めて、ウ軍と同等になってきたが、スティンガーミサイルで撃ち落されているようだ。しかし、ロシア軍も今までの敗戦を反省して、攻撃手法を見直しているので、今までのような負け方はしなくなってきた。

このため、現時点での火力の量は、セベロドネツク方面攻撃のロシア軍の方が上であり、火力が少ないウ軍の苦戦が目立ち始めている。ロシア軍の集中した物量作戦がやっと、有効に機能し始めたようである。

この苦戦を乗り越えるには、ウ軍に訓練の必要がないMIG29の拡充やF-16Vでの航空力のUPとMLRSやHIMARSなどの火力の増強が必要になっている。その到着で戦況が変化するはずであり、逆にそれまでに、ロシア軍は占領地を増やして、停戦して有利に交渉を進めたいようである。

このようにロシア軍が、やっとこの戦争に適合し始めたが、西側の制裁で兵器工場の操業停止で、弾薬とミサイル不足と戦車などの装備不足は続いている。このため、どこかで停戦しないと、物量や火力の逆転になり、ウ軍が勝ち始めることになる。

そして、ロシア軍の元将校のボタシェフ氏63歳が戦死した。SU-25でウ軍攻撃中にスティンガーミサイルで撃墜されたが、老人が前線で活躍しないといけないほど、パイロットが不足しているようである。ロシアの平均寿命は男性69歳であるから、63歳は十分老人である。

ボタシェフ氏は、民間軍事会社ワグネルの雇用兵として従軍していたが、パイロットなどの熟練度が必要な兵の不足が目立っているようだ。50歳以上のパイロットが多数いて、かつ複数戦死している。

その上、戦闘機は200機以上が破壊されて、ロシア軍VKSは空爆もできない事態になっている。出撃回数が大きく減ってきている。ヘリの損耗も大きく、Z-20Kという中国製ヘリも登場している。

このため、志願兵の年齢制限をなくして、技能熟達が必要な兵の補充を進めるようである。IT技術者や通信兵なども技能者が必要であり、その補充もできるようにする。

核利用の前に、まだまだロシアには人的資源があり、それを利用した戦い方があるはずであり、戦争当初は、攻撃スピード重視で進んだことが、負けた原因であったようである。

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ここからは、米国もロシア軍の装備に対応した兵器をウクライナに提供しないと、ロシア軍を撃退できないことになる。ウ軍の負けは西側の敗北となるので、米国もウ軍支援に必死である。もし負けると、次は中国の台湾進攻となり、負けるわけにはいかない。

資金的にも、天然ガスは中国が大量に買い、石油はインドと中国が買っているので、外貨は不足していない。また、中国の人民元を使い、海外との送金入金もできるので問題がないとしていた。

その状況で、ロシア国債のテクニカル・デフォルトになる。まだ、その判定が出ないが、近々、そのようになる。このことで、シルアノフ財務相は27日、ウクライナでの「特別作戦に巨額の資金が必要だ」とし、3ケ月を超えたウクライナ侵攻の財政負担の重さを認めた。デフォルトでロシア国債の販売ができなくなることは、大きな痛手になるようだ。

しかし、ルーブルは上昇している。この原因は、ルーブルを金本位制に復帰させたことのようであるが、自由にお札を刷れないことになる。財政的な問題があっても、量的緩和で財政出動ができなくなることを意味する。財政問題に直面し始めたようだ。

もう1つ、このままにすると、財政問題がありながら、長期戦になり、ロシアもウクライナも疲弊することになる。ロシア軍は当初戦力の19万人の内、今いるのは半分の10万人であり、10万人を新兵で補充しても、戦車兵でも訓練が半年は必要であり、どこかで戦力不足になる。ウ軍は国民皆兵であり、ロシア軍より動員力はあるが、それでも損耗が激しいようである。

ということで、どう戦争を終結させるかが問題であり、ダボス会議で、キッシンジャー氏は、ロシア敗北濃厚な状態では核戦争になり、欧州に悲惨な結果をもたらすから、ウクライナは国内分割でも我慢して、ロシアとどこかで停戦するべきであるとしたが、ゼレンスキー大統領やソロス氏は、2月24日以前の状態にするまで戦うという。

現時点では、どちらもどの条件でも納得できないことと、ロシアの疲弊で国内的に限界になるまで、停戦は難しいのであろう。まだ、長く戦うことになる。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2022年5月30日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Sviatoslav_Shevchenko / Shutterstock.com

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