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アイディアが斬新。人気の学食運営会社が学生を経営参画させるワケ

学生たちに美味しい食事をリーズナブルに提供することが何よりの命題である学生食堂の運営において、独自のノウハウで快進撃を続ける企業が注目を集めています。そんな事業者の成功の歩みを取り上げているのは、『月刊食堂』『飲食店経営』両誌の編集長を経て、現在フードフォーラム代表を務めるフードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、東洋大学白山キャンパスの学生食堂を手掛ける株式会社ORIENTALFOODS代表の米田勝栄氏への取材を通し、同社の例を見ない学食運営法や、その現場で得た知見を生かした新しい飲食業展開、さらに米田氏が描く今後の同社と学食との関わり方等々を紹介しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

「日本一の学食」のノウハウが注目され学食運営を続々と任される

大学の「学生食堂」(以下、学食)のミッションは、街の飲食店より安い価格で学生に食事を提供することである。そしてそれが今日では、より高い価値が望まれている。それはまず、学食は「食材」を扱う場所であることから、地元産品を活用する「地産地消」の場となること。大学は研究機関であり、この実験的な場所として生かすことができること。利用者の中心が学生で、これらの学生を雇用することによって一般的なアルバイトよりも身近な職場として仕事に接してもらうことができること。そして、これらの試みが大学のブランディングに大きく結びつくことになる。

オープンキャンパスは、これらを披露する絶好の機会である。学食は食事が安くておいしいことが一番に重要。さらに、上に述べたことが十分に生かされていると「ここの大学に入りたい」という動機に結び付いていく。このような学食は情報発信基地となり、普段からさまざまな媒体で取り上げられることであろう。そこで今回から2回にわたって、斬新な試みを行っている学食の事例を紹介したい。

バーの運営受託の手腕が買われ学食カフェを立て直す

「学食ランキング」というものがある。この始まりは早稲田大学のサークル「早稲田大学学食研究会」によるもので、1999年より都内を中心に全国の大学学生食堂のランキングを発表している。評価対象は「料理の質・価格・学食の雰囲気」でそれを総合的に評価している。これは同サークルが独自に行っていることで、厳密な客観性は存在しない。

これで例年「第1位」に選出されているのが「東洋大学白山キャンパス6号館地下1階」の学生食堂(以下、学食)である。同施設は客席数1,300、ここに7つの専門店(インドカレー、カフェ、パスタ、洋食、鉄板ごはん、窯焼き料理、韓国料理)が出店し、フードコートの形態を取っている。類似のランキングは数多存在し、同施設は常に「学食日本一」となることから、同施設はその定説となった。

日本一の学食「東洋大学白山キャンパス6号館地下1階」は1,300席でフードコート形式

この中で、洋食、鉄板ごはん、窯焼き料理の3店舗を営んでいるのが株式会社ORIENTALFOODS(本社/東京都品川区、代表/米田勝栄、以下オリエンタルフーズ)である。同社はこの施設の中で、3つの店舗の他に「洗い場」の運営と7店舗全体のマネジメントを担当している。そしてこの同社は、いま専門家の間では今日学食のエキスパートとして認められている。

同社が設立されたのは2006年8月。代表の米田氏は1974年3月生まれ。専門学校を卒業後、都市ホテルのバーテンダー、オーストラリアでのワーキングホリデーなどさまざまな形で飲食業を経験。2004年30歳の時に個人事業主としてバーを運営受託した。この時、東洋大学学食の一部でカフェの立て直しを任されることになった。そこで同社は当初日商3万円に満たない店舗を17万円あたりまで引き上げた。

このカフェの運営はリセットすることになり同社の運営受託はいったん終了。その後、リニューアルする過程でこの施設をプロデュースする会社から出店を要請される。それが現在の3店舗となり、さらに「洗い場」業務と同施設のマネジメントが加わった。

学食の長い休業対策として新しい飲食業に着手

学食運営の事業者にとって大きな課題は、大学が年間約4カ月間休業し、この間学食を運営できないということだ。オリエンタルフーズはこの休業期間に一般の飲食店のオペレーションを臨時で請け負うことで売上をまかなっていた。それが東京・五反田の東急池上線高架下の「五反田桜小路」に肉バルやワイン販売店を出店することによって、常設の飲食店を構えることができた。これによって後述する五反田のイベント等に参加するようになり、このノウハウが整っていくにつれて事業内容が広がっていった。

また、フードトラックの事業にも着手。きっかけは学食運営で培ったスピーディな調理、販売予測とロス管理のノウハウがこの分野に生かせると考えたからだ。これを手掛けるようになってから、産地との関係性が深まるようになり、淡路島、鹿児島、北海道、山口、高知、福岡、山梨等々、産地の食材を使用したフードメニューを提供、フードトラックが都会で営業することによって地方活性化につなげるプロジェクトに発展するようになった。フードトラックは現状、3台保有している。

フードトラック事業にも参入し、今や大学のキャンパス内で学生が運営している

フードトラック事業によって全国の生産者との交流も生まれ、産品の活用を推進している

オリエンタルフーズでは、東洋大学での学食、五反田でのリアル店舗、フードトラックと店舗運営の形態が広がっていったが、それぞれの運営に関して学生に積極的に参画してもらう仕組みをつくっていった。これは学食で学生に触れる機会が多い中で米田氏自身がひらめいたという。米田氏はこう語る。

「学生のアイデアは斬新で、それが実際の営業に新しいアイデアとして生かされると働いているわれわれが触発される。そして、アイデアが採用され実績として表れた学生にとって、その教育的効果はとても大きいと考えるようになった」

五反田桜小路でリアル店舗を構えたことがきっかけとなり、五反田駅前の肉フェスである「五反田G1グランプ」に参加するようになった。同社はここで2014年と2019年に優勝しているが、2019年に優勝した「伝説の牛カツ赤ワインソース」は学生アルバイトが提案した企画であった。この他、肉バルでも学生アルバイトのアイデアをメニュー化した事例が数多くある。

学生を経営参画させることによって生まれたメニューが肉フェスで優勝

このような活動が、2020年3月放送の『カンブリア宮殿』(テレビ東京)で紹介されたところ、大きな反響があった。それは「新しい学食運営」の依頼である。

オリエンタルフーズでは外国人雇用を積極的に推進している

学食の運営受託事例が増えFC展開を展望

その第一弾は、桃山学院教育大学(大阪府堺市)。オリエンタルフーズが同校から求められた「新しい学食運営」の在り方とは、このような内容だ。

  1. スマート食堂(モバイルオーダー、AI、テクノロジーの導入)
  2. ベンチャー食堂(経営体験、メニューコンテスト、空きスペースプロジェクト)
  3. FOODFOODプロジェクト(地域とつながる、地域活性化)

まず、1.の「スマート食堂」とは。「並ばない」「触らない」「非接触」のモバイルオーダーをはじめ、これからはAIによってその日の注文予測や1カ月先の売上などが分かることから、食品ロス問題や残飯問題なども解決。売店には無人レジの導入も検討。

2.の「ベンチャー食堂」とは。食堂や売店の空きスペースをビジネス的に活用する提案であり、食堂のメニューコンテストなども含まれる。洗い場を手伝った対価として食事が無料となる企画等々、食堂がきっかけとなったアイデアを引き出す。

さらに、3.の「FOODFOODプロジェクト」とは。学食が地域と連携することによって地域活性化と地域社会貢献につながる。地産地消をはじめ、子ども食堂の導入など地域の人々にも活発に学食を利用してもらい、学食を地域社会になくてはならない存在にする。

プロデュース会社である株式会社アンデレパートナーズと提携し桃山学院教育大学での学食運営は2021年4月から受託。さらに、桃山学院大学(大阪市和泉市)の学食運営を今年4月から受託、神戸国際大学(兵庫県神戸市)の学食運営を今年9月からの受託を予定している。

この4月から桃山学院大学(大阪市和泉市)の学食を運営受託している

米田氏によると、オリエンタルフーズ直営での学食運営はここまでと想定。これ以降は同社が築いてきた学食運営をFCで展開していくという。

オリエンタルフーズ代表の米田勝栄氏は「学食のFC運営」を展望している

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社ORIENTALFOODS , 株式会社アンデレパートナーズ

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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