MAG2 NEWS MENU

「中国が技術を盗む」という“いまさら”批判の裏側にある本当の意図

中国が先端技術などの知的財産を欧米から盗んでいるというイメージは根強く、この7月にも中国によるスパイ行為に警鐘を鳴らすかのような記事が国内外で相次いでいます。こうした言動が繰り返される理由をメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんは、「中国のイメージダウン狙い」と明言。読売新聞が報じた中国国内での複合機の設計・製造の規制強化については、利益追求の企業側、経済安全保障、米中対立の3つの視点で読み解けば、驚くようなことではないと伝えています。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

中国が技術を盗むという「いまさら」批判の裏側にある本当の怖さ

安倍元総理銃撃という参議院選挙中の驚くべきニュースが世間を騒がせた。その余波も冷めやらぬなかだが、最近の中国関連で気になった2つのニュースの話題から話を始めたいと思う。

1つ目は『読売新聞』が7月3日にネットで配信した記事で、タイトルは〈複合機、中国国内での設計・製造要求…日米「事実上の技術強制移転だ」強く懸念〉。

もう1つは、欧米系のメディアが中心に7月7日に一斉に報じられた記事で、こちらのタイトルは、〈FBIとMI5の長官がそろい踏み、中国のスパイ行為に警鐘〉(CNN)だ。

記事の内容は違っているが、扱おうとしていることは大枠で一致している。中国が相変わらず外国企業から不当に技術を奪おうとしているという批判だ。『読売新聞』の記事はともかく、中国はいつもの如く反発するというやり取りが展開された。

正直なところ「またか」とうんざりする気持ちだ。というのも、「では、どうすればいいの?」という問いに答えがないからだ。大騒ぎしてみたものの、結局、何も変わらなかったという未来は見えている。

CNNなどが報じた「FBIとMI5が……」という記事は、米英の意図が中国のイメージダウンにあることは言を俟たない。スパイ行為や法律違反があるならさっさと逮捕すればよい。ルール違反ならば処罰し具体的な事例を公開すればよいだけの話だ。逆に言えば、それができないのはそういう話なのだ。

このメルマガでも触れたようにトランプ政権が「中国のスパイを捕まえる」と鳴り物入りで進めてきたのがチャイナ・イニシアチブだ。しかし、3年間力を注いできたにもかかわらず何の成果も得られないまま幕を閉じたのは周知の事実だ。

だが、中国には、「そういうことをしそうな国」というイメージが定着している。だから「当局」が会見すれば、メディアは自分で検証することもなく世界中に情報をばら撒いてくれる。そういう図式だ。

一方の『読売新聞』の記事のテーマは〈中国政府が、日本を含めた外国オフィス機器メーカーに対し、複合機などの設計や製造の全工程を中国内で行うよう定める新たな規制を導入する方針〉への警戒だ。それは〈政府機関の国家市場監督管理総局が「情報セキュリティー技術オフィス設備安全規範」の名称で策定を進めているもの〉だという。

記事を読めば「中国は恐ろしい」という印象を受けるが、3つくらいの視点から考えてみれば驚くべきことでも、予想外のことでもないことが分る。

そもそも工場の海外移転では、移転先の国が求める内製化率向上の要求との戦いは避けられない。それがルールを逸脱した要求ならば、対処の方法はある。だが、ギリギリの攻防ではマーケットパワーやライバル企業との駆け引きのなかで企業が決断するしかない。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

現在のように中国市場が巨大となり、また「日本がやらないならドイツの企業に」と中国側からプレッシャーをかけられる状況では妥協もせざるを得ないだろう。実際、90年代の中ごろから日本企業はこうしたギリギリの駆け引きを繰り返してきた。

苦渋の選択を迫られながらも圧倒的に多くの日本企業が中国から離れなかったのは、偏に儲かったからだ。かつて三洋電機とハイアールとの間で発生したトラブルを現地で取材していたとき、ある日本の経営者からこんなことを言われて納得したことがある。

「いくら危険だから行くなといわれても企業は儲かれば行く。逆にどんな良い国だと言われても儲からないなら行かない」

従来からあるこんな企業経営者の決断に、いま新たな要素が加わり、状況をさらに複雑にしている。そのキーワードが当節流行の「経済安全保障」だ。

読売新聞の記事も半分は「経済安保」の問題として書かれていると思われるが、その視点でみれば中国の狙いは技術だけではなくデータにも向けられていることが分る。データをめぐる動きであれば見方はさらに複雑だ。

昨年3月、中国政府はテスラ車の車載カメラに対する警戒から一部の地域への乗り入れを規制する動きを見せた。これは安全保障上の警戒と同時に商業的な理由が考えられる。中国で手に入れたデータをきちんと自国利益とつなげてゆこうという考え方だ。

さらに政治的な意味も見落とせない。とくに米中対立の視点から中国が見据えているのはアメリカへの対抗手段だ。これまでアメリカは、「安全保障上の懸念」を理由に多くの中国企業を排除してきた。なかでも、ファーウェイの米政府機関からの締め出しは最初の一歩だった。

トランプ政権の発動した制裁関税に対し中国も制裁関税で応じたように「経済安保」でも対抗する姿勢を見せ始めたと考えるのが自然だ。アメリカが「安全保障上の懸念」というのであれば中国にも同じ警戒感があるという理屈だ。

ファーウェイのバックドア疑惑では何の根拠も示されないまま同社は排除された。この問題で中国が反発したのは、経済を犠牲にする政治パフォーマンスに対してだ。事実、制裁関税によって損失を被ったのは中国よりもむしろアメリカの消費者であった。そしていま、インフレに苦しむアメリカは、その解消のために対中制裁関税の解除へと動き始めている。制裁関税の発動でアメリカはいったい何を得たのだろうか。(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年7月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

image by: Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け