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二度と無いチャンスを放棄。安倍氏国葬からプーチンを排除した日本政府の愚

ロシアの軍事侵攻開始から5ヶ月が経過するも、未だ混迷が続くウクライナ情勢。その対応等を巡り、世界に分断と混乱が広がりつつあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、G7諸国の行き過ぎた反ロシア姿勢が他国からの反発を招いている現実を紹介。さらに日本政府に対しては、安倍元首相の国葬からのプーチン大統領締め出しで、直接的にロシアに働きかける機会を放棄した姿勢を疑問視するとともに、中国、ロシア、トルコが影響力を増大させている国際社会において、どのような立ち位置を確保するのかを確定させる必要性を訴えています。

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聞こえなくなったウクライナ戦況。それでも世界を襲う「混乱の渦」と「複雑化」する国際情勢

ウクライナでの戦争が現在進行形である中、今週の情報交換や議論の中で、2月24日以来、恐らく初めて【ウクライナの惨状】や【戦況】の話が出てこない週になりました。

とはいえ、もちろん間接的には“ウクライナの問題”は関係しています。

その一例が【ロシア・ウクライナ・UN・トルコの4か国を“当事者”にした合意】です。

これは黒海におけるロシア艦隊による海上封鎖によってウクライナからの穀物(特に小麦)の輸出が滞っている問題を解決しようとする協議で、トルコ政府による仲介の一例です。

内容の詳細についてはニュースなどを通じてご存じかと思いますのでここでは触れませんが、今回の“合意”を前向きと捉えるかは微妙ではないかと考えます。

その一因は【合意がロシアとウクライナの間で交わされた直接合意ではない】ということです。

これはそれぞれがトルコとUNを相手に締結した内容であり、双方の合意ではないところに落とし穴が存在します。

その証拠に、合意締結後、ロシア軍が黒海に面し、そしてウクライナからの物資が運び出される拠点の一つであるオデーサ港を攻撃したことがあります。

ロシア側も、今回は珍しく攻撃を加えたことを認めましたが、その理由として挙げた内容に今回の合意の危なさが見えた気がします。

それは【黒海の運行の安全を損ねているのは、ロシア軍による封鎖ではなく、そもそもウクライナが撒いた機雷の存在であるのに、そのことに触れられておらず、根本的な問題が解決されていないこと】と【ウクライナからの物資の輸送に対する安全確保について触れられている半面、ロシアからの物資の輸送の安全確保については約束に入らなかったこと】そして、【オデーサ港が欧米諸国からの物資輸送の拠点になる危険があることが分かったから】という理由でした。

3つ目については、その真偽のほどはわかりませんが、トルコ政府の友人も認めている通り、「この合意の当事者に欧米諸国が入っておらず、その内容を必ずしも評価しているわけではないことから、ロシア政府による懸念を一概に妄想と扱うことは適切ではない」と思われます。

とはいえ、攻撃が正当化されるかと言えば、それはまた別次元のお話だと考えます。

この話し合いと並行して、ロシアが起こした欧州各国への揺さぶりと脅しが「ノルドストリームによるロシアから欧州への天然ガスの供給を通常の20%にまで絞る」という発表です。

表向きは【カナダで修理中だったGE製の部品の修理が、欧米による経済制裁で遅れ、その輸送がままならないこと】と【パイプライン稼働再開にあたり、テクニカルな問題が起きた】というものですが、どこまでそれが本当かは分かりません。

恐らく何らかのテクニカルな問題は発生したのだと思うのですが、主因は【欧米による制裁への抗議】と【欧州のエネルギー安全保障の生命線を今でもロシアが掌握していることを思い知らせたかった】ことだと考えます。

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EU全体では、フォンデアライデン委員長が発表したように、「今後5年以内に域内の天然ガス利用を現在比で15%削減することに合意し、それによってロシアへの依存を下げる」という姿勢ですが、ノルドストリームに依存するドイツやイタリアなどは、長引くウクライナでの戦争とロシアへの制裁の悪影響と負担が結局自らに降りかかっていることに対する国民・消費者の不満が爆発しており、域内および同盟国間での結束よりも、自国の生存の重視に舵を切る必要がでてきたことで、今回のロシア・ガスプロムによるガス供給の“実質的な停止”という脅しは、見事に国内世論への働きかけに成功してしまっています。

先ほどの穀物価格の著しい高騰に加え、生活の糧となるエネルギーの供給が、ウクライナでの戦争とロシアに対する制裁の副作用として、じわりじわりと、しかしずっしりと家計に響きだして、対ウクライナへのシンパシーは口にするものの、まずは自分たちの生活が成り立たないといけないという内向きな感情と危機感にすり替わってきています。

この国民・消費者の内向きな感情、そしてウクライナ離れ、そして政府の方針への反感の増大に対して、ドイツのショルツ政権も、フランスのマクロン大統領も十分に対応できていません。

そしてこの2人とキーウを訪問したイタリアのドラギ首相(もう元首相でしょうか)については、国内の5つ星運動の支持を失い、ついに首相の座を降りることになってしまいました。イタリアについては、元々政権運営の安定性に不安がありましたが、今後、誰が首相になっても連立政権になることは避けられず、これまでのようにウクライナにシンパシーを示すような方針が維持できる見込みは非常に低いと考えます。

これでウクライナはドラギ首相という盟友を失うことになりましたが、“ウクライナの友人”で、かつ権力の座から引きずり降ろされたのが、ジョンソン英首相です。

ウクライナの人たちからは友人と評価されていますが、実際には自らと周辺の数々のスキャンダルへの追及をかわすために、ウクライナでの戦争と、それに対する英国のコミットメントを用い、国民感情と議会の感情を操作しようとしたようですが長続きせず、結局、身内から引きずり降ろされる羽目になりました。

次に首相になるだろうと思われる候補者お二人のどちらが選出されても、十中八九、現在のジョンソン流のウクライナへのコミットメントが保たれることはないと思われます。

かといって英国がロシア・ウクライナ間の戦争から手を退くかと言えばとんでもなく、直接的な武力紛争という形式ではなく、情報戦という、英国が旧ユーゴスラビア、そしてコソボでも用いたお得意の手段を通じて国際的な反プーチン・反ロシア世論を形成しようとしています。

それが最近、至る所でMI6の局長が様々なAnti-ロシアの情報に言及しているのが一例です。

例えば今週に入って「ロシアはドンバス地方での優位性を保てなくなってきている」と言ってみたり、時にはプーチン大統領の重病説を流し、ポスト・プーチンの有力候補の“紹介”をしてみたりして、ロシア国内外の世論と、今回の戦争・紛争・侵略に対する意識を変えようとしています。

ただし、実際の戦況がどうかは伝えずに。

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そして今回に入ってロシアへの直接的な働きかけ・揺さぶりの一環として、アメリカのCIAと国務省の協力を得て「ブリンケン国務長官とラブロフ外相の電話会談が開催される」という情報を流しました。アメリカ側は27日・28日にでも開催されるといったものの、ロシア外務省は寝耳に水で、「そのようなオファーは受けていないし、現時点でアメリカと話し合うことはない」と否定していますが、欧米メディアはすでに“この外相会談が行われるもの”として報じることで、この“外相会談”をセッティングしようとしています。

国際世論の位置を確かめ、ロシアの出方を探るための一種の観測気球的な情報戦略ですが、仮にこの外相会談が実現した場合、「何を議論するのだろう」という疑問以上に気になるのが、「当事者であるウクライナ政府が全く蚊帳の外に置かれていて、大国同士でウクライナの運命を決めるのではないか」というディールの存在です。

アメリカとしては、先の“黒海マター”から外され、EUは同盟国として足並みを揃えているはずが、対ロで独自の動き(特に独仏イタリア)を取り、あわよくば中国とも手を組んで、ロシアと手打ちをしようとしている現状に危機感を覚えたのか、2月24日以降拒んできたロシアとの直接対話を行うことで、再度、表舞台のコンダクターに返り咲こうという狙いも透けて見えます。

ウクライナへのNATOを通じた軍事的な支援を約束したものの、欧州各国がその約束内容を履行するのに遅れていることもあり、アメリカからの支援が規模で突出している状況は、アメリカ国内で評価されるどころか、今では非難の材料にされていることから、幕引きの主導権を取ることで国内向けのアピール材料を確保したいとの狙いですが、プーチン大統領の下で外務相として仕え続け、まさにロシア外交の顔でもあるラブロフ外相の百戦錬磨の術に、ブリンケン国務長官がどこまで対応しきれるか、実に興味深いです。

欧米諸国は個別にこのような情報戦を仕掛けていますが、集団としての情報戦、そして仲間づくりは決して成功していません。

今、G7諸国はG20の各閣僚級会合の場でロシアはずしを画策し、インドやブラジル、アルゼンチン、議長国インドネシア、サウジアラビア王国などを欧米側に付けようとしていますが、逆にG20内の分断を明確にし、G20を無力化し、そして行き過ぎた反ロシア姿勢の徹底が、自らの孤立を招く結果になっていると思われます。

特に財務大臣会合などで行われるG7各国による対ロボイコットの動きは、他のG20諸国の反感を買い、多くは“G7の奢り”とまで非難する結果を招いています。

それぞれロシアによるウクライナへの軍事侵攻については手段として間違えていると批判するものの、一方的にロシアを批判し、無視し、制裁を課すというやり方には与することはできないとの姿勢を、今までになく鮮明にすることに繋がりました。

そして一番まずい状況なのが、G20の各会合で“通常”作られる【共同声明】を作らせないというG7各国の動きで、これは議長国インドネシアの顔に泥を塗ることになり、面子を重んじるアジア型の協議方式に反する暴挙だと取られています。そしてこの非難の矛先は、実は“同じアジア”の日本に向けられていると言われています。

今後の対アジア外交方針を考える際、戦後、蓄積してきたアジアにおける日本としての信頼を失うことがあってはいけない点に注意すべきでしょう。

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さまざまな紛争の解決に携わり、敵対する当事者同士の間に入って話し合いを進めてきたものとしては、話し合いの機会をボイコットするのではなく、気に食わなくても、相手が参加して意見を述べるのであれば、その場を提供し、言い分を皆の面前で展開させ、そのうえで、ロシアの代表も交えた喧喧囂囂の議論をやりあうべきではないかと考えます。

そして不思議でしかたないのが、「どうしてこれをしないのだろうか?」という疑問です。

ドイツ滞在時に紛争調停グループのメンバーたちと久々に対面で議論する機会がありましたが、その際に「日本も含め、G7メンバーは何かロシアと直接話し合うことができない弱みをロシアに握られていて、それを国際社会に暴露されるのを怖がっているのか?何かやましいことでもあるのか?」と指摘されました。

この答えを私は知る由もありませんが、今回のG7諸国の振る舞いに対しては、私も何とも言えない違和感を抱いています。

そしてその極めつけが、日本国内でも賛否両論の議論が行われだした【9月27日に開催される安倍元総理の国葬にロシアのプーチン大統領の出席を認めない】という方針です。

国葬は政治的な性格はなく…という説明をしておきながら、ロシア絡みでは思い切り政治マター・外交マターにしてしまっているのはどういうことなのでしょうか?

生前プーチン大統領とは特別な関係を築き、あまり感情を表に出さないプーチン大統領をして、非常に悲しみに暮れた感情的な弔電が寄せられているわけですから、もしプーチン大統領が出席を望むのであれば、非政治的な観点から認め、ついでにその機会を捉えて、水面下で極秘裏にプーチン大統領への直接的な働きかけを東京で行うという設えをしたほうが賢明だと考えるのは私だけでしょうか?

頭ごなしに拒否し、意見を述べ、議論を行う機会も与えないのは、最大限の抗議だという人もいますが、それよりは「来られるものなら来てみろ。どの面下げてくるんだい?」ぐらいの心持でいて、堂々と意見を述べ、議論を行う門戸はこちらからは閉じないよという姿勢を取るべきではないかと思いますがどうでしょうか?

現在、G7諸国がG20のみならず、国際社会での孤立が逆に進んでいる中、プーチン大統領とロシアのプレゼンスが以前以上に上がっているように思います。

先日のイランとトルコとの首脳会談もそうですし、度重なるエルドアン大統領との直接的な対話(注:ゼレンスキー大統領とエルドアン大統領はまだ会っていない)もそうですが、逆に露出が増え、英国などが仕掛けた情報戦の嘘、特に体調不良についての嘘が明らかになるという誤算が起きています。

そして欧米諸国の対応は、これまで以上に「先進国の身勝手・エゴ・上から目線」というように途上国では見られはじめ、アジアやアフリカ、ラテンアメリカ諸国での欧米諸国の影響力は著しく低下しているという傾向が見えます。そして、そこに浸透してきているのが、批判も多々ありますが、中国の経済力と内政不干渉の原則に基づいたアプローチと、エネルギーと軍事力を用いるロシア、そして好き嫌いが分かれるものの、トルコの絶妙な立ち位置に戻づく姿勢でしょう。

そして欧米メディアの目がウクライナ関連の中身に集中しがちな中(BBCを除く)、アジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国では大きなうねりが見えます。

その顕著な例が最近起こったスリランカでのデモと大統領の追放・国外逃亡というショッキングな事例です。

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私もかつてタミールの虎に関わる和平調停に携わり、その結果、スリランカの外交安全保障のアドバイザーに任命されたこともあり、現在のスリランカでの混乱には胸を痛めると同時に、新たな希望の種も見ていますが、これまでの開発モデルとの大きな違いが「誰が一番コミットするか」という主体です。

これまでは国連、英国、アメリカ、欧州各国、そして日本がバックアップしてきましたが、今では良くも悪くも中国の圧倒的なプレゼンスがあり、完全に中国経済圏に組み入れられています。

今回、コロンボにいる友人から「欧米各国はスリランカを失った」と言われましたが、まさにその通りのことが起きていると思われます。

同様のことは、アラブの春が起きた“民主主義国家”チュニジアでも進展し、今や憲法学者で2019年に大統領に就いたサイード大統領の下、大統領権限を大幅に拡大する国民投票を通じて、権力の拡大が広がる形態は、いろいろな情報を下に分析を加えると、巧みな情報操作とリーダーの神格化などを通じて一種の独裁体制を築く中国共産党型とロシア・プーチン帝国型を採用して、リーダーシップとカリスマの構築を急いでいるように思われます。

これまでならここでアメリカが口先介入し、欧州も口うるさく民主主義の重要性を説いていましたが、今はウクライナ問題と国内情勢で手いっぱいで、チュニジアにまで手が回らない中、確実に中国に勢力圏を奪われていっています。

そしてその状況は同じアフリカで民衆の悲劇を拡大させており、エチオピアでは北部ティグレイ州との戦いが泥沼化し、政府軍によるティグレイ人のジェノサイドも噂される中、エチオピア政府とアビー首相を救うのは、大きな投資を行ってきた中国と、軍事的な支援を強化してきたロシア、そして教育と社会制度を充実させるために尽力してきたトルコです。

それぞれに“国内での民族問題”を抱える身としては、あくまでもリーダーレベルでは、権力に抗う反対派と戦うアビー首相へのシンパシーが大きいのでしょう。

かなり話がいろいろなところに飛んでしまいましたが、コロナの世界的なパンデミックを皮切りに世界が協調から分断に移行し始め、そこにウクライナへのロシアによる軍事侵攻をめぐるスタンスの異なりの鮮明化により、世界の分断と緊張、そして混乱の極まりはデフォルト化し始めました。

日本はどっちつかずでかつ目立たないけど、まじめな外交姿勢から、G7と歩みを共にするという方針転換を明確化し、昨今の国際情勢を泳ごうとしているように見えますが、今後、分断が明確化し、協調の機運がしぼんでいく国際社会において、どのような立ち位置を確保するのか。

しっかりと明確に方針を示し、確実に行動するための戦略を練り、確定する必要があると考えます。

その戦略とはどのようなものでしょうか?

私は私なりの答えを持っていますが、皆さんはどうお考えになるでしょうか?

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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