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North Korea - South Korea peace concept

5年空席だった北朝鮮人権大使。韓国はこれから北とどう向き合うのか

5年もの間空席だった韓国における北朝鮮人権大使のポジションが埋まることになりました。そこで今回は、韓国在住歴30年を超える日本人著者がメルマガ『キムチパワー』の中で、任命された李シンファ教授のインタビューを引用し、その詳しい役割について語っています。

李シンファ_ 北朝鮮人権大使

高麗(コリョ)大学政治外交学科の李シンファ教授が、北朝鮮人権国際協力大使(以下北朝鮮人権大使)に抜擢され、7月28日、朴振(パク・ジン)外交部長官から尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領名義の任命状を受け取った。

2016年に施行された北朝鮮人権法により、文在寅政府初期の2016年9月、イ・ジョンフン初代大使が就任したが、1年任期を終えて退いた後、後任人選が行われず、5年間空席だった。

北朝鮮人権大使は各分野に専門性と認知度を備えた人物に「大使」の職名を付与し外交活動ができるようにする「対外職名大使」で非常勤務報酬だ。(東亜日報ベース)

尹大統領は候補時代、「北朝鮮人権改善のための国際協力を強化する」とし、北朝鮮人権法の充実した執行と国連北朝鮮人権決議案の共同提案国への参加などを公約した。

李教授を北朝鮮人権大使に任命したのは、公約を実践することであり有名無実化した法制定の趣旨を生かすためだ。

李教授は国際連合(UN)など国際機関関連業務を数年間遂行した多国間外交安保専門の国際政治学者で、「人間安保(human security)」など普遍的な視点で北朝鮮の人権に接近しなければならないという論文を多数発表してきた。

南北関係に大きな影響を及ぼしかねない敏感なイシューである北朝鮮人権を担当する重責を任せたのは、このような活動経験などが背景に作用したものと分析される。

李教授は任命状を受け取った直後、外交部担当記者団との懇談会と大学研究室で東亜日報記者とのインタビューで、北朝鮮人権大使職任命の意味と今後の計画などを明らかにした。

Q:南北和解と協力、交流のためというが、文在寅大統領時代、韓国政府は国連の対北朝鮮人権決議案にも参加しないなど、北朝鮮人権問題は放置されていた。

A:北朝鮮人権大使任命は、尹錫悦政府が人類普遍的価値である人権の面で、北朝鮮人権改善のために国際社会とともに努力していくという意志の表明だと信じている。

大韓民国のアイデンティティは憲法に出ているように、自由民主的基本秩序に基づいた民主共和国だ。民主主義は人権発展の歴史と脈を共にしてきた。人類普遍的価値である人権を増進することは、政権の性格や政治的目的などいかなる理由でも妥協は許されない目標だ。

韓国は、南北が戦争なく平和に共存することを切に願うが、北朝鮮住民の人権蹂躙まで無視して沈黙することは、グローバル中枢国家であり、四半世紀ぶりに民主化と経済発展を成し遂げ、多くの国家のモデルになる大韓民国ができる行動ではない。それは民主国家として最小限の良心と責務を破ることだ。

呉俊(オ・ジュン)元国連大使の言葉のように、韓国にとって北朝鮮住民は他の誰でもない(われわれ韓国人と同一だ)。朴振長官が「北朝鮮の人権は他人事ではない」と言ったのも同じ意味だ。

北朝鮮人権問題を取り上げるのは、北朝鮮政権にとって非常に敏感な問題だが、北朝鮮住民にとっては切実な生存問題だ。5年間空席にして任命時期がすでにかなり遅れたが、意味深いことであり、大使職に重みと責任感を感じる。

Q:北朝鮮人権大使としての活動方向に「2つのトラック」を提示したことが目を引く。

A:北朝鮮人権の活動方向は、大きく見れば「責任究明」(accountbility)と「国際的関与」の2つに圧縮される。第一に、責任究明は北朝鮮の人権状況を記録し、公式文書として保存することだ。加害者や責任者に対する責任追及や処罰が直ちに不可能でも、今後使用できるようにするためのものだ。

2013年に国連人権理事会決議で設置され、2014年に発表された「国連北朝鮮人権調査委員会」(COI)報告書によると、北朝鮮政権による人権侵害と責任究明問題が明確に記されている。その結果、2015年6月にソウルに設置されたのが国連ソウル人権事務所だ。

第二に、国際的関与だが、これは二つの側面がある。一つは国連をはじめとする国際社会との「積極的な参加」(assertive involvement)だ。

韓国政府は人類普遍的価値としての人権守護に対する一貫した立場を持ち、「誰でもなく他人事でもない」北朝鮮人権問題に対する国際的公論化において積極的かつ主導的な役割を果たさなければならない

2019年から3年間、国連の対北朝鮮人権決議案に韓国政府が沈黙した。朴振長官が共同発議に参加すると明らかにしたことを歓迎する。

もう一つ付け加えると、国連ソウル人権事務所は国連管轄の主要人権国際機関で、日本、タイなどとの競争の末、ようやく誘致したが、それに比べれば、これまで政府レベルで協力努力が足りなかったものと見られる。2020年以来、事務所代表も空席であるため、早急な任命が必要だ。

今後、長官・次官が事務所代表と会合し協力方案を模索するなど韓国政府がより高い関心を持ってこの機構を活用し活発な交流がなければならないと考える。北朝鮮人権大使として近く事務所を訪れ、関係者に会って意見を交換する計画だ。

Q:「国際的関与」における人道的支援などを含む北朝鮮との「建設的関与」(constructive engagement)を強調した。北朝鮮にとって人権は圧迫に感じざるを得ない。人権の物差しを突きつけながら支援を強調するのはどういう意味なのか。

A:「建設的関与」とは、国際的関与活動の中に「対北朝鮮人道的支援」を含むものだ。先に説明した責任究明だけを強調すれば、北朝鮮との関係が硬直し、何もできない状況になりかねない。

責任究明という堅固な原則の下、制裁と支援を適切に混ぜて人権改善のための最適点を見出すということだ。 なぜなら、北朝鮮住民の実質的な生活水準を向上させることも人権増進の重要な方法だからだ。

Q:北朝鮮人権大使として重点を置いて推進する具体的な活動を紹介してほしい。

A:最初は統一部主導で推進される北朝鮮人権財団の発足だ。2016年、北朝鮮人権法に設置規定を設けているがまだ放置されている。北朝鮮人権大使の主務部署は外交部だが、多くの省庁と協力し、与野党議員とも積極的に疎通して財団設立が推進されることを望む。

特にこの5年間、外交部、統一部、国情院、法務部、国防部など北朝鮮人権と関連した各省庁の機能が縮小されたり瓦解されたが、このような機能を復活させ、省庁間のシナジー効果を高める必要がある。

二番目は米国との協力だ。5月の韓米首脳会談で両首脳は、北朝鮮の人権に対して深刻な憂慮を共有した。米国の場合、バラク・オバマ大統領執権当時の2009年に任命されたロバート・キング国務省北朝鮮人権特使が退いた2017年以後、まだ空席だ。バイデン大統領は就任後、特使を任命するという公約を守っていない。

たとえ任命しても、特使承認案が上院本会議を通過しなければならない。米国も早急に特使を任命し、協力策を話し合うことができることを期待する。

第三に、国連との緊密な協力だ。韓国と米国で北朝鮮人権大使や特使の席が空席だった期間にも、国連は「国連北朝鮮人権特別報告官(special rapporteur)を維持し続けた。新任報告官エリザベス・サルマン大使が8月1日に任期を始め、8月中に韓国を訪問する予定だ。

韓国と国連の対北朝鮮人権代表の任期がほぼ同じように始まった中で、米国の特使も一日も早く任命され、3者協力がなされることを望む。

(※ ロバート・キング元特使は自由アジア放送(RFA)とのインタビューで、李教授の北朝鮮人権大使任命について、「韓国政府がより積極的な人権政策を推進するというシグナルだと思う」と歓迎の意を示した)

Q:韓国、米国、国連以外にも北朝鮮の人権と関連して推進する国際社会との協力はどのようなものがあるか。

A:欧州連合(EU)の北朝鮮人権活動は非常に積極的で一貫しており、韓国がすべきことをEUがしたという気がする時も多い。韓国の大衆にはあまり知られていないが、ASEANにも「ASEAN政府間人権委員会(Asean Intergovernmental Commissionon Human Rights)」がある。

国連の報告官はアルゼンチンに続き南米のペルー出身が務めた。今後南米にも北朝鮮の人権に対する関心を促したい。国際社会は「考えが同じ国家(like-minded)」に劣らず「考えが同じでない国々(unlike-minded)」と協力することも重要だ。

そうしてこそ「圧力と支援」の2つのトラックで北朝鮮人権増進を推進することにより広範な支持を得て説得力と効率性を高めることができる。

Q:北朝鮮人権大使が関心を持つべき「北朝鮮人権」と言えば、その範囲が北朝鮮住民の生活環境や政治犯収容所の人権侵害など、北朝鮮内部に限られるのか。

A:北朝鮮人権法の北朝鮮人権記録センターの活動範囲が参照になりそうだ。資料と情報を収集、研究、保存、発刊する範囲が例示されている。北朝鮮住民の人権実態だけでなく、韓国軍捕虜、拉致被害者、離散家族に関する事項だ。

統一部長官が必要だと認める事項もある。北朝鮮人権大使の責務として、脱北者と北朝鮮内の人権だけでなく、国軍捕虜、拉致被害者、抑留者問題にも関心を持って解決策を模索しなければならないと考える。

Q:2019年11月に強制送還された漁民2人に対する人権侵害論難が熱い。亡命の意思を無視して北朝鮮に強制送還して処刑されるようにしたことは、反人道的な処置だったという批判が高い。

A:一枚の写真が1,000の話を代弁する。国際強制送還禁止原則である「ノン・ルフールマン(non-refoulement)」と北朝鮮人権法履行の観点から見なければならない。

脱北者の亡命や亡命意思は、政府が恣意的に政権の性向によって判断してはならず、司法府が担当すべきだったという残念な気持ちになる。政権によって恣意的な判断ができないように、この機会に名文規定を作ることを望む。

ノン・ルフールマン原則(ノン・ルフールマン、仏: Non-refoulement)とは、生命や自由が脅かされかねない人々(特に難民)が、入国を拒まれたりあるいはそれらの場所に追放したり送還されることを禁止する国際法上の原則である。追放及び送還の禁止とも言われる。

明確に亡命の意思を明らかにしたなら、ひとまず韓国国民だ。たとえ韓国国民と見なさなかったり凶悪犯だとしても、大韓民国に厳然たる司法制度があるが、ここで調査し処罰することが先に考慮されなければならなかった。

むろん、北朝鮮で重犯罪を犯した脱北民に対する法的措置と関連しては、韓国国内法の不備な点を整備する必要はある。にもかかわらず、拘禁調査の過程で弁護士選任、無罪推定の原則など適法な手続きが保障されたのか責任究明が必要だ。

2014年のCOI報告書は、北朝鮮で多数の人が処刑されていると指摘した。恣意的死刑や拷問、虐待、国際的基準に合致しない裁判などで批判を受ける北朝鮮に送還すれば、深刻な人権侵害が行われることは明らかだ。

死刑制廃止を積極的に支持した前政権で、北朝鮮に適法な手続きなしに北朝鮮住民を強制送還したことは、国際法も違反したものだ。強制送還禁止原則は、国際人権法において最も核心的な原則だ。

国連拷問防止条約に加盟批准した当事国である韓国が、その協約に明記された「いかなる当事国も拷問を受ける危険があると信じるに値する相当な根拠がある他国に個人を追放、送還または引き渡してはならない」という強制送還禁止原則に違反したのだ。

慶熙大学のペク・ボムソク教授によると、ここで個人は非犯罪人、難民のような条件が付くことはなく、「人間でさえあれば」例外なく適用されなければならない。

 

Q:北朝鮮人権大使を指名した時期が、西海(ソヘ・黄海)で北朝鮮に殺害された海水部公務員事件と漁民二名の強制送還論議が高い時とかぶっているとし、一部(民主党など)から「新北韓モリ(=北を利用して利益を得ようとするの意)」といった主張もあるが。

A:尹大統領は当選者時代から長い間空席だった北朝鮮人権大使を就任後すぐ任命し、国際社会と協力して北朝鮮人権の実質的増進のために努力すると公約した。北朝鮮送還問題などによって今任命したのではなく、公約を守っただけだ。

Q:北朝鮮人権大使は、国内外の北朝鮮住民や脱北者の人権関連団体とも活発な交流が予想される。

A:国内的には統一部に登録された脱北者関連団体が34団体だと聞いている。ソウル市にも様々な団体が登録されている。

任命状をもらって初めてしたことは、これら団体の関係者に会って様々な意見に耳を傾けたことであり、今後もこれら団体、そして国内および国外にある北朝鮮人権や女性、児童、障害者問題などを扱う国際機関および市民団体との交流協力を拡大していく。

Q:国際政治専門家だが、国際法や人権法が専攻ではない。北朝鮮人権大使に任命された背景は何だと思うか。

A:国連で働く時、難民問題を扱った。難民問題をきちんと解決できなければ、国際情勢がさらに不安になるというのが持論だ。

1995年、韓国で脱北者を環境難民と規定し、国際的保護をすべきだという論文を書いて以来、脱北者問題や北朝鮮人権問題を「恐怖からの自由」(freedom from fear)と「窮乏からの自由」(freedom from want)という「人間安保(human security)」の側面で見なければならないという主張を1990年代末以来、絶えず展開してきた。

(※ 李教授は北朝鮮および国際協力関連著書と研究論文を多数執筆し、国連ルワンダ独立調査委事務総長特別諮問官、国連事務総長平和構築基金諮問委員などを歴任し、現在高麗大学政治外交学科教授(2003年より)兼韓国国連体制学会会長を務めている。女性)

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年8月3日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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