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中国でディオール批判。グローバルファッションの時代は終わるのか

数年前までとはガラッと変わってしまった世界。先が見えない中で、当たり前だったことが突然できなくなったり批判されたりで、変化を強いられることが増えています。なかでもグローバル化と大量消費で成長してきたファッション業界は多くの逆風に曝されているようです。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、ファッションやデザイナーの役割がどのように変わってきたか、その歴史から振り返り、この難しい時代をどう越えていかなければならないかを考えています。

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等身大キャラ創造がファッションか?

1.貴族のファッションは力の象徴

現在のファッションの源流はオートクチュールにある。オートクチュールは、貴族お抱えの仕立て師(クチュリエ)の技術を引き継いでいる。

オートクチュールの時代、ファッションとはソワレ、イブニングドレスが主役だった。クチュリエはコストのことなど考えずに、最高の作品を作ろうとした。最高の素材、最高の手仕事の粋を極めたドレスにより、貴族はその権勢を誇ったのだ。

最高の素材を収集するには、財力だけでなく情報収集力、外交力、交渉力が必要だ。そして、最高の手仕事ができる職人を集めることも貴族の力がなければできなかった。きらびやかなファッションは貴族の力の象徴であり、それらを競い合っていたのだ。やがて貴族階級が滅び、主役はブルジョアジーに移行したが、力の誇示という点では共通していた。

ファッションを力の象徴ではなく、女性解放の象徴、新たな時代の象徴にしようとしたのがシャネルだった。彼女は、ジャージーやジャケットを女性のファッションに取り入れ、女性が単なる飾り物ではないことを示したのだ。

2.ファッションの反グローバリズム

パリは世界のファッションの中心だ。パリ市内だけに単独の店を構えていたオートクチュールやプレタポルテのメゾンが世界中にショップ展開するようになったのは、米国のグローバルマーケティングの影響だ。欧州のブランドビジネスと米国のグローバルマーケティングが合体し、ファッションはグローバルビジネスへと進化した。

この発想はグローバリズムである。ラグジュアリーブランドブームとは、ファッションのグローバリズムだったのだ。パリを頂点とするファッションヒエラルキー体制は世界のファッション市場を支配していった。

米中対立、ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症、エネルギー危機、食糧危機、経済制裁、グローバルバブル崩壊危機等により、グローバリズムは軋み出している。反グローバリズム、新たな愛国主義は、世界的な潮流になろうとしている。

最近、中国のネット民がディオールへの批判を強めている。ディオールの2022年AWコレクションで発表したミディ丈のスカートが、中国の明時代に流行した女性用の乗馬スカート「マミアンスカート」に似ており、これを中国の文化盗用であると抗議しているのだ。

事件の善し悪しはともかく、欧州発のトレンドを甘受し、欧州ブランドに憧れていた中国の若者の意識が変化してきたことは確かだ。これをファッションの反グローバリズムの萌芽と見るのは早計だろうか。

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3.ローカルファッションへの転換

ファッションの役割とは何だろう。年2回のコレクションを軸に発信される、ファッショントレンド、流行が常に商品の陳腐化を促しているのは確かだ。流行追随の購買行動は商品の廃棄を増やし、資源の無駄遣いを促しているという批判もある。

もし、環境保護の観点から、国民服、人民服のような世界標準服着用が義務づけられたら、世界はどうなるのか。確かに制服は合理的だ。流行もなくなるし、平等意識も高まるだろう。一方で、同調圧力が高まり、全体主義的思想が蔓延するのではないか。自由な芸術活動や自己表現が抑圧されるかもしれない。

人々の自己表現は経済的には無駄に見えるかもしれないが、精神的な自由と活力を生み出す源泉にもなりうる。世界が多様性を認めるのならば、各国が独自のアイデンティティを持ち、独自のファッションを発信することにも意味があるのではないか。

グローバルファッションから、各国、各地域のアイデンティティに基づいたローカルファッションへの転換である。

4.グローバル商品とローカル商品

もう一つ、ファッションが批判される問題として、大量廃棄がある。大量生産大量消費は大量廃棄をもたらす。これまでのファッションビジネスは量のビジネスが中心だった。売上高、利益高の競争だ。しかし、売上高を伸ばすことは、環境負荷を高めることでもある。

サスティナビリティを求めるならば、必要以上の売上を求めてはならない。限りある地球の中で全ての企業が無限に売上を伸ばすことはできない。そして、競争原理だけで成長をコントロールすることも難しい。重要なことは、需要に見合った生産。例えば、注文生産であれば、競争が起きたとしても過剰生産にはならない。

と言っても、グローバルな大量生産は残るだろう。日用品としての衣料品は安くて品質の良い商品が良いに決まっている。そして、それは大量生産でしか実現できない。原産国がどこかとか、どの国の企業がその商品を生産しているか等は次第に意識されなくなるだろう。アパレル製品はグローバルな商品とローカルな商品とに二極化していくのではないか。

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5.リアルな等身大のキャラクター設計

ファッションデザイナーの仕事は、服を作ることではなく、人のイメージを創ることだ。従って、ヘア・メイク、アクセサリー、靴も含まれる。それ以前に、その人はどんなことを考え、何を理想とするのか。どんな生き方をするのか。仕事や家族に対して、どのように考えているのか。あるいは、どんなものを食べて、どんな空間で生活するのが良いと考えているのか。

この人間像の設計は、これまで曖昧だったと思う。なぜなら、服やアクセサリーを販売する、あるいはブランドライセンスで売上を上げるというビジネスモデルには、それほど具体的なイメージは必要ないからだ。

しかし、そのビジネスモデルが変化するかもしれない。例えば、デジタルコンテンツとしてのファッションではどうだろうか。アバターの設計を行い、アパターの着用する服のコレクションを販売する。デジタルデータとしてのファッションなら、資源を無駄遣いすることはないし、環境に負荷を与えることもない。

コスプレは、二次元のイメージを三次元に復元したものだ。ここで考えたいのは、リアルに生きている等身大のキャラクターであり、リアルな時間と環境の中で生きている。ビジュアルな設計も重要だが、内面的なマインドをどのように設計するかが重要になる。

ファッションの概念が変わるとしたら、ファッションビジネスの概念も変わるだろう。物販だけでなく、教育やコミュニティを含むビジネスになるかもしれない。それらを様々な専門家チームと共にディクションしていくのが、新たな時代のファッションクリエイティブ・ディレクターになるのではないか。

■編集後記「締めの都々逸」

「ファッションなんて なくてもいいさ 人が生きてりゃ 何か着る」

こんな大変な時代にファッションなんて必要ないのではないか。流行やトレンドで使い捨てていくのは勿体ない。誠に御もっともなご意見です。しかし、戦後の荒廃した時代にディオールのニュールックが希望を与えたのも確かです。

戦争で荒廃した世界。環境破壊で荒廃した世界もあるだろうし、過激な環境保護で荒廃した世界なんてのもあるかもしれません。とにかく荒廃した時代には美しいもの、喜びを与えるものの価値が出てくると思います。それがファッションかどうかは分かりませんが、大変な時代こそ必要な無駄なモノやコトもあるのではないか、と思う次第です。(坂口昌章)

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image by:Creative Lab/Shutterstock.com

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