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「チャイナリスク」問題への政治介入に日本経済界が戸惑う2つの理由

世界の工場からビッグマーケットとなり、いまではアメリカと競うほどの経済大国で技術大国になろうかという中国。この流れの中でビジネスにおける「チャイナリスク」も、その内容は急激に変化しているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、「チャイナリスク」の変遷を解説。政治の介入でリスク軽減を期待した経済界の思惑とは違った方向に動いている現状を伝えています。

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チャイナリスクの裏に隠れた政治リスクに備える時代

チャイナリスクという言葉が日本に定着して久しい。しかし、リスクが現実になったという記憶は乏しい。実際の中国ビジネスの現場を概観すれば、日本企業に大きな利益がもたらされたという事実は揺るぎないだろう。その証拠に、多種多様の問題が日中ビジネスの上に降りかかっても、最終的に日本企業が大挙して中国から撤退するという選択には至っていない。

過去を振り返ってまず気づかされるのは、対中ビジネスにつきまとうチャイナリスクは時代ごとに形を変えているという事実だ。そもそも「納期は絶対に守る」といったビジネスの基本的な考え方のすり合わせや品質保持の大切さを教える苦労を経て、日本企業がやっと中国で利益を生み出せるようになった後に指摘され始めたのがチャイナリスクである。当時は専ら政治制度の違いや「人治」の問題との戦いだった。

杓子定規で柔軟性のない思考の壁や、現地の都合で生まれるローカルルール、そして朝令暮改だ。習近平政権になるまで賄賂への対応も日本にとっては頭の痛い問題だった。

2000年代の初めには反日感情の高まりなどから日中関係が悪化し政治リスクが注目された。これを受け「チャイナプラスワン」という考え方が生まれ、日本企業のなかで中国だけに頼った経済発展の危うさを見直す動きが活発化した。

チャイナプラスワンが難航するなか、今度は日中間に技術をめぐる軋轢が生じ始める。日中の企業間にあった技術の差が縮まったことが背景にある。チャイナリスクの中心は、いつのまにか「技術の窃取」と「知的財産の侵害」への対抗になっていった。

さらに時を経て問題化したのは、中国がルールメイカーとして台頭し始めたことだ。世界の工場としてだけではなくビッグマーケットとしての地位を確立した中国が、世界のなかで経済・貿易のルールに悪影響を及ぼすのではないかという警戒が生れたのだ。この懸念は日本だけでなく欧米も共有し、最終的にはTPP(環太平洋経済連携協定)へとつながってゆく。

そしていま、チャイナリスクの中心は米中対立の行方になっている。注目すべきは、ここでチャイナリスクの中身に大きな変化が起きたことだ。従来のチャイナリスクは「中国におけるビジネス環境の改善」を目的に、欧米や日本の企業が中国と対峙する構図であったのに対し、いまは経済界がその中心からはじき出されてしまっているといる点だ。まさに「ねじれ」だ。

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かつて日本の経済界は中国ビジネスに多くの不満を抱えていた。そして問題のトラブルシューターとして政治の役割を期待した。しかし、実際に政治が前面に立ち中国と対峙するようになると、彼らの期待はむしろ戸惑いへと変わっていった。

原因は主に二つある。一つは、中国自身の変化である。経済界の不満の声が政界に届き、彼らが動きだすまでに費やされた時間のなかで、中国自身が外国企業にとってのストレスを減らしたことが挙げられる。その一方で中国から得られる利益は年々増大しているのだから外国企業の満足度も上がる。いまでは政治に期待することも少なくなっているのだ。

中国は外国企業の知的財産保護のために国内法を改正し、貿易不均衡が指摘されれば、中国国際輸入博覧会(上海)や中国国際サービス貿易交易会を開くといった対応をし、クレームに耳を傾けるようになった。

経済界が戸惑っているもう一つの理由は、政治の介入が、当初経済界が期待したものとは違う内容になってしまった点だ。経済界が求めていたのは対中ビジネスの大きな流れを壊さずに個別の問題を解決することだった。だが、いまや中国との関係を断つような動きが目立ち、その主導権もほぼアメリカに握られ、対中ビジネスの可否を制裁への同調で求められるようになってしまった。

アメリカの目的は、対中ビジネスの環境改善ではない。中国を孤立させ、弱らせることにある。となれば当然、アメリカが優勢でも中国が弱っても日本企業の利益を守るのは容易ではないという環境が生れる。必然的に非合理的なチキンレースに巻き込まれてしまうからだ。

前述したように日本はかつて一度チャイナプラスワンに挫折したことがある。対中包囲網の形成がいかに困難であるのかを身をもって体験している──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年9月4日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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