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東スポ餃子vs夕刊フジ小籠包。夕刊紙の「中華対決」が今アツい理由

駅スタンドやコンビニでライバル対決を繰り広げてきた、東京スポーツと夕刊フジ。そんな二大夕刊紙が、新たな舞台で展開する「絶対に負けられない戦い」が話題になっています。今回両者の真剣勝負を取り上げているのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは東スポ・夕刊フジそれぞれが売り出した商品と新聞社が食品事業に進出した事情、さらに取材を通して明らかになった彼らの偽らざる本音を紹介しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

ナゼ中華点心でライバル対決?夕刊紙『東スポ』餃子 vs 『夕刊フジ』小籠包が今アツい!

『東京スポーツ』(以下、東スポ)と『夕刊フジ』は夕刊紙のライバルで、キオスクやコンビニで夕方刺激的なタイトルで競っていることが日常のシーンとなっている。この二紙がいま、餃子と小籠包という“おつまみ”でも競っている。この発端は昨年9月に『東スポ』が餃子の販売を開始したこと。これに続く形で今年7月『夕刊フジ』が小籠包の販売を開始した。

これらを取り巻く環境を簡潔に述べると、いま紙媒体は部数減が続いている。新規事業に取り組むことは喫緊のテーマ。この両者とも面白半分で食品事業に着手したわけではない。社運を賭けた事業なのである。ではなぜ“おつまみ”での対決なのか。

『東スポ』らしさで「ニンニクマシマシ」

まず『東スポ』が手掛けた「東スポ餃子」から解説しよう。商品は餃子を推す町の宇都宮市に本拠を置く大和フーズが製造、青森産のニンニクを同社の標準的な商品の3倍使用。食材は国産。ニンニク3倍ということで「ニンニクマシマシ」をキーワードにした。

『東スポ』が昨年7月より販売を開始した「東スポ餃子」のポスター

商品は業務用50個入り2,484円(税込)を通信販売することから始まり、自動販売機1号店が同年11月より小田急線・千歳船橋駅近くの持ち帰り餃子専門店で冷凍餃子15個1,000円で発売された。その後、製造元の大和フーズのホームページで「東スポ餃子が食べられる店」が公表された。

「東スポ餃子」が生まれた背景と展望について、東スポ餃子広報担当の佐藤浩一氏が解説してくれた。

『東スポ』が餃子販売に取り組むことになったきっかけは、同社取締役編集局長・平鍋幸治氏のひらめきという。新規事業の立ち上げで「食に行こう」と決断した。2021年夏のことである。平鍋氏は総合商社の戸田商事と接点があり、その傘下となった大和フーズの餃子に着眼した。「東スポ餃子」は名義貸しといったライセンスビジネスではなく、『東スポ』が企画した『東スポ』のオリジナル商品である。

『東スポ』の歴史に残る代表的なタイトルは「マドンナ痔だった?」「フセイン・インキン大作戦」「人面魚 重体脱す」。一般紙とは一線を画した独自性、意外性が本分である。その同紙が餃子を手掛けること自体、意外性以外のなにものでもない。

安心・安全、クオリティの高さで差別化

冷凍餃子はスーパーマーケットやコンビニで大手メーカーの商品やPBが「12個入り198円(税別)」で販売されている。ここで「東スポ餃子」が同じ土俵に立つと埋没してしまう。そこで「東スポ餃子」は価格訴求ではなく、使用食材が国産で安心・安全でクオリティが高いことを基本的に備えた。

では「東スポ餃子」が持つ強みとは何か。それは『東スポ』という媒体のネットワークや発信力である。さまざまなタレントや著名人のブログで発信、「全日本プロレス編」ではプロレスラーが「東スポ餃子」を愛食するシーンのYouTubeも作成した。

「東スポ餃子」に続く『東スポ』食シリーズの第二弾として「東スポからあげ」を今年4月より販売開始。「東スポからあげ」を扱うラーメン店「元祖札幌や」(東京都品川区)が日本唐揚協会主催の「第13回からあげグランプリ」東日本しょうゆダレ部門で金賞を獲得(2022年3月31日発表)して、それをパッケージにうたっている。

餃子に続いて4月より販売を開始した「東スポからあげ」のポスター

鶏肉は国産鶏で希少部位の「肩小肉」。これはジューシーなモモ肉とあっさりとしたムネ肉の中間の食味でからあげに向いている。ここでも青森産ニンニクをふんだんに使用して「ニンニクマシマシ」をうたっている。業務用1袋(1㎏)で2,484円(税込)。

『東スポ』食シリーズを展開する中で総合食品商社の日本アクセス(伊藤忠商事100%子会社)との関係性が生まれ、販売網が拡充するとともに新商品の企画も立ち上がっている。7月4日から「東スポ餃子」の小売り用(15個入り、税込645円)を発売。さらに食シリーズの第三弾として「東スポポテトチップ」が11月下旬より発売される。こちらは炭火焼鶏味で「タレマシマシ」となる。

生姜使用料が既存商品の10倍の小籠包

一方『夕刊フジ』の小籠包はこうなっている。

この正式名称は「夕刊フジ飯店・生姜小籠包」。製造しているのは台湾食品のメーカーで販売店も展開するBull Pulu。具材に入れる生姜は高知県産で、その使用料はBull Pulu既存商品の量の10倍にしている。これによって小籠包の中のスープはマイルドな辛味があり香りがたっているのが特徴。これらを横浜中華街の上海焼き小籠包の有名店「鵬天閣」が監修している。

今年7月より販売を開始した「夕刊フジ飯店・生姜小籠包」のポスター

商品は冷凍の小籠包30個入りに、特製黒酢タレとBull Puluで人気の台湾茶16杯分をセットにして3456円(送料・税込)。これを「夕刊フジ飯店」シリーズの第一弾として、7月29日からブルプル通販、Amazon、産経iDの各通販サイトで発売している。

「夕刊フジ飯店・生姜小籠包」は冷凍状態で台湾茶と一緒に届けられる

この販売に際して、『孤独のグルメ』の原作者であり『夕刊フジ』で毎週金曜日にコラム「するりベント酒」を連載している久住昌之氏が「夕刊フジ飯店・生姜小籠包を食べての感想」を述べているYouTubeを作成した。ここで久住氏は「生姜が効いて、爽やかでうまい」とコメントを寄せている。

『夕刊フジ』が食品の販売を手掛けるのは今回が初めてではない。2006年より2015年まで駅弁の「夕刊フジおつまみ弁当」を販売(NRE大増が製造)。2014年にファミリーマートで「のり巻きカレーおむすび」を1カ月限定で販売。同年居酒屋チェーンに協力してもらい「オレンジ世代酒場」を期間限定で数店舗展開した。

“お通し”が『夕刊フジ』の居酒屋を展開

『夕刊フジ』代表の佐々木浩二氏はこう語る。

「おつまみ弁当は新幹線を利用するビジネスマンが『夕刊フジ』を手に取る感覚で新幹線の中で食事をするイメージ。おむすびは、かつて帰宅途上の電車で『夕刊フジ』を読んでいた人がリタイヤして自宅近くのコンビニで『夕刊フジのおにぎり』を買って“現役感”を思い起こしてもらう。新聞を売っているコーナーで『夕刊フジのおにぎりを売っています』というPOPを添えたところ、おにぎりが大層売れた」

「オレンジ世代酒場」の一例では、おすすめとして「オレンジ世代セット」(2時間2,000円)をラインアップ。トロホルモンロール、ジャンボ串カツ、煮込み、レバニラ炒め、酢もつ、食べ放題のキャベツ、飲み放題のハイボール付き、そして“お通し”として『夕刊フジ』を1部付けた。

これらの企画は“働き盛りのホワイトカラー”といった『夕刊フジ』の読者に寄り添っている。出張の新幹線、“現場感”を思い起こす、仕事帰りの居酒屋といった読者の生活シーンの中に『夕刊フジ』の存在感をアピールしている。

この度の「夕刊フジ飯店・生姜小籠包」のベースとなるのは“健康”である。『夕刊フジ』では毎号“健康”テーマの記事を2ページにわたって掲載、これがスピンアウトして2017年より年間5回『健活手帳』を発行している。この読者は既存の『夕刊フジ』のものに加えて、新しく女性を取り込んでいる。佐々木氏はこう語る。

「小籠包の発売を思い立った直接的な理由は『東スポ』が突然餃子を販売したから。しかし夕刊紙で食を扱うのは『夕刊フジ』の方が先で、ここで『東スポ』に負けられないという思いがあった」

新しい形でのマーケット創造

そこで『東スポ』の餃子に対抗して『夕刊フジ』では同じ点心の小籠包を打ち出した。ここに“生姜”をアピールすることで『夕刊フジ』が育ててきた「健康」テーマを刷り込んで女性にも訴求する。『東スポ』が“マシマシ”路線で行くのであれば『夕刊フジ』は“健康”ということだ。

「点心を売るということでは強敵はたくさんいるが、われわれ『夕刊フジ』は『東スポ』と競いたい。新聞販売ではお互いコンビニやキオスクで競っていて、食品も同様に競いたい。こういうことを消費者に面白がってもらうことが望ましい」と佐々木氏は語る。

キヨスクやコンビニでは毎度おなじみとなっている夕刊紙のタイトル対決

『東スポ』の佐藤氏、『夕刊フジ』の佐々木氏ともにこのように語る。「食品事業を手掛けていても、ベースは夕刊紙」だと。『東スポ』『夕刊フジ』ともにそれぞれの“らしさ”と“強さ”を食品事業に託し、一過性のものではなく、「永く続けていく」と断言する。そして「お互い新聞で競っているが、食品でも競っていく」という。『東スポ』『夕刊フジ』は新しい形でのマーケット創造にチャレンジしている。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社東京スポーツ新聞社 , 株式会社産業経済新聞社

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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