おでんの老舗であるにもかかわらず、その店内では「とある丼ぶり」をかっ込む人たちで溢れている……。そんな一見ふしぎなお店が東京・日本橋にあります。大きな話題にもなり、多くのメディアでも取り上げられたその店のマーケティング方法を、今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』で、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが紹介しています。
おでんの老舗の名物に驚き!ご飯に豆腐をのせただけ?
創業大正12年。東京・日本橋に、東京おでんの老舗「お多幸本店」があります。
濃く甘めの出汁に浸ったおでんには、古くからのファンが多く、全国からお客さまが集まってきます。
かつお節と日高昆布をベースに、継ぎ足し継ぎ足しを繰り返し、美味しさを積み重ねています。
大根をはじめとする野菜や練り物、玉子が、静かに煮込まれ、ジワジワと出汁の旨味が染み込んでいきます。
このおでんの他に、串焼きや魚料理などが用意され、全国の銘酒とともに楽しむことができます。
しかし、おでん屋さんとして親しまれている存在なのですが、あるメニューの方が目立っています。
おでんをメインにしているのですが、時に、食堂のような光景を見掛けることがあります。
お客さまが、丼飯を掻き込んでいるのです。
お酒の締めとして食べる人もいれば、この定食を目的にやって来る人もいます。
「とうめし」。
ご飯の上に、おでんの豆腐をのせたもの。単品と定食があります。
これが、名物となっているのです。
話題になった時期もあり、真似して作る動画が、ユーチューブにたくさんアップされていたことも。
お酒を飲みに来るのではなく、「とうめし」を食べに来る人も多くいます。
白ご飯に豆腐がのっているのではなく、茶飯の上に、味の染み込んだおでんの豆腐をのせ、出汁をたっぷり掛けています。
トロトロに煮込まれた豆腐と茶飯を混ぜて食べると、優しくもしっかりと舌にまとわりつく味わいを感じることができます。
新しい食体験となるはずです。
かつては、常連さんの要望に応えた裏メニューだったのですが、あまりの人気で、表舞台に立つようになり、いまやお店の代名詞とも言える存在となっています。
かなり庶民的な食べ物、食べ方ですが、お客さまがもっとも欲するメニューなのです。
おでんの出汁と豆腐が美味しいからこそ、生まれたものですが、常連さんの“思いつき”がなければ、この名物は存在していません。
これは、お客さまとのコミュニケーションが、いかに重要かということを表しています。
軽い挨拶から始まって、世間話をするようになり、やがて個人的なことまで話すようになると、それはもう常連さんであり、お友だちです。
この繋がりができると、お客さまもお店に対して遠慮なく要望を伝えることができるようになります。
お店としても、お客さまの望みを知ることができます。
「とうめし」は、そんな人間関係から生まれたのです。
料理人であれば、ご飯に豆腐をのせるという発想は出てきません。
淡白な味どうしなので、合わないと考えてしまいます。
素人であるお客さまだからこそ、面白い思いつきがあるのです。
しかし、料理に対して頑固な店主では、受け入れてもらえません。
やわらかい頭で、サービス精神旺盛な店主だから、新しいメニューは誕生し、お店の名物へと育っていったのです。
お客さまを大切にし、お客さまの声を聞き、できる限りお客さまの望みを叶えてあげることが、お店の繁盛に繋がるのです。
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