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プーチン発言でメディアも気づいた。習近平は武力行使に「ノー」という事実

9月15日、上海協力機構(SCO)加盟国首脳会議に参加していた中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が首脳会談に臨みました。そこでプーチン大統領が「中国が軍事侵攻を懸念している」との認識を示したことにメディアは大きく反応。メディアにその認識がなかったことを驚いたのは、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、中国が一方的なロシア非難はしないものの武力行使にはノーの立場だったと、ロシアによる侵攻直後の習近平国家主席の言葉を紹介。バランス力を発揮する中国が目指すその先にも言及しています。

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「いまごろ?」習近平・プーチン会談でメディアが注目した新情報の裏で中露が模索する対米対抗軸の可能性

9月14日から16日にかけて、ウズベキスタンのサマルカンドで開催された上海協力機構(SCO)加盟国首脳理事会第22回会議(首脳会議)は、予想通り大国間外交の大きな舞台となった。

ひときわ衆目を集めたのは中国の習近平国家主席とロシアのウラジミール・プーチン大統領の首脳会談だ。今年2月、北京冬季オリンピック開会式に出席して以来、7カ月ぶりの対面による会談の実現で、習近平にとってはコロナ禍後の初めての対面外交である。

NHKのBS番組『国際報道2022』はこの会談をウクライナ戦争の視点からフォーカス。「メディアの注目を集めたのが、軍事侵攻に対する中国の懸念を認めたともされるプーチン大統領の発言」と、英国放送協会(BBC)の報道を引用し「ウクライナ危機に関する中国側の疑問や懸念を理解している。今日の会談で我々の立場を説明するつもりだ」と語ったプーチン大統領の意味を解説した。

事実、BBCはこの発言に強く反応し、以下の二つの発言を大きく取り上げていた。一つはロシアが示した「ウクライナ危機に関する中国のバランスの取れた立場の維持」への感謝。もう一つは、既述した「ロシアの軍事侵攻に対する中国の疑問と懸念を理解している」という発言だ。

これを受けてキャスターは、現地で取材する編集委員に「中国側の懸念を認めた意義はどれほど大きいのでしょうか?」と問いかけている。編集委員の答えは以下の通りだ。

「まず首脳会談が行われたこと自体に意味があると考えられます。プーチン大統領にとってこの会談は、ウクライナへの軍事を受けて西側がロシアの孤立化を目論み、制裁を加えたとしても、ロシアには強力な友人がいることを示す機会になったからです。その上でプーチン大統領による『中国が軍事侵攻に疑問と懸念を抱いていることを理解している』との発言は予想外でしたが重要な意味を持ちます。ロシアの指導者が突然、中国がロシアの軍事侵攻に気を揉んで心配していると世界中に明かしたわけです。これまで中国側が公に発言してこなかった興味深く新しい内容です。そして、このことはロシアと中国の間に何らかの軋轢があることを示しているかもしれません」

シンガポール政府系の英語ニュースチャンネルCNAもプーチン大統領が「中国が軍事侵攻に疑問と懸念を……」と発言したことに注目したメディアの一つだ。同様に中国がこれまで「ロシアのウクライナ侵攻をとくに明白に非難するとも支持することもしてこなかった」点を取り上げ、(中国が)実は懸念を持っていたことが初めて明らかにされたと解説した。

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だが、中国をきちんとウォッチしていれば明らかなように、ロシアとの友好関係は重視しつつも、ウクライナ侵攻に中国が最初から「ノー」であったことは明々白々である。

そもそもウクライナ危機が勃発した直後の2月25日、習近平はプーチンと電話会談を行っている。そのなかで習近平は「中国はロシアが話し合いによって問題を解決することを支持する」と武力行使に対するネガティブな態度を示しているからだ。

厳しい言葉ではないが、明らかに軍事力の行使を歓迎してはいない。また「冷戦の考え方を捨てて、各国の合理的な安全保障上の懸念を尊重し、協議を通じてバランスのとれた効果的で持続可能な欧州の安全保障メカニズムを形成する必要がある」との提言も行っている。一方的にロシアの行為を否定する西側スタイルとは異なるので分かりにくいが、武力による解決には常に否定的だ。

中国外交部報道官もこれまで「侵攻が起きて以降最初に会談し平和解決を呼びかけたのが習近平だ」と繰り返し主張してきた。いずれにせよ会談に重要な意義があることに変わりない。では、何に注目し、どう評価すべきなのだろうか。日本経済新聞は、「中国・ロシア共同声明出さず 首脳会談、かりそめの結束」というタイトルで、中ロ間の実は冷めた関係に注目した。

記事を引用すれば、

中国共産党機関紙、人民日報の16日付の1面トップ記事は中国・ウズベキスタン首脳会談で、中ロ首脳会談はその下の位置だった。中ロ会談の記事は両首脳が握手していない写真を載せるなど、ロシア側の積極姿勢とは温度差がある。

ということだ。鋭い視点で、確かにそう感じさせる。

一方、中国が警戒しつつもロシアと会談する意味は小さくない。そのことは両者の以下のようなやりとりからうかがえる。
習近平:「外部勢力による『カラー革命』を導こうとする試みに警戒し、いかなる理由による他国への内政干渉にもともに反対しよう」
プーチン:「上海協力機構は世界最大の地域枠組みであり、国際的な問題解への役割が大きくなっている」

いうまでもなくアメリカを意識し、欧米への対抗軸として上海協力機構を拡大してゆく必要性だ。上海協力機構は最大領域、最大人口を擁する総合的地域組織だ。将来的には途上国を巻き込んでG7やG20以上の集まりとなる可能性を秘めていると、中国がみなしたとしても不思議ではないのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年9月18日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:plavi011/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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