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強制編入と部分動員の悪手。内憂外患で大きく揺らぐプーチン政権

ウクライナの東部と南部4州の併合を一方的に宣言し、国際社会から大きな批判を浴びたプーチン大統領。一方ロシア国内に目を移せば、部分動員を巡り政権に対する反発が強まるなど、状況は厳しさを増しています。なぜプーチン氏の政治手法は混乱ばかりを招くのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「虫の目、鳥の目、歴史の目」』では、著者の嶌信彦さんがその理由を解説。さらに今後のプーチン政権の行く末を占っています。

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ウクライナを欧米が支援 プーチン政権が墓穴を掘ることも

ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻したウクライナの東部、南部の4州を自国に併合すると一方的に宣言した。占領地域で行政を担う親ロシア派が強行したロシアへの編入を求める「住民投票」が成立したと強調し、併合文書に調印したのだ。4州のうちドネツク、ザポリージャ州では依然3~4割がウクライナの統治下にあるのにプーチン大統領は「ロシアへの編入を決めるのは住民の権利だ」と主張し「占領地の住民は永遠にロシアの国民だ」と強制併合を正当化した。

これに対し国連のグテーレス総長は「国家が武力により他国の領土を併合することは、国連憲章の原則及び国際法違反だ」と批判。日本を含めたG7(主要7ヵ国)も外相声明で併合を非難し、ロシアと支援するロシア内外の個人や団体に「さらなる経済的コストを科す」と宣言した。ウクライナのゼレンスキー大統領は対抗措置として北大西洋条約機構(NATO)に早期加盟を申請すると発表、アメリカや欧州は併合宣言を受けて、新たな対ロシア制裁に乗り出す方針を宣言している。

プーチンは謀略を本業とするKGB(国家保安委員会)で人生を過ごしてきた人物だ。このためプーチンのやり方は、民主的な手続きを踏まず、友好国と相談することもないため、多くの混乱を生じさせている。ロシア人30万人に動員令を出したが、米CNNの推計では徴兵を避けるため20万人以上の国民が国外に脱した模様だ。

またトルコのエルドアン大統領には「透明性のある住民投票を実施した」と説明したが、トルコは投票結果を認めない立場を貫いているほか、ロシアに近いとされているカザフスタンも住民投票の結果によるロシア領編入を認めない意向を示したとされる。

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プーチン政権の混乱は、“招集対象となるのは予備役の30万人で軍事経験者だけ”としていたが、自治体が強引に招集したり、招集対象でない国民に招集令状が届くケースが数多くあり、軍務経験のない著名な元サッカー選手にも召集令状が届いたという報道もあった。

隣接するジョージアでは一日でロシア人6,000人強が越境してきたと発表した。フィンランドはロシアからの入国制限を始めた。ロシアは国境地帯に臨時の徴兵事務所を設置し国外逃亡を阻止しようとしているが、かえって国民の反発を招いているともいう。ロシアが部分的動員令を発令した後、ロシアからの出国者は後を絶たず9月末までにフィンランドに4万3,000人、ジョージアに5万3,000人、カザフスタンに9万8,000人が出国、隣国に向かう車列も後を絶たないという。

プーチン大統領は9月30日、ウクライナとの戦いで国内が混乱しているため沈静化に躍起となっている。「ウクライナ4州をロシアの一部に加えることになったのは数百万人の意思の結果であり、ウクライナから解放された人々はロシアの国民となる。ウクライナ政府は米欧に従属している。即時に戦闘を停止し、交渉のテーブルに戻ることを求める」とウクライナに停戦交渉に応ずるよう求めた。

しかしウクライナは、4州を強制併合されたことに反発を強め、欧米からの武器供与の支援、アメリカやEUの新たなロシア経済制裁の方針を受けて4州の奪還に全力を尽くす構えだ。逆にロシアは30万人の動員発令に自国民の反発を受け国内が混乱、プーチン政権は苦境に追い込まれつつある。アメリカやEUがロシアを追い詰めることに加担すれば、プーチン政権の存在自体を危うくする可能性も出てきた。

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image by: Free Wind 2014 / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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