日本製のデニムの世界的評価がとても高いことをご存知でしょうか。その理由をメルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが紹介。世界への市場拡大に向けて、日本が何をすればよいかという提案もしています。
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日本のデニムの技術を活かすには
1.日本のデニムが素晴らしい理由
世界中から日本のデニムは素晴らしいと評価されています。この評価には明確な裏付けがあります。
第一に、藍染めの伝統と技術があること。江戸時代から日本人は藍染め木綿の着物を着用してきました。そして藍を栽培し、すくもに加工する「藍師」、すくもから藍を建てて染色する「紺屋」がいて、それぞれが産業として成長しました。
こうした技術があったからこそ、ロープ染色の構造や技術を素早く理解し、再現することができました。
第二には、日本の糸作りの技術と綿紡績の存在です。日本の綿紡績は混綿技術、細い糸を引く技術に長けています。優秀な綿紡績から高性能の綿糸が供給されたことで、日本の綿織物は世界に輸出することかできたのです。
第三は、日本の織の技術、織機メーカーと機屋の存在です。江戸時代には各藩が特産品を開発するために技術を競い合いました。明治以降は、輸出のために世界各国の織物を研究しました。
それと共に織機も進化し、機械メーカーの技術も進化したのです。
こうした各工程の歴史と技術の積み重ね、研究熱心な技術者の存在により、日本製の織物は世界最高水準に達しました。
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2.日本のデニムの強みと弱み
日本のデニムの開発、生産の技術は世界的な水準です。もし、それを世界市場に販売することができれば、現在でも日本のデニム産業は隆盛を保っているでしょう。
問題はコストです。これはあらゆる製造業に共通しています。技術はあるけど、コストが高い。コストの問題で、国内生産から海外生産に移行したし、コストが高いから売れないということです。
しかし、海外生産しても日本企業が管理する限り、現地工場と比べるとコストが高くなります。従って、現地販売はできず、ほとんどの商品は日本市場で販売されます。
一方、海外の現地資本の工場はどんな課題があるのでしょうか。多くの工場の設備は最新鋭で、若い労働力も潤沢です。コスト競争力もあります。しかし、商品開発力、技術開発力がない。ですから、海外でサンプルを購入し、それをコピーして生産するのです。しかし、コピーばかりしていたのでは、ノウハウが蓄積されません。いつまで経っても、コピー生産から抜けられないのです。
この両者が、WIN-WINの形で連携することはできないのでしょうか。
3.日本のアパレル企業とライセンス生産
日本のアパレル企業が70年代以降、急激に成長した理由の一つは、ブランドライセンスです。欧米のブランドとライセンス契約(ライセンス生産権と国内販売権)を結ぶことで、知名度の高いブランドによるビジネスが可能になりました。最も重要なことは、自社の努力で売上を拡大することができたことです。
また、ブランドライセンスによって、欧米のアパレルブランドの企画手法を学び、アプルーバル(商品デザインの確認と承認)によって、ブランドイメージから外れた商品を除外し、ブランドイメージを保つことができました。
ライセンス以外のブランドは、売れ筋追随になりやすく、ブランドの特徴が曖昧になりがちです。ブランドイメージを一定に保つことで、固定客が育ち、安定したビジネスができました。
日本企業の課題はコストであり、コストの低い国に商品を発注します。OEM生産です。
OEM生産では、発注した商品は全て買い取ります。発注以上の数量を生産することは認めません。従って、OEM工場は自社の努力だけで成長することができません。永遠に下請けのままです。
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4.デニム企業のライセンスビジネス
私は日本のデニム企業が海外のデニム企業とライセンス契約を結ぶことで、海外のデニム企業の成長と、日本のデニム企業の安定したビジネスが可能になると考えています。
具体的には次のようなことです。
日本企業が行うことは、海外工場に発注するのと同じです。日本からデニムのサンプルや指図書を渡します。サンプル生産とチェックを繰り返し、完成度の高い商品を確認してから発注します。
OEM生産と異なるのはここからです。海外デニム企業にライセンス生産権と販売権を供与します。つまり、そのデニムを生産販売して良いということです。努力すれば売上が上がります。しかも、日本のデニム企業のブランドを使うことでバイヤーに、品質や技術力をアピールすることができます。
売上の一部はライセンス料として日本企業に支払われます。そして、日本市場については、日本のデニム企業が独占販売権を持ちます。
そうすれば、OEM生産のように生産ロットはなくなります。必要な数量を発注すれば良いのです。従ってOEM発注よりもコストは確実に下がるでしょう。
そして、ライセンス料を今後の企画開発費用に充てることができれば、人材も育ち、企業も活性化するはずです。
ライセンスによって、ライセンサー企業もライセンシー企業も「サスティナブルなデニム企業」になることができます。
編集後記「締めの都々逸」
「一度限りの 注文よりも 長い付き合い 始めましょう」
書き終えて思うこと。なぜ皆はライセンスビジネスをしないんでしょうね。この方法の方が、海外の展示会に出展するより意義があると思います。海外の展示会にはライセンシー企業に出展してもらえばいいんです。
日本のデニムメーカーが日本の展示会に出展するにしても、自社のオリジナル商品と共にライセンス生産の商品を紹介をすればいいと思います。価格競争力もありますから。
国内の問題を国内の範囲だけで考えても解決策は見つかりません。高齢化は進み、後継者はいない。でも、海外と連携することで、若い社員を雇用することができます。会社の環境を改善することができます。
もちろん、すぐに成功するとは限らない。悲観的な人は心配ばかりします。でも、スタートしなければ何も始まらない。問題が起きたら問題を解決すればいいのです。(坂口昌章)
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