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「鳥貴族」大倉社長も登場した連載コラムの“再現ドラマ動画”が今アツい訳

とある人材採用総合サービス企業がネット上で公開している、飲食業経営者たちの生い立ちから修行時代、さらに独立に至るまでの道のりを描いた再現ドラマをご存知でしょうか。そんな動画の誕生秘話と人気の秘訣に迫るのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、株式会社キイストンが再現ドラマを制作するきっかけを紹介するとともに、彼らが「娯楽動画」を通して作り出そうとしているものについて考察しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

あの「鳥貴族」大倉社長も登場、連載900回超えコラムの再現ドラマ動画が今アツい理由

飲食業界のweb媒体に『飲食の戦士たち』という連載コラムがある。内容は飲食業経営者が社長になるまでの生い立ちから修業時代をまとめたもの。登場する経営者は上場企業から数店舗の社長まで。さまざまな人生模様が綴られている。

この第1回は2008年2月のこと。そして2022年9月に900回を迎えた。飲食の経営者のコラムが900回となると飲食業経営者のデータベースとして捉えていいだろう。

実際に飲食業分野のライターをしている筆者の経験を述べる。筆者は初めて取材をする経営者はどのような人物かを把握するために、まず『飲食の戦士たち』を検索している。するとたいてい知りたい経営者のことが掲載されている。こうして取材の準備は首尾よく進む。

登場人物で目を引くのは、いま飲食業界をけん引する鳥貴族ホールディングス(HD)の大倉忠司社長、世界戦略を大胆に展開する「丸亀製麺」トリドールHDの粟田貴也社長、外食産業の継承者としてはすかいらーくHDの谷真会長兼社長、吉野家HDの河村泰貴社長等々名だたる外食企業の実話が社長のリアルな発言で綴られている。

飲食の戦士たち

この『飲食の戦士たち』はこの度動画版となる“再現ドラマ”をスタートさせた。これは約10分間のドラマ仕立て。主人公が、おいしそうな飲食店に入り、ビールを飲むと目の前の写真の人物の過去にタイムスリップして、現在の社長になるまでの道筋や料理へのこだわりを知ることになる――というストーリーである。

『飲食の戦士たち』“再現ドラマ”予告編のトップ画像

飲食業経営者のハートにほれ込む

『飲食の戦士たち』を運営しているのはキイストン(本社/東京都港区、代表/細見昇市)。飲食業界に特化した人材採用を中心に事業を展開している。代表の細見氏はリクルートの営業出身でトップセールスの常連であった。リクルート時代に知り合った武田あかね氏と共に1992年10月にキイストンを立ち上げた。

細見氏は人材採用の営業分野を「飲食業界」に特化するようになった背景について「独立した当時の“バブル崩壊”が大きな転機となった」と述べる。

飲食業は恒常的に人材が不足していて、求人広告を取ることができてもなかなか採用に結びつかないという現実があったという。それが“バブル崩壊”によって、飲食業における人材採用の環境が変わった。

「不景気になるとほとんどの業界は出店を抑え採用をしなくなる。すると物件の保証金が安くなり、飲食業は出店しやすくなる。飲食業は景気が良くても、良くなくても人材採用に前向きに取り組んでいる、という感覚をつかんだ」

こうして、細見氏は飲食業の経営者に取材をする機会が増えていった。それを重ねていくにつれて、細見氏の飲食業に対する思い入れが大きく変わっていった。

「飲食業の特に複数店舗を展開している経営者は人間力が素晴らしい。1店舗だけだったら“こだわりのおやじ”でいいが、複数店舗となると人を使わないといけない。ハートがあるから人が集まってくる。こうして何十店舗、何百店舗が成立している」

「グルメサイトなどを見ると、ほとんどで社長が独立した経緯、商品に対するこだわりが紹介されていた。そこで社長になるためにはどのような背景があるのかということを一つ一つまとめて行こうと考えた。子供の頃に料理をつくったら親から褒められたとか。社会人になって先輩に憧れたとか、こんなエピソードが重要だと考えた」

生い立ちや修業時代の話は風化しない

このように細見氏は“飲食業愛”を強めていって、キイストンの事業を「飲食業特化型」に先鋭化していきwebコラムの『飲食の戦士たち』が誕生した。

2008年2月に第1回をスタート。「早い段階で“情報の量”をつくろう」と考え、3年後の2011年1月に200回を達成した。「すると視界がガラリと変わった」という。『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』をはじめとしたテレビ番組からの問い合わせが増えていった。

コラムの連載回数が増えていくにつれてアポに対する信頼度が高くなった。飲食業経営者から「当社の従業員に、どのようにして会社ができたのかを知らせたいので記事にしてほしい」といった依頼を受けるようになった。

『飲食の戦士たち』が連載を15年近くの間で900回を達成することができたポイントは何だろうか。細見氏はこう語る。

「いろいろな経営者の連載があるが、ほとんどが“いまの状態”を記事にしているので連載を長く継続することができない。しかし、経営者の生い立ちや修業時代の話は風化することがない。このようなコンセプトに誇りを持ってのぞんできた」

ちなみに鳥貴族の大倉社長の記事は連載開始当初の2009年10月の第72回で掲載されている。当時鳥貴族は「280円均一料金の居酒屋」として頭角を現していた。調理師専門学校で学びながらビアガーデンで体験した接客業の楽しさを嬉々と語る様子は飲食業の原体験として貴重なものだ。こちらが大倉社長のコラム。

第72回 株式会社鳥貴族 代表取締役社長 大倉忠司氏

細見氏はこの独特の編集方針を基軸として連載1,000回達成に向けて意欲を見せる。

ビジネス書とは違った業界との接点

細見氏は『飲食の戦士たち』連載900回が見えてきたころから「飲食業界を盛り上げるために、われわれがやってきたことを若い世代に伝えたい」と考えるようになった。それは媒体を多様化させて「人と人との出会いの場を広げる」こと。

このようなことを一緒にキイストンを立ち上げた武田氏と話し合っていたところ、武田氏から「動画にしてみては?」と意見があった。武田氏は現在キイストンのグループ会社で飲食業専門の人材紹介を事業とするミストラル(本社/東京都港区)の代表を務めている。また、武田氏は10代からモデルとして活躍していて、現在もミセスモデルを務めている。このような環境にあって俳優や動画制作の専門家との交流があり『飲食の戦士たち』“再現ドラマ”のアイデアはすぐに実践に移すことができた。

『飲食の戦士たち』“再現ドラマ”の指揮を執るミストラル代表の武田あかね氏

『飲食の戦士たち』“再現ドラマ”のストーリーは、冒頭で述べた通りタイムスリップという特殊能力を持つ主人公、サラリーマン廣井が、飲食していた店内で目の前に置かれた店の社長の修業時代にタイムスリップして、当時のその社長に乗り移り、その会社の来し方を体験するというもの。こちらがその動画の予告編。


● 【予告編】飲食の戦士たち再現動画 ~社長たちの原点が、ここにある~

こちらが第1回として作成された、REED代表、樺山重勝氏の動画。


【第一話】飲食の戦士たち ~社長たちの原点が、ここにある~ 株式会社REED 樺山重勝

動画は、サラリーマン廣井が飲食店と遭遇したことからテンポよく展開し、最後の経営者本人が登場して、修業時代に経験したことをリアルに語っている。それが視聴者にしみじみと伝わってくる。

約10分間の再現ドラマの最後には実際の現在の社長とお酒を酌み交わすという趣向

『飲食の戦士たち』のwebコラムは、いわばビジネス書的な立ち位置でまとめられたもの。連載900回となって貴重なデータベースとして育った。一方の“再現ドラマ”は、一人称の短編娯楽動画に仕上がっている。ビジネスのマインドで飲食業界を伝えるのではなく「おいしそう」とか「タイムスリップ」といった場面から、視聴する人と飲食業界との接点をつくり出そうとしている。

武田氏は「若い世代の人がこの動画の些細な場面から、この店で『働いてみたい』という動機が喚起されることにつながればいいなと考えている」と語る。

この再現ドラマは、テレビドラマや映画などに発展する可能性も秘めている。飲食業界を活発化するきっかけとなる存在として注目されていくことであろう。

image by: 株式会社キイストン
協力:株式会社キイストン , 株式会社ミストラル

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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