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核使用にも反対。プーチンに対して間接的に「NO」を突きつけた習近平

伝統的に深いつながりを持ちながら、現在置かれている立場に大きな開きがある中国とロシア。習近平国家主席にとっては、ウクライナ戦争で国際社会を敵に回すプーチン大統領との間に、この先どのような関係を築くのが正答となるのでしょうか。そんな難題の分析を試みるのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、核兵器の使用に反対する考えを示し、間接的とは言えプーチン大統領にNOを突きつけた習近平氏の意図を解説するとともに、「習―プーチン関係」の今後を考察しています。

3期目の習近平にとってのプーチン大統領

インドのジャイシャンカル外相は11月、モスクワを訪問してロシアのラブロフ外相と会談し、ロシア産石油の輸入を継続するなどエネルギー分野での結び付きを強化していく方針を示した。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、ロシアの軍事的劣勢が顕著になる中、プーチン大統領が9月に市民の部分的動員とウクライナ東部南部4州の併合に打って出るなどしたことで、それまで同侵攻で態度を明確にしてこなかったインドの態度にも変化が見られた。

インドのモディ首相は9月にウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」と初めてウクライナ侵攻を批判し、同月、国連総会の場でインドのジャイシャンカル外相もウクライナ侵攻によって物価高やインフレが生じたと不快感を示した。

しかし、世界的なエネルギー高騰に頭を悩ますインドとしては、エネルギー安全保障の観点から安値を維持するロシア産エネルギーに依存せざるを得ない状況で、今回の合意も悩んだ挙句の決断、行動だったと考えられる。インドとロシアはもともと武器供与などで伝統的友好関係にあり、米国などからのプレッシャーもある中、インドは難しい立場にある。しかし、今後ともインドはロシアとの政治的関係の維持、経済的接近を図るものとみられる。

一方、3期目となった中国はインドのような立場を取るか、もっといえば取れるのかといえば疑問が残る。

プーチン大統領と習氏は9月15日、中央アジアのウズベキスタンで開催された上海協力機構の首脳会合に参加するのに合わせ約半年ぶりに対面で会談した。冒頭、プーチン大統領は、「この半年間で世界情勢は劇的に変化したが変わらないものが一つある。それは中露の友情関係だ」とし、習近平氏も、「激変する世界で中国はロシアとともに大国の模範を示し、主導的役割を果たす」と双方が両国関係の重要性を確認した。

だが、話がウクライナ問題になると、習氏の表情が厳しくなり無言を貫き、プーチン大統領は「中国側の疑念や懸念を理解している。中国の中立的立場を高く評価する」と、自らそこで乖離が生じていることを明らかにした。

そして、部分的動員やウクライナ4州併合に加えロシアによる核使用の可能性が示唆されるなか、習氏は11月に訪中したドイツのショルツ首相と会談し、国際社会が核兵器の使用や威嚇に共同で反対するべきだとし、軍事侵攻を続けるロシアを念頭に核兵器の使用に反対する考えを示した。

プーチン大統領を名指しで非難したわけではないが、これは間接的にNO!を突き付けたことになる。ウクライナ侵攻以降、中国もロシアへの非難や制裁を避けるなどインドと同じような立場を堅持してきたが、プーチン大統領が一線を越えた行動に出たことで、上述のモディ首相のようにこれ以上は黙ってはいられないという立場に変化した。

習氏にとって難しいバランシングを余儀なくされる対ロ関係

今日の国際社会において、インドと中国の置かれる政治的経済的立場は大きく異なる。バイデン政権が中国を唯一の競争相手と位置付けるように、中国の経済力は既に米国の7割近くにまで接近しており、今後それが逆転する可能性が高いとみられる。

そして、中国は経済力を武器に一帯一路戦略を広範囲に広げ、中国の影響力は既にグローバルに拡大している。よって、インド以上に中国は国際社会での立場に注意を払う必要があり、仮に今日でもロシアを庇う姿勢を鮮明にすれば、中国は欧米から制裁対象に加えられるだけでなく、国際的イメージを落とす可能性がある。プーチン大統領の一番弟子かのように振る舞うルカチェンコ大統領によって、ロシアの隣国ベラルーシは欧米からの制裁に遭っている。

米主導の国際秩序の打破を目指す中国としては、諸外国からのイメージが悪化することは避けないといけない。グローバルな問題である核兵器使用に明確にNo!の姿勢を示した背景にもそれがあろう。

以上のような諸事情を考慮すれば、3期目の習氏にとって対ロシアは難しいバランスを余儀なくされる。今後のプーチン大統領の出方にもよるが、ウクライナ情勢で今までのような態度を貫くならば、習氏としては友人で振る舞うことはできず、近づかず遠からずの距離で接することになろう。反対に、プーチン大統領の態度が軟化するようであれば(その可能性は低いが)、習氏としてはロシアと協力できる幅が広がることだろう。

一方、今後の米中関係にも影響しそうだ。台湾問題によって米中の対立がエスカレートすれば、中国としては米国を何かしらの手段でけん制する必要性が高まる。その際に有効な手段としてロシアの存在は大きく、たとえプーチン大統領の姿勢がこのままだったとしても、習氏としては自らロシアに接近する必要性が出てくることも考えられよう。いずれにしても、今後の習プーチン関係は、ロシアや米中対立の行方に左右されよう。

image by: plavi011 / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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