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ウクライナが米国の停戦案を拒否。戦争の長期化必至で歪む世界の均衡

ロシア軍によるインフラ施設への攻撃が続くウクライナ。国民はこれまで以上に厳しい状況に置かれていますが、戦争終結には長い時間を費やすことになるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナの指導層が米軍トップの停戦交渉促進の声に対して「NO」を突きつけた理由を紹介。さらにロシア不在となった中東地域で戦争が勃発する可能性を指摘しています。

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ウクライナ戦争「停戦交渉」の頓挫

ウ軍は、次の攻撃に向かっているが、雪が降り始めて、泥濘が酷く装甲車の移動が難しい状態で、凍結するまで部隊に他再編や移動を行うようである。ロ軍もドンバスとザポリージャ地域に向かっている。この状況でも停戦交渉は頓挫した。今後を検討しよう。

ヘルソン州ドニエプル川西岸からロ軍は撤退し、撤退部隊をドンバスやルハンスク方面に回している。海軍歩兵部隊はドンバス地域で、空挺部隊はドネツクとルハンシクに配備したようである。

それと、9月下旬に動員した予備役を、ベラルーシで訓練したが、その戦車軍団や機甲歩兵旅団をルハンスク州に投入した。

ウ軍はドニエプル川西岸の戦車隊をルハンスク州に回してるが、地面凍結がまだなく、機甲部隊が動ける状態になっていない。ザポリージャ州にも回しているとみるが、まだ攻撃を行わない。

巡航ミサイル攻撃

ロ軍は、地上攻撃が期待通りではないので、巡航ミサイルとUAVによるウクライナ全土のインフラ攻撃をし、ウクライナを厭戦気分にしようとしているようだ。

11月23日は70発以上の巡航ミサイルの内50発を撃墜、自爆型無人機5機の内5機を撃墜した。今回の空爆では、送電線と変電所を狙い、このため、4つの原子力発電所が停止して、このため、停電がウクライナ全土に広がった。今回はKh-101巡航ミサイルを使用したが、残存132機中70機を使ったようである。

ロシアはミサイル生産を続けて、S300のミサイルは7,000機もあり、対空ミサイルを地上攻撃に使用する理由も分かるような気がする。

短距離弾頭ミサイル・イスカンダルは119機しかなく、欧米などの戦線参入にも備える必要があるために、あまり使えないようである。

イランのUAVの残りも少なくなり、ロシアで生産するようであり、その部品をイランが提供するようだ。ウ軍はクリミアで複数のイラン人軍事顧問殺害を認めた。イランの軍事顧問団は攻撃目標になるとした。ロシア生産になれば、イラン軍事顧問団もイランに帰るのであろうか?

大きなミサイル攻撃は1週間ごとに行っているが、生産との見合いでそうなっているようだ。

冷蔵庫や洗濯機をロ軍が、ウクライナで一般家庭から略奪する理由も、ミサイルの制御に冷蔵庫や洗濯機の半導体を転用するためで、最新の冷蔵庫の並行輸入も増えているという。民生用半導体を軍事転用しているようである。

このようにして、経済制裁をくぐり抜けているようだ。イランのUAVも民生半導体や部品であり、経済制裁をくぐり抜けることができる。

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このように、経済制裁をくぐり抜けるので生産地を空爆しないと、生産数量を少なくできないし、生産地を空爆すると核戦争の危険があり、生産を停止できないと、戦争状態が続くことになり、消耗戦は長期に渡る可能性もある。

そして、当初、中国製の半導体を使ったが、不良品率が高くて使い物にならないと結論したようである。

その結果、西側の洗濯機と冷蔵庫が大量に売れることになっているようである。

欧米諸国も無限大に砲弾などをウクライナに提供し続ける必要になっている。

それと、多数の防空システムの提供が必要であり、ドイツがポーランドに提供するとしたパトリオットPAC2防空システムを、ポーランドはウクライナに提供してと要望している。ドイツはNATOが認めないというが、NATOは、ドイツ次第と回答した。ポーランドがドイツ軍の侵攻を受けているので、パトリオット部隊でもドイツ軍を国内に入れたくないと思うのは、よくわかる。

なお、停電していた地域の70%程度は、原発が稼働したことで、11月26日朝までに復旧したようであるが、1週間後には、またミサイル攻撃をロ軍は行うことになるが、さすがに原発を叩くことができないので、送電線を復旧すると電気を得ることができる。

このため、復旧は比較的早く済むことになる。そのため、頻繁にミサイル攻撃をする必要にもなる。

もう1つ、駐ロシア・イスラエル大使はロシア外交部副部長に対して「ロシアにイランが無人ドローンと弾道ミサイルを供給し続けるなら、イスラエルはウクライナに高精度の弾道ミサイルを供給する可能性がある」と伝えた。

しかし、イスラエル製の弾道ミサイルで、国外に出せるのはLORAしかない。これは、イスラエル軍には採用されていないので、在庫があまり無い。このため、生産する必要があり、すぐには供給できなようだ。

これでも、ロシアに中立であったイスラエルもウクライナへ兵器を供与することになる。

南部ヘルソン州

ウ軍は、ドニエプル川西岸を奪還して、東岸のキンバーン半島の奪還を目指しているようであり、特殊部隊が数回渡河したし、ロ軍部隊も配置せずに、砲撃で対応するようである。

このキンバーン半島をウ軍が奪還すると、対岸のミコラーユのウ軍海軍部隊の自由度が上がることで、クリミア攻撃をしやすくなるという。そして、ウ海軍特殊部隊が半島の付け根のザバリネを奪還し、徐々に前進しているという。

ドニエプル川東岸を徐々に前進していることになる。ロ軍の抵抗がそれほどないという。精鋭部隊をドンバスなどに転戦させて、東岸は動員兵に守らせていることで、ロ軍は弱い可能性がある。

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バクムット・ドンバス方面

ロ軍の砲撃数が、400件に上り、ものすごい量の砲撃が行われている。砲弾には半導体が必要ないので、生産量をそれなりに確保しているようである。ヘルソン州に回していた砲弾も入り、兵站もしっかりしているので、全盛期に近い感じの勢いである。

ヘルソンから撤退した精鋭部隊を投入している。機甲部隊も投入して、この地域を占領したいのである。

とうとう、この地域の主力は、ワグナー部隊とチェチェン部隊になり、正規ロ軍の動員兵は、この部隊から、「さっさと塹壕に戻って死んで来い!」と脅されて、前線の塹壕に送り出されているという。

脱走を試みると、拷問が待ち受ける。動員兵は悲惨な状態のようである。この方面の所々に、ロ軍兵の死体の山ができているという。

これは、ロ軍兵は、最前線で生き残るために味方の遺体の隣に隠れて蛸壺を掘ろうするが、銃弾か砲弾の破片が飛んできて倒れ込み、それが数回または複数人でやると一回で小山が出来るという。

そして、冬になり、低体温症になっているのか、蛸壺に複数人数が固まっている所に銃弾が当たっても動かないようである。冬に向かいロ軍動員兵には冬服の支給がないようである。戦闘もないのに、死亡している動員兵もいるようだ。

このような状況を見て、ベン・ウォレス英国防長官はウクライナに対し、冬の間も「圧力をかけ続け、勢いを維持して」ロ軍への攻撃を続けるよう促している。ロシア軍の冬装備がいかにも貧弱だからだ。

それと、ロ軍の第155海軍歩兵旅団は、パヴリウカ戦線で3か月の間に死傷者900名を出し戦闘能力を喪失したとのことである。死者は400~500名とされ、負傷者より死者が多いか同等という状態であり、ロ軍の第一線救護や後送能力の低さを物語っているようだ。

人命軽視で、損耗を増やして、そのため、次々と動員兵の補給も行わないといけなくなる。

ロシアの損耗は、ウ軍の発表では戦死者数は8.5万人にも上り、負傷者数は戦死者数の2倍としても、25万人の損害になるが、クレムリンは、動員兵士の回復不能損失が来年夏までに10万人に達するとの予測している。

FSBに近い関係者は、「大雑把に言うと、とりあえず時間を稼いで、動員された人の力を借りて戦線を安定させるというプランです。そして、春になったらまたやり直すんだ」と言う。

ということで、今後も戦死者数はうなぎ上りに増えることになりそうだ。春までには9月下旬の30万人動員兵の3人に1人が死ぬことになる。ということで、春までには、次の動員兵を必要になる。

ロ軍指導部は、ウクライナでの戦争に勝利するためには500万人の動員が必要だという。総動員令でしか達成できない。ロシアの総人口は1億4,000万人で、労働人口は50%の7,100万人であり、その内、男性は3,500万人で、男性労働人口の15%弱を動員することになる。

それでも、プーチンは、負けを気にせず戦う覚悟であり、プーチンが、政権の放棄または死亡などで辞任しない限り、戦争は継続することになる。

反対に、ウクライナの大統領府顧問ミハイロ・ポドリャク氏は「戦場で主導権を握っている時に『軍事的手段ですべてを片付けることはできない。交渉が必要だ』と提案されるのは理解に苦しむ」と発言。そうした提案は「領土を奪還している国に対し、敗北している国への降伏を迫る」のと同じだと付け加えた。

というように、米ミリー統合参謀本部議長の停戦交渉をするべきという見解に、反対している。一方、ロシアは2月24日以前の線までの撤退での停戦を視野に準備したが、停戦条件がウクライナ全土からの撤退というので、それを飲むことはできないことになっている。

そして、何年にもわたる戦いになる。

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スバトボ・クレミンナ攻防戦

ウ軍は、クピャンスクからP07を南下してスバトボに向け進軍して、いるが、雪が降り泥濘が激しくなり、前進できない状態のようである。

しかし、ウ軍の機甲部隊は集結していると、ロ軍偵察隊は報告しているようだ。

ハルキウ州のロシア国境の街スタリツアにロ軍偵察部隊が侵入している。ロ軍は新しい戦線を構築する可能性がある。ロシア国境近く、補給が楽であり、防御もしやすいことからのようである。

ロ軍や世界の状況

軍事同盟CSTOの首脳会議がアルメリアの首都ティラナで開催されていたが、アルメニアのパシニャン首相は、プーチンも参加したCSTO首脳会議の宣言案などへの署名を拒否。アゼルバイジャンとの紛争でCSTOが支援しない不満があるためだ。

それと、加盟国であるキルギスとタジキスタンの軍事衝突なども表面化。その上、ウクライナ侵攻開始から9カ月が過ぎ、カザフスタンのトカエフ大統領とベラルーシのルカチェンコ大統領は、和平と停戦を目指すべきと言い、ロシアの意向とは違うことで、ロシア主導の軍事同盟は崩壊の危機に直面している。

EU会議では、ロシアをテロ支援国と認定したし、国連でも中印を含めて、インフラ施設への攻撃に対して、ロシアを非難した。

このプーチンは、ベラルーシを参戦させたいようで、ベラルーシにある原発を攻撃する偽旗作戦をロ軍は計画しているとウクライナ情報総局が公表した。ベラルーシもロシアの参戦依頼を断ってきたが、ロシアに警戒している。

というように、ロシアの孤立化が進んでいる。

特にカザフスタンは、ロシア離れが進み、米中に寄り始めている。そのカザフスタンの動きを見て、ロシア国営TVのソロビヨフは、「次はカザフスタンへの侵攻だ」と宣言した。

カザフスタンにもスラブ系民族が多く住む場所があり、そこへ侵攻される危険を認識している。ウクライナの次は、自分たちとの思いがあり、ロシアへの対抗を考える必要がある。

孤立化したロシアは、戦争を継続するために、装備から戦車まで、戦争に必要な物資の生産を増強するために、調整会議を作り、そこで、プーチンは、あらゆるものの量を増やすことを要求している。

しかし、軍産複合体(DIC)の企業には、約2万人の有能な労働者が不足しているとし、防衛産業だけでも3,800人以上不足とのことである。

その上に、イランのドローンも生産することになり、その部品調達や生産もすることになる。ウ軍がハッキングで得たイランのドローンを調べると、ドローンの部品の多くが米国や米同盟国のものであり、米国は調査を開始した。

ということで、ロシアは益々、軍事国家になる。戦争で知能労働者は国を離れ、労働者の多くも戦場に駆り出され、学徒や女性を工場などに駆り出して、国家総動員で戦争遂行に邁進するしかない。

そして、ロシアは、石油価格上限設定国への石油・天然ガスの販売禁止する大統領令を準備しているという。石油も高額では売れないことになる。中印や発展途上国や新興国に安値で売ることになる。

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一方、トルコは、ロ軍のいなくなったシリアへの攻撃を強化している。特にシリアのクルド人地域に対して、攻撃しているし、その地域にはロ軍基地があった場所で、ロシアはトルコに自制を要請している。

トルコは、トルコ系住民の地域も確保して、この範囲を広げたいようである。シリア内でのトルコの影響力が増加している。イスラエルもシリアを空爆して、イラン革命防衛隊を叩いている。イランのドローン工場も叩き、ロシアへの提供ができなくなっている。

ということで、ロ軍が、この地域にいなくなり、押さえが効かなくなっている。特にシリアをめぐる戦いが再度起こる可能性が濃厚である。イスラエルはIS系組織を支援するし、トルコはトルコ系民族組織を支援することになる。

イランも、国内の混乱の原因として、イラクのクルド人自治区を攻撃しているので、中東での戦争の可能性も排除できないようだ。

しかし、台湾では、地方選挙で国民党が勝利し、民進党が負けたことで、当分、台湾有事の可能性が低くなることが、期待できる。

これにより、中国に平和統一の希望を与えたことになる。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2022年11月28日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Володимир Зеленський - Home | Facebook

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