急速に進化を遂げるAI、人工知能。その進化を止めることはできず、以前からの想定以上に多くの仕事がAIへと移行していくことになるようです。メルマガ『週刊 Life is beautiful』著者で「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんは、米AI研究機関「OpenAI」が開発した会話形式で対話できる人工知能システム「ChatGPT」に関する海外記事を紹介。今「ChatGPT」が話題となっていますが、以前より文章作成AI「GPT-3」に触れ、その驚異的な精度を知っていた中島さんは「何をいまさら?」と感じたそう。その上で、従来の教育が意味をなさなくなることに触れ、「AIを使いこなせるか否か」とはまた別の「深刻な格差」が生まれつつあることを指摘しています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。)
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
この記事の著者・中島聡さんのメルマガ
会話形式で対話できるOpenAIの人工知能システム「ChatGPT」
【記事の要約】本稿では、会話形式で対話できるOpenAIの人工知能システム「ChatGPT」が、投資家に投資候補先を知ってもらうための可能性を探っていく。OpenAIは、2015年に設立され、2019年にマイクロソフトから10億ドルの資金提供を受けたサンフランシスコの企業である。筆者は、このシステムを使って投資アイデアに関連する記事を調査・執筆したところ、人間が行うよりもはるかに効率的に情報を照合し、最適化できることがわかったという。記事では、AIが私たちの社会に及ぼす影響や、それが善にも悪にも利用される可能性についても触れています。最後に著者は、AIがどのように生活を便利にしていくのかについて、興奮と少しの恐怖を表現しています。
ChatGPTが急速に注目を集めていますが、以前からGPT-3を触っていたエンジニアとしては、「何をいまさら?」という感じですが、UIを少し変更しただけでこれだけの反応が市場から返ってくるというのは、UIの大切さを語る上でもとても重要です。
OpenAIが証明しているのは、巨大なニューラルネットワークに人類の叡智を詰め込んでしまえば、通常の人間よりも遥かに知識が豊富な人工知能が出来てしまうということです。
既に、簡単なエッセイや説明文を書くことは出来るし、プログラミングも出来るので、これによりさらなる人が職を失うことは確実です。実際、VC(Venture Capitalist)をしている私の長男は、GPT-3を使って投資先の評価をしたり、CEO向けのレポートを作ったりしていますが、これは本来であれば人を雇って行う仕事です。
ChatGPTの誕生により、宿題をChatGPTにやらせる子供達が出てくることは確実で、教師もそれを前提にした課題の作成をしなけれなならない時代になりました。
人工知能の誕生により、「勉強なんかしなくて良い」「勉強なんかする必要がない」と考える子供達が増えることも確実で、それによって、「ちゃんと勉強した人」と「そうでない人」との開きがさらに大きくなる可能性があると私は思います。それは結果的には、「一部のエリート達が社会を動かし、他の人たちは養われている」というディストピア的な未来につながるように見えます。
この記事の著者・中島聡さんのメルマガ
大量に生まれる「社会に価値を提供出来なくなった」人たち
今後、人工知能が人類を超えて賢くなってしまうシンギュラリティの話題が増えるだろうと思いますが、私は「地球が人工知能に乗っ取られてしまう」ことを心配することよりも、「人工知能の誕生により、社会に価値を提供出来なくなってしまった人たち」が大量に生まれることの方を心配すべきだと思います。彼らの不安や不満を巧みに利用したポピュラリストが選挙に勝ち、それが極端な人種差別政策や排他的・利己的な国の運営につながる可能性は否定できません(トランプ大統領の誕生が良い例です)。
「社会の下層部に追いやられてしまった人たち」が一番必要としているのは、もちろん社会からのサポートですが、残念なことに彼らは、その苦しさから紛れるために「自分より下の人々の存在」が必要だと感じてしまい、それが人種差別や隣国との争いに発展するのです。
こんなことを言うと「そんな人ばかりじゃない」と怒る人がいると思いますが、残念ながらこれが人間の性(さが)・弱さであり、歴史がそれを証明しています。
人工知能の進化は今更止められないし、止めるべきではありません。そして、それが大量の失業者を生み出すことも自明であり、彼らの弱さを利用するポピュラリストの誕生も必然です。
私たちに出来ることは、こんな人間の弱さを正直に認めた上で、そこを巧みについたポピュラリストが政権を握ってしまうことをどうやって防止するか、そして、万が一握ってしまった場合に、彼らの暴走をどうやって食い止めるか、を考え、準備しておくことです。
その意味でも、自民党が憲法に付け加えようとしている「緊急事態条項」には慎重であるべきと私は考えます。「緊急事態条項」は、緊急事態宣言さえすれば、国会議員の任期を延長したり、国会を通さずに緊急法令を制定する権利を政権に与えてしまうため、政権の暴走を止められなくなってしまうのです。(『週刊 Life is beautiful』2022年12月13日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)
この記事の著者・中島聡さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com