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撤退の意思なきプーチンは核兵器を使う。人類が2023年に迎える正念場

12月24日で勃発から10ヶ月となるウクライナ戦争。劣勢が続くと伝えられるロシア軍ですが、プーチン大統領に兵を退く意思はまったく見られないのが現状です。年内の終結が絶望的となったこの戦争は、今後どのような展開となるのでしょうか。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏は、これまでの戦況や国際社会の反応等を詳細に分析。その上で、2023年に核戦争が起こる可能性が今年以上に高まりかねない理由を解説しています。

ロシアによる核使用リスクは何も変わっていない

今年世界を悪い意味で震撼させたのは、なんといってもロシアのプーチンだ。2月24日のウクライナ侵攻以前、多くの国際政治専門家たちは「侵攻しない」と断言していたが、それは見事に夢物語となった。ロシアが侵攻したことで世界の目はロシア・ウクライナ一辺倒となり、バイデン政権を中心に欧米諸国は一気にロシアへの態度を硬化させた。欧米はロシアに対して制裁を強化し、ウクライナへの軍事支援を強化するようになった。

侵攻当初、プーチンは短期間のうちに首都キーウを陥落し、ゼレンスキー政権を退陣へ追い込み、親プーチンの新政権を樹立させる構想だった。しかし、欧米による軍事支援を受けたウクライナ軍はロシア軍の進軍を何とか抑え込み、春以降はロシア軍が勢いを失い、兵士の士気低下や給与未払いなどが顕著になり、ロシア軍の劣勢が進んだ。キーウの掌握などは夢のまた夢となり、ウクライナ東部や南部で何とか持ちこたえるという状態が継続した。

そのような中、9月、プーチン大統領は劣勢を覆すべく、兵士増員を図るため軍隊経験者などの予備兵を招集する部分的動員を発令した。しかし、それに対する反発が国内で一気に拡大し、モスクワやサンクトペテルブルクなどロシア各地では反発する市民と治安部隊との間で衝突が相次ぐだけでなく、一部のロシア人がフィンランドやジョージア、カザフスタンなど隣国へ避難するなどした。

核兵器の使用を否定しないプーチン大統領

また、プーチン大統領はその後ウクライナのドネツクとルハンシク、サボリージャとヘルソンの東部南部4州でロシア編入の是非を問う住民投票を行い、同4州のロシアのへ併合を発表した。だが、ロシア領土に編入した割には、ウクライナ軍の攻勢によって11月にはロシア軍がヘルソン州から撤退するなど、その失策は誰の目にも明らかになっていった。

このような劣勢の連続により、国際社会ではロシアによる核使用を巡って懸念が高まっている。プーチンの一部の側近たちは本気で核使用もあり得るという構えで、プーチン自身も核使用について10月に「使用する意味はない」と発言したことがあるが、明確には否定しておらず、今後もその懸念は拭えない状況だ。

そして、ロシアによるウクライナ侵攻から9か月となった11月、ウクライナの国防大臣はこれまでにロシア軍がウクライナ領土に打ち込んだミサイルの数は1万6,000発を超え、そのうち民間施設への攻撃が97%に上っていると明らかにした。ロシア軍は劣勢を少しでも打開すべく、ウクライナの社会インフラを麻痺させるためインフラ施設を意図的に攻撃し続けており、国際的な非難が強まっている。

友好国からも聞かれるようになったロシアへの懸念

自ら仕掛けた戦争が自らの首を絞める結果になっている状況に、ロシアの友好国からもロシアへの懸念が聞かれるようになった。たとえば、9月にプーチンと会談した中国の習国家主席は、ウクライナ問題について終始無言を貫き、プーチン大統領が「中国の我々への疑念を理解している。中国の中立的な立場に感謝する」と伝え、中露間で亀裂が生じていることが明らかになった。

習国家主席は11月上旬にドイツのショルツ首相と北京で首脳会談を行った際、欧州での核戦力の使用に反対すると立場を明確にし、11月のバイデン大統領との米中首脳会談の席でもウクライナでの核兵器使用や威嚇に反対すると明確な意思を示した。また、インドのモディ首相も9月、ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」とウクライナ侵攻を批判し、同月、国連総会の場でインドのジャイシャンカル外相もウクライナ侵攻によって物価高やインフレが生じたと不快感を示した。

既に、ロシアに勝ち目はない。そうであればできるだけ早いうちにウクライナから撤退し、ロシア国家が受けるダメージを最小化するようプーチンは動き出さなければならない。しかし、どうも諦めるつもりは一切ないようだ。

米国のヌーランド国務次官は12月はじめ、プーチンはウクライナの電力施設への攻撃を続けるなど卑怯な手段を徹底し、今後の和平協議についても真剣に考えていないとの見解を示した。ロシア大統領府クレムリンのペスコフ報道官も、ウクライナ侵攻で占領した地域を同国政府がロシア領と認めない限り、紛争解決に向けた進展はないとの見解を示し、ゼレンスキー大統領がクリスマスまでに軍を撤退させるよう呼び掛けたのに対し、ロシアはそれを拒否した。

今年以上に核戦争のリスク高まる2023年

そして、今日相変わらず非欧米諸国の態度がプーチンを安心させている。たとえば、習近平国家主席は11月下旬、エネルギー分野でロシアとの関係をより緊密にし、国際的なエネルギー安全保障の安定に貢献していく意思を表明し、インドのジャイシャンカル外相も同月、モスクワを訪問してロシアのラブロフ外相と会談し、ロシア産石油の輸入を継続するなどエネルギー分野での協力を拡大させていくことで一致した。

さらに、パキスタンの石油担当大臣も12月上旬、ロシアから割引価格で原油やディーゼル燃料などを購入すると明らかにした。世界的なエネルギー価格が上昇する中、中国やインド、パキスタンなどにはエネルギーを確保しておかなければならないという切迫した事情があり、安価なロシア産原油などは極めて魅力的に映る。

結局のところ、プーチンは自分で蒔いた種で自爆しているわけだが、全く反省している様子は見えない。それどころか2023年もこの戦争を続ける意思で満たされており、今後さらにロシアの劣勢が顕著になれば、核使用のリスクは間違いなく上がるだろう。来年は今年以上に核戦争の可能性は高いと言えよう。

image by: Shag 7799 / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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