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学校は隠ぺい、校長が妨害。静岡県湖西市市立中いじめ事件の信じがたい事実

これまでもたびたび問題となってきた「いじめ」を巡る学校側の不適切な対応。静岡県湖西市でも、信じ難い事案が発生していたようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、同市の市立中学校で起きた「重大事態いじめ」と、その報告を受けた校長の耳を疑う発言内容を紹介。文科省による「いじめの重大事態に関するガイドライン」を完全に無視したに等しいその姿勢を厳しく批判しています。

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「それで?」重大事態いじめの対応を拒否する中学校長の無知蒙昧

2022年2月1日付、静岡新聞に湖西市の市立中学校で生徒を無視するなどのいじめがあって、第三者委員会を設置していることが31日までにわかったという主旨の記事があった。

いじめの発覚は、令和元年(2019年)5月の事である。

静岡県湖西市の市立中学校に通う元気で真面目な女子生徒が、何の前触れもなく、卓球部で無視をされはじめた。

無視は仲間外れに発展し、「存在の無視」まで進む。

当時の写真などをみるとそれは明らかで、仲の良かった期間は、それぞれの距離感が近くみんな笑いあっている様子が見受けられるが、いじめが始まった以降は、写真の中での距離感は大きく離れているし、笑顔はない。卓球の団体戦では、掛け声や応援声援が行われるが、被害女子に対しては、声援も掛け声も無しという異様な空気であった。

当初教員らは、これをいじめとは見ていなかった節が強い、記録によれば、スクールカウンセラーからいじめであると進言され、いじめであると再認識したようだ。

主体となる加害行為を行っていた生徒は、被害側が収集した記録によれば、「(校長)精神的な治療が必要な子」だと表現されている。人間関係を支配的に上下関係として結び、自己の欲求のままに他人を貶める傾向が強く、被害生徒へは苦手意識があって、いじめ行為をしていたというのだ。

また、被害生徒が部活に行かなくなったり、不登校の状況になるや、すぐに下級生にターゲットを変え、新たないじめを行っていたという証言もある。つまり、常習的にいじめ行為を行っていたのだ。

現在はその心理的被害の深さから軽微とは言わない「無視」

頻発するいじめの項目として、「無視」「仲間外れ」は代表的なものとなるが、これまで、「軽微ないじめ」とされてきた(まだその傾向は強いが)。

しかし、近年、その行為は軽微に見えても、その被害は、個人差はあまりなく心の傷が深く、修復不能となるケースが目立ち、軽微ないじめとして捉えるべきではないと考えられるようになってきている。

大人の世界で生き、子ども時代の事を忘れている大人には思い出しにくいであろうが、想像するとしたら、会社で存在がなかったものとして扱われ、家庭に帰っても誰も口もきいてくれなければ孤立させられる状態になり、食事も自分の分はなく、外食も一緒にはいけない、お風呂に入ろうとしても湯船の水は抜かれ、何かをするたびに舌打ちをされる。SNSでつぶやいても、誰も閲覧しておらず、LINEで連絡しても既読すらつかない状態を想像してほしい。

無視というのは、その存在を否定するメッセージであり、極めて残酷な行為であるのだ。

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学校による隠ぺい

本件はその異様さから一部の保護者はいじめがある事を知っていて、個別面談でも不登校の話などが出ていたという。

しかし、これに担任は「うちのクラスに人間関係で休んでいる子はいない」など嘘をついたそうだ。突っ込まれると「女子卓球部のこどもにも親にも聞き取りをしたが、そのような事実はない」などと言ったという。

しかし、その段階では、聞き取りは行われていない。つまりは、いじめの事実を必死に隠していたわけだ。

さらに、この段階においては、すでに加害行為を常習的に行う子という加害者の特定は済んでおり、この子がいるときと居ないときでは、部内の様子が変わるということも共有されていたという。

また、被害生徒の保護者が、いじめの調査を求めたり、加害生徒への指導を求めると、「波風を立てることで、被害生徒本人の立場が悪くなる」などと半ば脅迫めいた発言も受けていた。

教育的指導を怠り、被害側の口封じをしようとしたり、対策放置した結果、いじめが常態化して被害者が深刻な状況になってしまったわけだ。

校長による妨害

この件でもっとも酷い対応であったのは、この中学校の校長の対応だ。

その実、令和元年11月下旬には、被害者は「いじめによる重大な被害」が医療機関より意見されている。文科省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」では、こうした深刻な被害に関しては、「重大事態いじめ」として対応することになっているが、当時の校長は、こうした医療機関の意見を受けての返答をこのようにしている。

校長 「それで?」

これをまともな対応と言えるだろうか。深刻な被害状況になっているのを見て、それを証明されたいる状態で、さらには、国のガイドラインでは、すぐさま対応しなければならないのに、だ。

当時の録音によると、校長は続けて

「(被害生徒)が人の目をじっと見て話す、ちょっと変わっている、親になんでもかんでも話すなんて逆におかしい。違和感を感じる」

「親まで一緒になって、いじめだいじめだと騒いでいる」

といじめの対応をする事を拒絶している。その後、市教育委員会や家児相(家庭児童相談室)などから注意を受け、「被害生徒に申し訳ない事をした」と謝罪の言葉を言っているが、いじめの定義も知らず、国のガイドラインも無視し、最も責任のある立場であるにもかかわらず、冷静な話し合いもしなかったわけだ。

そもそも、この令和元年の11月当時では、教員らはいじめの認識があったにもかかわらず、校長がこの対応では、何も進まなかったことは理解できる。

誤った対応を続け、その結果、この校長はとんでもない対応をするのだ。

いじめの存在を担任、部活顧問、学年主任などが認めていたのにも関わらず、「いじめはありませんでした」との書面を被害側に提示したのだ。

いやいや、そこじゃないでしょというところだが、この書面はいじめ発生の令和元年ではなく令和3年に作成されているのだ。結局、この校長は、いじめの事実を隠蔽し続けたことになろう。

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そもそも令和元年のいじめ事件である

本件の発生は令和元(2019)年5月である。一部新聞報道では、被害側が聞き取りに応じずと記載があるようだが、被害側の申告により第三者委員会設置の申し入れがあって、その3年後の2022年2月に第三者委員会が設置されていたことが報じられている。

実際は、いじめの重大事態として認定しているとの意思表示が湖西市教育委員会からあったのは、令和3(2021)年6月23日であり、その電話はわずか1分程度のものであった。

そして、第三者委員会の設置は、令和3年11月16日のことであり、4人の調査委員のうち、一人においては、被害側は会ったこともないという。

おおよそ、報道機関に対しての情報提供が大きく遅れたということもあろうが、第三者委員会設置についてまでの動きはノロノロビームを喰らったのかの如く遅すぎるのだ。

反省のない組織に再生の余地もない

以下は、文科省のガイドラインに載っている文面である。

基本方針やこれらの調査の指針が策定された後も、学校の設置者又は学校において、いじめの重大事態が発生しているにもかかわらず、法、基本方針及 び調査の指針に基づく対応を行わないなどの不適切な対応があり、児童生徒に深刻な被害を与えたり、保護者等に対して大きな不信を与えたりした事案が発生している。

学校の設置者及び学校は、いじめを受けた児童生徒やその保護者(以下「被害児童生徒・保護者」という。)のいじめの事実関係を明らかにしたい、何があったのかを知 りたいという切実な思いを理解し、対応に当たること。

学校の設置者及び学校として、自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し、被害児童生徒・保護者に対して 調査の結果について適切に説明を行うこと。

重大事態の調査は、民事・刑事上の責任追及やその他の争訟等への対応を直接の目的とするものではなく、いじめの事実の全容解明、当該いじめの事案への対処及び同 種の事案の再発防止が目的であることを認識すること。学校の設置者及び学校として、調査により膿を出し切り、いじめの防止等の体制を見直す姿勢をもつことが、今後の 再発防止に向けた第一歩となる。

学校の設置者及び学校は、詳細な調査を行わなければ、事案の全容は分からないということを第一に認識し、軽々に「いじめはなかった」、「学校に責任はない」という判断をしないこと。状況を把握できていない中で断片的な情報を発信すると、それが一人歩きしてしまうことに注意すること。また、被害者である児童生徒やその家庭に問題があったと発言するなど、被害児童生徒・保護者の心情を害することは厳に慎むこと。

上にあるように、教育現場からは離れているとされる文科省ですら、各事件をみて、共通する問題を具体的に指摘できるから、ガイドラインを設けたのだ。

少なからず、湖西市のこのいじめ事件では、上に挙げた全てのガイドラインの文言に違反しているのだ。

現在、第三者委員会の元、調査が行われているというが果たしてどうなるか。

次回以降で、本件については、さらにトンデモ発言とトンデモ対応があったことを報じる。

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編集後記

現在、いじめ放置などの問題があちこちから噴出していますが、放置、隠ぺいは、いじめ問題では「あるある」の対応と言えます。

あまりに多すぎて、マニュアルでもあるのかと思えるほどです。

特に、文科省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」はこれまでのダメ対応などを踏まえて作られたと言えるものですが、読めば読むほど、「あるある対応」だなと腑に落ちます。

だから、様々な対応で、担当者に読んでますよね?と私は尋ねるようにしています。ほとんどの担当者は読んでいますと答えますが、読んでいるのにガイドラインとは真逆の対応をしてくるので、読んだと嘘をついたか、著しく無能か、ガイドラインに反発している行動なのかのいずれかだと思わざるを得ません。一言で言えば、悪質です。

中には、「ガイドラインは法律ではない」と怒鳴ってくる輩もいますから、恥を知れと言いたくなります。

今回の件は、まだ第2弾、第3弾でも問題点を指摘していきますが、「お前もかっ」と突っ込みたくなるかもしれません。

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image by: Shutterstock.com

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社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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