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アパレル業界が縮図。日本をダメにした「グローバル化」と復権のカギは?

ロシアによる戦争に端を発した物価高、長引くコロナの影響を更に不安にさせる中国での感染爆発と、新年を迎えても先が見えない状況が続いています。衰退が指摘される日本の現状を変えることはできるのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、長くアパレル業界と関わってきた立場からグローバル化の推進が日本の衰退を招いたと指摘。日本のように何でも作ってきたモノづくりの国では、為替変動に影響しないビジネスのあり方を模索しつつ、ローカルに根を下ろしていくことに可能性があると伝えています。

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2023年、どう生きる?

1.混乱と転換の年

2023年が混乱の年になることは間違いないだろう。ロシア・ウクライナ戦争は長期化しそうだ。EUの混乱も収まらないだろう。中国のコロナ対策と経済活性化の見通しは暗い。台湾有事の可能性も高まるばかりだ。中東ではイスラエルとイランの対立が激化し、新たな国際紛争が始まるだろう。

米国はこれらの国際問題を解決する気があるのか、それとも混乱を煽りたいのかが見えない。米国国内も課題が山積している。

日本も安倍氏暗殺後、防衛増税問題、統一協会問題、相次ぐ大臣の辞任など岸田首相のリーダーシップが問われている。金融政策は実質上の利上げに転じ、ドル円為替は円安から円高に転じたが、これも長期的にどうなるかは見通せない。

コロナ禍で休業を余儀なくされた中小零細企業は助成金で延命してきたが、返済の時期が近づいている。かねてからの後継者問題も重なり、大量の廃業、倒産も予想される。高齢化による農家、酪農家の廃業、倒産も心配されている。国内でもコメ不足や牛乳不足が起きる可能性は高い。

中国に過度に依存した製造業は、撤退するにも多大な経費が掛かる。といって、これまで通り継続するのも難しい。東南アジアに移転するか、国内に回帰するか。国内に回帰したくても、電力不足と労働力不足が足を引っ張る。

中国製品に依存してきた流通業も、サプライチェーンの見直し、商品政策の見直しが急務だ。このように、2023年はまだまだ混乱が続くだろう。そして、企業も個人も転換が迫られている。

2.日本を見直そう

コロナ禍の混乱状態の中、日本が底力を見せる場面は少なくなかった。ワクチンができる前、既存の日本製の薬で効果が期待できるものが次々と発見された。また、ワクチン開発にも複数の企業が手を挙げた。マスク不足の時には、日本中の繊維関連企業で布マスクが生産した。アルコール消毒液が不足すれば、酒造メーカーが対応した。

日本はやはりモノづくりの国だ。ワクチンも薬品もマスクも何でも作れる。太陽光パネルも半導体も世界一になった実績がある。コスト競争に負けたが、そのノウハウと経験は現在も失ってはいない。トヨタは自動車販売で世界一になったし、次世代の水素エンジンやEVの開発でも世界をリードしている。

日本は、ロケットも飛行機も新幹線も作れる。原子力発電所、高性能の火力発電所、水力発電所、地熱発電所も作れる。天然ガスの液化技術、海水の淡水化技術等も得意分野だ。あらゆる製品をつくり出す工作機械も世界一の技術を持っている。

ハイテクばかりではなく、職人の手仕事も健在だ。日本製のはさみや包丁は海外でも人気だ。醤油、日本酒等の発酵技術から発展したバイオ技術のレベルも高い。あらゆるモノ作りの技術のレベルが高く、国内市場の規模も決して小さくはない。日本は、海外から見たら羨ましくなるような可能性にあふれた国だ。

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3.為替変動に左右されないビジネス

何でも作れる国なのに、国際競争で負ける理由は、コスト高である。しかし、コストは為替で変わる。そして、為替は政治で変わる。自分たちの力の及ばないところで、競争力は決められていく。急激な円高と円安が交互にやってくる度に、日本企業は淘汰されていく。これを防ぐには、為替に影響を受けない経営を行うしかない。例えば、輸入でも輸出でも儲かるビジネスモデルを作ることだ。

基本は付加価値の高いブランドビジネスである。最初から利益率を高く設定することで、販売価格は安定する。大量生産大量販売ではなく、販売できる量だけを生産し、プロパー販売比率の高いビジネスを行うこと。固定客を獲得し、安定した売上を確保すること。価格競争に陥らないこと等々が事業のポイントだ。

そもそも海外生産は、大量生産大量販売を維持するために行われたものだ。例えば、国内で高価格帯のコレクションラインを生産し、海外で低価格帯のセカンドラインを生産する。それらの商品を、海外市場と国内市場で販売する。あるいは、物販だけでなく、サービス業の業態開発を行う。

第二に考えられることは、国内で完結したビジネスを行うこと。国内で企画生産し、国内で販売する。そうすれば、少なくとも為替の影響は少ない。価格競争に陥らず、大量生産しないのなら、国内生産でも十分に対応できる。

バブル崩壊後に始まったグローバル化は、より広範囲の競争を招き、一握りの勝者と大多数の敗者を生み出した。そして、一握りの勝者になるには、高度な政治力が不可欠だ。

例えば、中国企業はビジネスと政治が密接に結びついている。その意味で、日本企業は中国企業と共通のルールで勝負していない。別々のルールで戦っているのだ。反則が許されている相手と勝負しても勝てるはずがない。これは個人的見解だが、善良な一般の企業は、グローバリズムを目指すべきではないと思う。

4.野蛮な株主優先経営

国内生産の商品を海外生産に切り替えると、製造業の利益がそっくり海外に移る。小売業が自社の利益だけを考えるなら、仕入れ先が国内でも海外でも関係ない。しかし、トータルな国益を考えると、その違いは大きい。結局、多くの日本企業は自社の利益だけを考えている。それを海外政府に利用されている。個人も同様だ。

政治家や経営者を1~2億円で買収し、年商1千億円の会社を乗っ取れば安上がりだ。自社で技術開発するより、他者の技術を盗んだ方が安上がりだ。個人が自分の利益だけを考えているなら、簡単に買収できる。その他の社員が犠牲になっても関係ないと考えるだろう。

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一つの技術を追求して何十年も経営を持続してきた企業を、簡単に買収できるというのは制度的に不備があると思う。本来、金で買えるはずのないものを、金で買えるように制度設計しているのだ。

株式を上場することは、一時的な利益を得ることができるが、投資家に買収される危険性が生じる。昔は、銀行や取引先と株式を持ち合うことで経営の安定を図っていたが、グローバル経営という名目で法的に禁止された。

株式を上場すれば外国人投資家が株主になる。彼らは、より高い配当を求め、その結果、社員の給料を上げることも福利厚生を充実させることもできなくなる。下請けの工賃も叩かなければならなくなる。海外の投資家が利益を得て、国内の社員や下請けが貧しくなる。株主優先の経営は野蛮なのだ。

同族経営は遅れていると言われるが、それは日本企業を支配しようとする勢力のプロパガンダだ。世界では同族会社が主流である。

5.日本語がグローバル化の堤防

世界に貧困や飢餓が増えたのは、自給自足的経済から貨幣経済に移行したからだ。食糧を確保する仕事を、金を稼ぐ仕事より優先させれば、簡単には飢餓にはならない。

便利な家電製品や自動車、スマホを見せることで個人の欲望を増大させ、現金収入が得られる仕事へと誘導し、奴隷労働に従事させる。お金で縛り上げることで、最終的には食糧もお金で買わなければならなくなる。その結果、貧富の格差が広がり、飢餓や貧困が生じるのだ。

日本人が食糧危機にならないのは農家の存在によるところが大きい。しかも、日本の農業は兼業農家が支えている。農業の収入だけでは生活できなくても、農業を持続してくれるお蔭で、我々は食糧の心配をしないで済んでいる。

日本の農家が高齢化で廃業し、穀物メジャーやグローバル企業に農業が支配されると、日本人を食糧で支配することが可能になる。今後数年間でそういう動きが加速されるだろう。

日本が海外資本に支配されにくいのは、日本語のお蔭だ。もし、日本国内のビジネスが英語でできるようになれば、あっと言う間に外国資本と外国人労働者が押し寄せ、日本人の仕事が奪われるだろう。これは、移民問題で悩む欧米で起きていることだ。

当然、日本を支配しようとする勢力は、英語化を推進するはずだ。日本人が伝統的な生活スタイルや価値観を維持することが、実はグローバル化をくい止めることにつながっているのである。

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6.地域コミュニティは生活安全保障

安心安全な生活を持続するには、外国に依存せず、貨幣経済にも過度な依存をしないことだ。地域コミュニティを大切にして、日常的にモノのやりとりを行うことは、無駄な行為のように思えるが、実は重要なことだ。お土産のやりとりや、料理のやりとりをすることは、非常時のコミュニティの基盤となるからだ。

同様に、お祭りも重要だ。神社に寄付をして、一緒に神輿を担ぎ、一緒に酒を飲む。お金を稼ぐ仕事以外の行動が生活の安全保障につながっている。

お金以外のやりとりがある社会では、お金を稼ぐ仕事だけではなく、地域に貢献する仕事がある。それが地域コミュニティの基盤である。堅固な地域コミュニティの基盤があれば、地産地消が定着しやすい。多少価格が高くても、友人や知り合いから買った方がいいという気持ちが芽生えれば、地域での起業も容易になる。

グローバリズムが崩壊した後は、地域コミュニティが重要になる。一度捨て去ってしまった地域コミュニティ活動をいかに復活させるかが重要だ。

7.ローカルブランドの育成

グローバリズムの時代はグローバルビジネスが主流だった。グローバルビジネスでは、世界で最も安く作れる地域で生産し、最も高く売れる地域で販売することが基本だ。この考え方では、常に低コストの地域を求めて生産地を移転し続けることになる。

日本のアパレル生産は、最初は都市部で始まり、次に地方に移転した。そして、台湾、韓国に移転し、最終的に中国に行き着いた。中国生産が不安定となった現在、更に東南アジアへの移転を考えている。

こうしたビジネスはサスティナブルではない。遠距離から貨物を運ぶことは二酸化炭素を増やすことでもある。次から次へと生産拠点を買えることは、地元の経済を不安定にして、貧困を生み出すことにもつながる。今後は、ビジスの発想を変え、ブランドの発想も変えなければならない。

世界は一つの価値観でまとまってはいない。多様な価値観を持つ多様な国と地域、多様な人種や宗教が共存している。従って、本来はそれぞれの地域で地産地消を進めるべきだ。それこそがサスティナブルなビジスである。

ローカルで開発して、ローカルで生産し、ローカルで消費する。ローカルな雇用を守り、ローカルな経済活動を活性化する。こうした草の根的なブランド開発、ビジネス開発を推進していきたいと考えている。

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■編集後記「締めの都々逸」

「世界統一 政府に通貨 グローバリストの高笑い」

いろいろ書いているうちに、何となく散漫になってしまいましたが、要は「グローバリズムに騙されるな。グローバリズムを疑え」ということです。日本人はまず相手を信用するところから始まるので、実に騙されやすいんですね。

陰謀論という言葉がありますが、むしろ、「世の中には陰謀なんて存在しない」「皆ルールを守って自由競争で生きているんだ」と本気で思っているのでしょうか。

我々の生活の中でも、嘘をつく人はいるし、他人を騙そうとする人はいます。同様に、嘘をつく会社はあるし、他社を騙す会社もある。更に、嘘をつく国家もあるし、他国を騙す国家もあります。これは歴史が教えてくれますよね。

最も重要なことは、マスコミも公平ではないということです。明らかに恣意的に情報をコントロールしています。新聞やテレビが正しいと思っている人は、それだけで騙されます。嫌な渡世だなぁ。(坂口昌章)

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