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お客の6割は外国人。海外からの観光客が「行くことに憧れる」日本の焼鳥居酒屋くふ楽は何が凄いのか?

コロナ禍前の水準には及ばないものの、徐々に戻りつつあるインバウンド客。そんな中にあって、海外の観光客から「来店することが憧れ」と言われるほどの人気を誇る飲食店をご存知でしょうか。そんな居酒屋を紹介しているのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、焼鳥「くふ楽」代表の福原裕一さんへのインタビューを通じて、同社が国内外で大人気を誇る理由を探っています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

焼鳥「くふ楽」代表・福原裕一さんに聞く、日本発の焼鳥居酒屋が国内外で大人気となった理由

最近、東京・銀座、新宿、渋谷を散策しているとインバウンドが増えてきていることを実感する。コロナ禍が落ち着いてきて“通常”になりつつあることを感じる。インバウンドはこれからもっとにぎわっていくことが予想される。そこで飲食店はインバウンド対策にどのように取り組んでいるかということで、このトレンドを享受できるか否かということが分かれるのではないか。

そんな中でKUURAKU GROUP(本社/千葉県船橋市、代表/福原裕一)という居酒屋企業の銀座、新宿、渋谷の店がとても好調だという話を聞いた。これらの店は2022年10月に入って開店して以来の過去最高売上を達成しているという。

顕著な例は「福みみ銀座店」、25坪55席の規模にあって昨年11月に1,300万円を超えた。坪月商50万円を優に超えている。「福みみ新宿三丁目店」は35坪68席で1,475万円となった。これらの店ではインバウンドが6割を超えている。平日満席の同店にふらりと尋ねると、外国人の従業員から「予約していますか?」と尋ねられる。このような繁盛ぶりの背景にはどのようなことがあるのか、同社代表の福原氏(57)に取材をして考えてみた。

銀座、新宿、渋谷の店舗ではインバウンドが6割を占めて開店以来の過去最高売上を達成している


インバウンドがプラスの情報を発進

福原氏は日本マクドナルドの創業者である藤田田氏の著作に感銘を受け、日本マクドナルドに入社。その後、飲食業で起業しようと焼鳥店で経験を積み、1993年4月千葉・市川に「炭焼BARくふ楽 本八幡店」をオープン。以来飲食店を展開するようになった。業態は主に焼鳥居酒屋で現在国内では東京を中心に15店舗を展開している(ほかに教育事業を4施設)。

同社の特徴は、創業間もない2004年に海外、カナダに出店したことだ。以来アウトバウンドを推進している。現在海外はカナダ8店、インド7店、スリランカ、インドネシア、アメリカ各1店と18店。国内よりも海外の店舗が多くなっている。

「創業間もない段階で海外に出店することに不安はなかったか」と福原氏に尋ねたところ、こう答えてくれた。

「それはまったくなかった。日本のマーケットを見たときに外食産業は縮小することが想定されていたし、飲食ビルに象徴されるように競争が激しいのは日本の外食産業の特徴。そういう意味では、海外の方がある程度戦いやすいと考えていた。カナダに初めて視察に行ったときに『勝てる』という自信があった」

同社では、コロナ前にインバウンド対策を2015年から行っていたとのこと。当時はトリップアドバイザー対策として従業員が食事をしているインバウンドのお客に「トリップアドバイザーにフィードバックをお願いします」と直接お願いしていた。このような会話を闊達にするために、社内で「おもてなし英会話」を開講するようになって現在も継続している。

また、海外のお客には接客で時間が取られることから「オーダーシート」をつくって注文してもらうようにした。インバウンド本位の接客とインバウンドからのプラスの情報発信に努めた。

海外のファンは日本の店に行くことが憧れ

コロナ禍となりインバウンドが途絶えたが、コロナ前に行っていたインバウンド対応が現地で「日本で体験した良い飲食店」として広まっているという。コロナ前のインバウンドは中国からが多かったが、いまは圧倒的に韓国からが多い。彼らに同社の店を知ったきっかけを尋ねると、現地のSNSのコミュニティの中で同社の店が推薦されていたからという。

海外で展開している同社の店舗はいずれも繁盛店で現地の根強いファンが付いている。店舗の形態は日本と同じ、オープンキッチンで中央に焼台が設けられて焼師が丁寧に焼鳥を焼いている。接客も日本と同じスタイルだ。そこで現地の事業者がこれらの店の繁盛ぶりを見て似たような店をつくろうと、これらの店から人材をスカウトするなどして焼鳥居酒屋をはじめるといった事例もあるという。しかしながら、それは想定通りにうまくはいかない。スカウトされて辞めていった人材が、元の店に戻ってくることもあるという。なぜか。

海外の店舗のつくりやサービスの形態は日本とまったく同じ。オープンキッチンの焼鳥居酒屋

「それは当社の店では当社ならではの“おもてなしの心”を現地の従業員に徹底しているから。この当社の店のソフト面の奥深さが現地のお客様から圧倒的に支持される店にしている」と福原氏は語る。

海外現地の従業員にKUURAKU GROUPならでは“おもてなしの心”を伝え浸透させている

現地のお客がこのような体験をしてファンになっていることから「日本でKUURAKU GROUPの店に行くこと」が憧れとなっているという。そこで、日本にやってきて同社の店を体験して「うちの国にある店と同じサービスで感動した」というプラスのコメントが広がっているという。

福原氏によると「いま来店しているインバウンドのお客様に『久しぶりの日本を楽しみにして来ている』ということが感じられる」という。そこで福原氏はfacebookで「お客様が来てくれて私たちはとてもうれしい」という店側からのウェルカム感が伝わるような発信を心掛けている。「おいしいですよ」「おいしかった」といったアナログな接客がととても重要だという。これらを体現することで、翌日も来店するインバウンドもいるという。このような楽しい記憶が本国に帰ってから周りの人々に伝わっていく。

「来店してくれてとてもうれしい」というウェルカム感を店の従業員が発信している

外国人社員を採用しアルバイトにも広がる

同社では社員として外国人の採用を積極的に行っている。これが日本人の従業員にとって外国人のお客に接するリテラシーを高くしているようだ。

福原氏によると外国人の採用を検討するようになったのは、日本での人材採用が困難になる傾向が見られていたことから。10年ほど前では、コンビニで外国人の従業員がレジで対応していることに違和感を抱く人はいたが、それがだんだん薄れてきて日常的なものとなった。また、KUURAKU GROUPとしては外国人を社員化することで、彼らが将来本国に帰ろうと考えたときに、会社が彼らをサポートすることができるのではないかというアウトバウンドの発想があった。

外国人の採用については日本語学校に出向いて留学生にプレゼンを重ねた。こうして、ネパール、ベトナム、中国などの人材を社員として採用。同じ職場で働くようになり既存の日本人の社員も彼らに好感を抱くようになった。その後、アルバイトとして彼らの後輩が集まるようになった。そこで冒頭のように、外国人従業員が普通に接客するシーンが定着した。現在全社員40人のうち、外国人社員は12人となっている。

このように創業間もない当時からアウトバウンドを積極的に進めたことで、日本の店舗に外国人の従業員が常に身近にいる環境を生み出し、インバウンドに接するリテラシーを高めて、コロナ禍が落ち着いてきた中で、過去最高の売上が続出しているという状況をもたらしているのであろう。

近年「ダイバーシティ&インクルージョン」の重要性が説かれている。これは「人々の多様性(=ダイバーシティ)を認め、受け入れて活かすこと(=インクルージョン)」ということだ。KUURAKU GROUPはその先駆けであり、今日的な企業成長の道筋を歩んでいると言えるだろう。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社KUURAKU GROUP

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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