高タンパクで栄養価に優れた食品として広く知られるチーズ。糖質制限食の優等生とも言われていますが、「癌リスク」を疑う声も上がっているようです。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、糖尿病専門医で糖質制限の提唱者としても知られる江部康二先生が、読者からの質問に答える形で乳製品と癌との関係を検証。併せて糖質制限食の優位性についても解説しています。
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「チーズに癌リスク」は本当か?現役医師がエビデンスを検証
Question
最近自分の妊活と健康、子供の食育のため糖質制限を始めました。29歳女です。
肉、魚、チーズ、ナッツ類が好きなので自分にぴったりな食事法だと思っています。
糖質制限を進める上で不安に思っている点があるので質問させて頂きます。
『がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん (和田洋巳著)』に、
- 牛乳には多くのIGF-1が含まれており、これはがんを増殖させるmTORを活発にする
- IGF-1を含んでいる乳製品をとる事で、がんを育てる働きに関与している考えられる
とあります。
糖質制限食でチーズを積極的に取っても、がんに関して問題ないのでしょうか?
江部先生からの回答
食育と妊活に糖質制限食、とても良いと思います。
糖質制限食は、狩猟・採集時代、700万年間の人類本来の食事であり人類の健康食です。
従って、がんを含めて、様々な生活習慣病の改善効果が期待できます。
人類が穀物を摂取開始したのは、世界史的には、現在の中東シリアの辺りでの麦の栽培からで、約1万年前からです。
日本では、稲作は弥生時代以降なので約2,500年前からです。
このように、人類の進化の歴史から考えてみると、糖質制限食が極めて優れた疾病改善のポテンシャルを有していることは当然のことと言えます。
和田洋巳医師の「牛乳には多くのIGF-1が含まれており、これはがんを増殖させるmTORを活発にしてしまう」というのは、一個人の仮説であり、エビデンスではありません。
確かに体内の過剰なIGF-1は、がんを育てる作用がありますが、通常の食生活(乳製品も含む)で、過剰となることはありません。
IGF-1には、血糖を下げたり成長ホルモンの分泌を促すなど、身体を健康に維持するなど好ましい働きがあるのです。
ドイツのマックス・プランク研究所によれば、アフリカには数千年前からウシ・ヒツジ・ヤギなどを飼育する牧畜民がいたことから、動物のミルクを飲む習慣が古くから根付いていた可能性があります。
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研究チームは東アフリカのスーダンとケニアで発見された2,000~6,000年前の人骨を対象に、硬化した歯石を調査してミルクを摂取していたかどうかを分析したとのことです。
おそらくチーズやヨーグルトにして摂取していたようです。
チーズやヨーグルトを摂取して、寿命が短くなったという話もないので和田仮説は無視して良いと思います。
「食後血糖値の上昇」と「高インスリン血症」は、活性酸素を発生させて、「酸化ストレスリスク」となります。
酸化ストレスは、癌・糖尿病合併症・動脈硬化・老化・アルツハイマー病・パーキンソン病などの元凶です。
「食後血糖値の上昇」と「高インスリン血症」を防ぐことができる食事療法は「糖質制限食」だけです。
従って、糖質制限食実践により、癌・糖尿病合併症・動脈硬化・老化・アルツハイマー病・パーキンソン病などの予防が期待できると思います。
最後に、乳製品とがんについてのエビデンスは、以下が参考になります。
● 乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について 国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study)
乳製品をよく摂取するグループで前立腺がんになりやすい
今回の研究では、乳製品をたくさん摂取すると前立腺がんのリスクが高くなりましたが、一方、乳製品の摂取が、骨粗鬆症、高血圧、大腸がんといった疾患に予防的であるという報告も多くあります。
したがって、乳製品の摂取を控えた方がいいかについては、総合的な判断が必要であり、現時点では結論を出すことはできません。
今後、乳製品の利益と不利益のバランスを明らかにするような研究が期待されます。
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