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中国・王毅氏ヨーロッパ訪問の話題を吹き飛ばした、成果なき米中会談

中国の王毅氏と米国のブリンケン国務長官、気球問題で揺れた米中の外交を統括する2人がヨーロッパで会談。米国は気球撃墜の正当性を主張したうえで、対話の継続も訴えたと伝えられています。メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんは、対話といっても米下院議長が春にも台湾訪問を明言している状況では、ぶち壊しになるのが明らかで、中国の対米不信は変わっていないと指摘。米中会談で吹き飛んでしまった欧州と中国の懸案事項についてのポイントや、気球問題での米中の立場の微妙な変化についても解説しています。

ミュンヘンでブリンケン・王毅会談が実現しても、容易には変わらないアメリカの対中攻勢と中国の対米不信

予測された外交日程からすれば、今週は王毅(前外相、中国共産党中央政治局委員)のヨーロッパ訪問が最大の注目点となるはずだった。

なかでもターゲットはイタリア。同国は昨年9月、上下院の総選挙の結果、右翼政党「イタリアの同胞(FDI)」が第1党となり、ジョルジャ・メローニ党首が右派連合による政権を打ち立てた。メローニ新首相は、中国の進める「一帯一路」イニシアチブに関する覚書にイタリアが署名したことを「大きな誤りだった」と発言していて、見直しも指示したとされている。中国にしてみれば、早めの消火を目指したのだろう。

また北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長が、新たな国防計画に「中国を念頭に置いている」(2月16日)と挑発したことも嫌な流れだった。2つの問題は目下、中国がヨーロッパと向き合う上での懸念を見事に象徴している。

1つ目はイタリアが先陣を切ったと考えられる右派政権の誕生、或いは右派躍進によるヨーロッパの外交環境の変化のドミノだ。右派勢力急進は、シリア難民の大量流入によって加速された。生活苦も1つの要因だ。

現在、ウクライナからの難民流入が急増し、ロシアによるウクライナ侵攻前から深刻だったインフレが加速した。これが危険信号であることは言を俟たない。今後ヨーロッパで次々と右派政権が誕生、或いは勢力を拡大すれば、どんな変化が起きるかわからない。もっとも右派政権の誕生は必ずしも親米・反中の拡大にはならない──とくに反ロシアではない──のだが、中国にとっては変化そのものがストレスなのだ。

さて、難題を抱えた王毅の訪欧だったが、その話題を吹き飛ばしたのは、やはり米中関係だ。王が参加予定のミュンヘン安全保障会議で、アントニー・ブリンケン米国務長官との会談があるのか否かにメディアの関心が寄せられたからだ。結局、両者は1時間にわたって会談したが大きな成果があったとは言い難い。

会談の有無が探られてきたこの間、テーマとなったのは、バイデン政権が中国の気球を撃墜したことでこじれた米中関係が修復へと向かうのか否かであった。

日本ではジョー・バイデン大統領が習近平国家主席との会談を求めたとして、「中国とは競争はするが、衝突は望んでいない」と、いつものフレーズを繰り返した。しかしバイデン政権に対し「言行不一致」との批判を続けてきた中国が、これを額面通りに受け取るはずもない。

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実際、大統領の発言と同じ日、アメリカは中国への先端技術の流出防止のため司法省や商務省など省庁を横断する組織の創設を発表した。司法省は中国、ロシア、イラン、北朝鮮などを名指しした上で、「(これらの国が)先端技術を獲得すれば、人権侵害をもたらす市民の監視や軍事力の増強につながる」とコメントしているのだ。バイデン政権がアメリカ企業の対中投資を禁ずる検討を始めたとも伝えられた。

それだけではない。中国が最も嫌う台湾問題では、国防総省のミッシェル・チェイス副次官補が台湾に到着したのも同じ時期だ。これでは「習近平と話し合い」と言われても中国側が前向きになれるはずもない。少なくとも「春に台湾を訪問する」とケビン・マッカーシー下院議長が公言しているのだから、トップが何かを話し合っても、米中関係が早晩ぶち壊しになることは目に見えているのだ。

一方の中国も、商務省がロッキード・マーティンコーポレーションとレイセオン・ミサイルズ&ディフェンスの2社に対し「中国の主権や安全を損ねる外国企業として罰金を科す」と発表。これは台湾への武器売却を問題視した中国が「対外貿易法」、「国家安全法」、「信用を欠くエンティティリスト規定」に従い、「WTOのルールに則った」制裁だというが、明らかに気球問題での意趣返しだ。つまり両者は、とても歩み寄るなんていう雰囲気ではなかったのだ。

ただ不思議なことは、バイデンの発言後に、気球を巡る米中の攻防には小さな変化が見てとれるようになった。会談を求めるアメリカに対する中国の拒否という攻守の入れ替えが起きていたように見えたことだ。

シンガポールCNA(2月16日)は中国外交部の「アメリカが気球問題をどう扱うによって、危機を適切に管理しながら中米関係を安定させるという、アメリカの誠意と能力が試されている」という強気な発言を紹介。北京の特派員は「(中国は)『アメリカは一方で緊張を煽り、一方で対話を望むことはできない』としていますから、会談実現には疑問」という分析を披露していたほどだった。

アメリカの放送局PBSは、『ニュースアワー』(日本時間2月17日午前9時)のなかで、硬軟に揺れる米政権の対応を紹介。「習近平との話し合いを求めるが、気球問題で謝罪はしない」というバイデンの姿勢を紹介しながらも撃墜を続けた必然性に疑問を投げかけた。実際、バイデン自身も後の3つの飛行物体については、以下のように歯切れの悪い説明をしている。

「情報当局はこれらの物体がレクリエーション用、或いは気象観測など科学研究を行う民間企業のものである可能性が最も大きいとした」つまり、おそらくアメリカの民間企業に属する気球を米軍が撃墜した可能性が高いというのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年2月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Alexandros Michailidis/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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