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閉店予定の老舗「町中華」から味も常連も引き継いだ、大阪王将の“粋”すぎるビジネスモデル

東京のとある「町中華」が閉店しました。常連も多く、地元民に親しまれてきたこの店の味をなんとか引き継ぎたいと手をあげたのは、何と大手中華チェーン店の「大阪王将」でした。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、著者の佐藤きよあきさんが、大手チェーン店でありながら、町中華の味と顧客を引き継いだ「双方に利益をもたらす」驚きのマーケティング手法を分析、紹介しています。 

老舗町中華の味を守る。後継者に名乗り出た「大阪王将」の試みとは?

小さな会社や個人商店などでは、後継者問題がよく話題となります。

子どもには同じような苦労をさせたくないと考える経営者。

自身のやりたいことのために、家業を継ぎたくないと思う子ども。

歴史を刻んだ老舗であっても、後継者がおらず、廃業を決意する事例がたくさんあります。

会社やお店が長年培ってきた技術・商品を絶やしてしまうのは、非常にもったいないこと。

できることなら、誰かに継いでもらいたい、という思いはあります。

しかし、諦めるしかないのが現実です。

町中華と呼ばれる、町の中華料理店でも、その多くが廃業に追い込まれています。

町中華は、地元のソウルフード的な存在なので、急に無くなると、常連さんのショックは大きく、喪失感に苛まれてしまいます。

老舗の味が途絶えるのは寂しいことであり、食の世界にとっても大きな損失です。

新しく中華の料理人として独立を目指す人が、事業継承してくれれば良いのですが、お店の味を受け継ぐことには抵抗があります。

独立する限りは、やはり自分の味で勝負したいと考えるのが普通ですから。

こうしたお店に目をつけた企業があります。

全国に400店以上の中華料理チェーンを展開する「大阪王将」です。

ある時、出店予定の地域で物件を探していたところ、廃業した町中華のお店と出逢いました。

東京都武蔵野市緑町。1958年創業、63年の実績を持つお店「栄楽」。

昭和から続く個人経営の町中華ですが、年齢的なことと後継者もいないことから、オーナーが引退を決意。

惜しまれつつ、幕を下ろしました。

週に3、4日通う人や親子三代で利用するお客さまもいました。

このような地域に根づいたお店に、チェーン店である大阪王将が、なぜ目をつけたのか。

老舗の後にチェーン店が出店することへの抵抗感や店舗の規模などから、大阪王将がそのまま営業することはできません。

ならば、なぜ?

大阪王将には、ひとつの強い思いがありました。

老舗町中華の味を絶滅させたくない。

何とか老舗町中華を守ることはできないものか、と考えたのです。

およそチェーン店らしくない考えですが、個人の町中華の歴史を守ることの大切さを知っていたのです。

大阪王将の創業は1969年。チェーン店と言えど、50年以上営業を続けているので、もう老舗の域に達しています。

長年続けることの尊さを自らの経験からも感じているのです。

しかし、そのままのカタチで事業継承することは不可能です。

個人商店とチェーン店では、その運営方法がまったく違います。

双方の良いところを融合させることはできないものか。

そこで、町中華の財産を受け継ぎながら、大阪王将として営業を続ける手立てを考えたのです。

財産の中でもっとも大切なものは、味。

地域の人びとに愛されてきた味を残すことを第一の課題としました。

「栄楽」で人気のあった料理のレシピを元オーナーから教わり、新しいお店の“売り”とすることに。

「栄楽カツカレーセット餃子付」「栄楽生姜焼きライス餃子付」「ネギ塩焼きそば定食餃子付」「豚カツ丼餃子セット」。

常連さんにとって、これは非常に嬉しいこと。

一旦は消滅した、お気に入りの味が復活したのですから。

元オーナーとしては、自分の味を残してくれることに感動さえします。

大阪王将としては、常連さんを引き継ぐことができるのです。

次に、屋号です。

「栄楽」をそのまま継ぐことはできませんが、「武蔵野緑町栄楽店」というカタチで残すことにしました。

元オーナーとしては、これも嬉しいことです。

味と屋号を引き継いでくれた上に、お店の家賃収入を手にすることができます。

大阪王将は、ほぼ居抜きで利用することで、初期投資が抑えられ、人気料理のレシピを教えてもらうこともできます。

そして、63年の実績及び常連さんを受け継ぐことができるのです。

このケースは、双方に大きな利益をもたらす、素晴らしいビジネスモデルではないでしょうか。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 佐藤きよあき(繁盛戦略コンサルタント) 【発行周期】 週刊

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