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図書館ツイート“炎上”騒動で考える、他人を断罪して欲望を満たす「正しさ競争」から抜け出す方法

昨年11月、ツイッター上に投稿された、大阪府吹田市に完成した図書館を紹介するツイートが「炎上」しました。批判的な意見の中身は、「ガラス張りの図書館は本が焼ける」「そもそも図書館にガラス張りは似合わない」などといったものだったそうです。今回のメルマガ『東南アジアここだけのお話【まぐまぐ版】』では、マレーシアに11年以上滞在する文筆家で編集者の、のもときょうこさんが、この投稿が炎上したこと自体を疑問視。さらに、他人を断罪して欲望を満たす人を「徳の騎士」と呼んだ哲学者の言葉を引きながら、建設的な議論が行われるために「哲学が必要では?」と問いかけています。

終わらない「正しさ競争」から抜け出すためには、社会を良くする「哲学的思考」が重要かも

吹田市の図書館にて、こんな炎上事件があったようです。

批判の元になったツイートはこちらだそうです。

うーむ。そもそも、なんでこれが炎上するのか??と謎な方も多いと思います。

塩谷さんの圧倒的なフォロワー数がそうさせるのか、私には背景はよくわからず、詳細はnote(「一部がガラス張りの公共施設について、蔵書の紫外線対策などを行政に質問しました https://note.com/ciotan/n/n4471135d7b11」)を読んでほしいのですが……。

みたいなことらしいです。

言われてみれば確かに、と納得できる意見もあるんですが……。しかしなんだろうか。みんなが「正しさ競争」しているような、息苦しい感じ。

みんなが意見を言うのは、本来、いいことだと思うのですが、したことに対する反対意見や批判ばかりだったら、どうでしょうか。公務員の人たちだって「何もしない方がマシや……」と思ってしまうのでは?

言ってることはわかるけど、なんか建設的じゃないし、生きづらそうな社会。どうしたらいいんだろう。

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他人を断罪して欲望を満たす「徳の騎士」たち

ヘーゲルという哲学者は、「……すべきである」という「命令の思想」を持つ人を「徳の騎士」と呼んだそうです。

苫野一徳さんの『はじめての哲学的思考』に出てきます。

● 『はじめての哲学的思考 https://www.amazon.co.jp/dp/4480689818』(ちくまプリマー新書)

<「命令の思想」を持つ人は、時に攻撃的にもなりやすい。自分の信じる正義を掲げて、それに従わない人を断罪するのだ。

前にも紹介したヘーゲルという哲学者は、そうした人たちを「徳の騎士」と呼んでいる(『精神現象学』)。>

<「なぜお前は困っている人に手をさしのべないのか!」 「なぜお前はボランティアをやらないのか!」 「徳の騎士」は、そういって他者につめ寄り攻撃する。>

日本で流行してるのはこれじゃないだろうかと思います。彼は続けます。

<でも、それはかえって非道徳的な行為にもなりかねない。「徳の騎士」、それは“正義”を笠に着て他者を傷つける、ひどく独善的な人間なのだ。>

しかし、「他人を厳しく批判するのはダメでしょう」と道徳の問題として捉えて、反対に批判すると、結局批判の応酬になってしまいます。

「では、どうしたらいいのだろう」と考える

哲学が面白いところは、「じゃあ、どうしたらいいだろう」と考えるところだと思います。

<だから改めていいたいと思う。

命令の思想を、条件解明の思考へと転換しよう。

たとえば、「人に思いやりを持て!」と命令するのではなく、「どうすれば人は人を思いやれるんだろう?」と考える。「苦しんでいる人たちへの無関心は悪である!」というのではなく、「どうすれば無関心が関心に変わるんだろう?」と考える。「震災ボランティアをやらないお前たちは人間としてまちがっている!」というのではなく、「人はどのような条件が整った時にボランティアをしたくなるんだろう?」と考える。

命令の思想ではなく、条件解明の思考。これこそ、現実的な力強い哲学的思考なのだ。>

なるほどなるほど。

当てはめてみると、そもそも、どうすればみんなが満足できるようになるんだろう? どんな意図と経緯で図書館を作ったのだろう? と出発点からみんなで考えてみるわけです。

そこで、「市民との対話方法はもっと違うものがいいんじゃないか」「次回の箱物はこうしよう」みたいな議論になれば建設的です。

国際バカロレアではこういった哲学的思考を高校で教えます。

「~すべし」の道徳ではなく、社会に出る前に哲学を教えた方がいいのではないかなっと思います。

※本記事は有料メルマガ『東南アジアここだけのお話【まぐまぐ版】』2023年2月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2月分のバックナンバーをお求め下さい。

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文筆家・編集者。金融機関を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」を経て以降フリーに。「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者として主にIT業界を取材。1990年代よりマレーシア人家族と交流したのときっかけにマレーシアに興味を持ち11年以上滞在。現地PR企業・ローカルメディアの編集長・教育事業のスタッフなど経てフリー。米国の大学院「University of the People」にて教育学(修士)を学んでいます。 著書に「東南アジア式『まあいっか』で楽に生きる本」(文藝春秋)「子どもが教育を選ぶ時代へ」「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。早稲田大学法学部卒業。

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【著者】 のもときょうこ 【月額】 ¥1,320/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 木曜日

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