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Portrait Of Multi-Generation Chinese Family Relaxing In Park Together

中国で高齢者が一人暮らしをすると「周りからの視線が痛い」理由

お隣の国であっても、文化も人付き合いの方法もまったくと言っていいほど違う「中国」と「日本」。今回のメルマガ『黄文葦の日中楽話』では、両国の「人との距離感」に注目し、その違いについて紹介しています。

日本人の距離感と中国人の「人情味」

最近、よく病院に通っている。松葉杖をついて震えながら歩く高齢者が、一人で医療機関を受診する姿をよく見かけている。もし中国の場合は、病院の診察に高齢者に付き添う子どもたちがいると、いつも考えている。

もちろん、どうしても歩行が困難な高齢者には、病院の看護師が介助します。また、病院には高齢者のための車いすが常備されている。これは日本の病院の利点である。中国で入院すると、食事や介護など、いろいろなことが家族の手伝いが必要だ。日本の場合はほとんど看護師がしてくれる。

日本に20年以上滞在していると、日本社会の人情味の薄っぺらさに慣れてしまい、人々が互いに保つ社会的距離感は、メリットにもデメリットにもなり得る。 個人のプライバシーは守られ、日本人は互いの収入や家族構成などを尋ねることはなく、仕事以外でも他人のパーソナルスペースに立ち入ることはない。デメリットは、緊急時に助けを求めにくいことだ。

日常的に孤独感を味わう人が少なくないだろう。「孤独のグルメ」の主人公のように、孤独の美感を探すことが大事だが、その域に達するのは容易なことではない。

距離感の例として、コロナ感染拡大の期間中、同じ職場で同じ部屋で働く同僚の1人はコロナが陽性であったが、他の人は陰性であった。家庭の例を見ても、父親は陽性だが、他の家族は陰性のケースが少なくない。同僚同士、家族同士でも一定の距離が保たれていることがわかる。

日本では大きな爆発的なコロナ感染はなく、その傾向は緩やかである。日本人は衛生観念が強く、マスクをすることが多いが、それとは別に、社会的な距離を置いていることが関係しているように思う。コロナ流行の当初、政府は社会的距離を置くよう呼びかけたが、日本人はもともと独立独行なところがある。

一般の日本人はお互いの家を行き来しないし、親戚同士でもあまり行き来しないし、ご近所同士でも行き来しない。せいぜい、隣人同士がドアの前に立ち、何か問題があれば話をする程度だ。

日本人は、新居に引っ越したとき、タオルやお菓子などのお礼を隣人に渡し、ただし、その後はほとんど顔を合わせないだろう。友人や家族でさえも自宅に招かれることはほとんどない。そのため、カフェは、友人たちが集まって話し合う重要な社交場になっている。

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日本人は家族の間に一定の社会的距離を置いている。大学卒業後、子どもたちは一般的に独立し、親とは時々連絡を取り合い、年末年始は親の強い希望で帰省するだけ。以下は、家族間の距離感の例である。

当方の知り合いに、中国と日本の国際結婚の夫婦がいる。奥様は日本人で、ご両親は海外から東京の娘さんの実家に遊びに来たのだが、娘さんの自宅ではなくマンションのゲストルームに泊まることになったそうだ。

中国人であるご主人は「義父母が娘の家に泊まらないのはちょっと…」と違和感を覚えたらしいが、奥様は「父と母はゲストルームに泊まって、夕食の時だけ来てもらう方が気楽でいい」と話した。

そして、夫の両親が中国から日本を訪ねてきたときだけ、夫は「中国人が両親をゲストルームに泊めたら親不孝者と言われるよ」と、自分の家に両親を泊めるように妻を必死に説得した。妻はこの文化の違いを受け入れざるを得なかったという。

日本人の社会的な距離感は、お金の扱い方にも表れている。「親兄弟明算帳」という中国の諺があり、日本人にぴったり当てはまる。兄弟でも、お金のことはきちんと清算しなければならない。親子の仲でも金銭は他人ということ。

日本人の友人同士で食事をする場合、争って支払いを急ぐ中国人と違って、基本的にAA制だ。レストランで恋人同士が親密な会話を交わし、最後に会計の際に、それぞれが財布を取り出し、テーブルの上のコインを数えて支払いを分担する姿は圧巻だ。

普段、白髪のお年寄りが前かがみになって、買い物カゴをゆっくり引きずっている姿に出会うことも少なくない。たとえ足が不自由でも、自立して前向きに少しずつ足を運ぶ。多くの高齢者はシルバーカー・ショッピングカーを使って、普段買い物に出かけている。

現在、日本では65歳以上の5人に1人が一人暮らしをしており、一人暮らしの高齢者は600万人を超えると言われている。では、彼らは体調が悪くなった時、どうすればいいのだろう。子どもたちは、サービスを利用して親の様子をうかがうこと。例えば、テレビCMでもよく見ていることだが、警備会社や運送会社の方が高齢者の自宅を訪問し、一人暮らしの高齢者の情報をタイムリーに子どもたちに送ってくれる。

ここ数年、日本では一人暮らしの高齢者を狙った詐欺がよく発生している。高齢者の息子や孫を装い、電話の向こうで「俺だ!俺だ!」と叫ぶ。そして、「交通事故などで困っている」「お金を貸してほしい」と言う。すると、それを信じて実際にお金を送ってくれるお年寄りもいる。なぜ、高齢者は自分の息子や孫の声すら認識できないのか。このように、家族間の疎外感は明らかである。

つまり、日本人は人との触れ合いの不足を、社会福祉やビジネスサービスの向上で補っているのだ。中国人は困ったときに仲間や友人に相談し、日本人はそれに対応するサービスを提供できる仲介者に助けを求める。

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中国人の「人情味」

中国人は昔から「人情味」を重視する。言うまでもなく古代中国は礼節を重んじる国。伝統的な中国人の「人情」は、所謂君王と臣下、父と子、兄と弟、夫と妻、友人同士という5つの人間関係を呼んだ五倫(ごりん)の中にしかない。五倫は、儒教において主として孟子によって提唱された5つの道徳法則である。

ところで、中国人はとても人間的で温かいと言われるが、よく見ると、ある人の人間らしさ、温かさ、気遣い、愛情は、自分の子供、家族、親戚、友人といった小さな輪にしかない。他の人には、ほとんど無関心なのだ。大人の世界では、ビジネスと利益で人間を繋がる場合が多い。

そこで、「偽装人情」が生まれる。例えば、ビジネスパートナーを互いに兄や弟と呼び交わす。しかし、事業が失敗したり、争いが起きたりすると、「兄弟」になれないばかりか、友達にもなれないし、敵になるかもなれない。礼節を捨ててしまう。

欧米人が権利や義務を重視するのに対し、中国人は関係や友情を重視する。権利と義務、関係と友情のバランスをどうとるかは大事だ。権利と義務だけでは、冷淡で人間味に欠け、人間関係と友情だけでは、公平性が損なわれ、悪しき風習が生まれるかもしれない。

日本人の距離感と中国人の「人情味」から親と子の関係をくらべてみよう。中国の親は、子供が小さいときだけでなく、大きくなってからも心配しなければならない。さらに、親は、子どものパートナー探し、家の購入、結婚、出産を面倒しなくてはならない。経済的に余裕のない親は不安そうだ。

一方、日本人はこの点では中国人と比べたら、ずっと気楽ではないか。子どもたちは大学を卒業し、一人暮らしをする。彼らは恋をして結婚し、子どもを産み、親に手を差し伸べることはほとんどないだろう。

最後に一言、高齢者の一人暮らしなら中国より日本のほうがずっと便利だ。中国では、お年寄りが一人暮らしをしていると、惨めに見えると思われる。社会福祉が整っているとは言い難いためである。

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image by: Shutterstock.com

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在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

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