自身のメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』で、昨年10月末以来、テレビ番組への出演依頼がピタリと止んだことを報告したジャーナリストの有田芳生氏。そんな「旧統一教会が最も恐れる知識人」である有田氏が上梓した、漫画家の小林よしのり氏との対談本が大きな話題となっています。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、その衝撃的な内容の一部を紹介。さらに「第四の権力」としての役割を放棄した日本メディアを強く批判しています。
※本稿では著者の意思と歴史的経緯に鑑み、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「統一協会」と表記しています
統一協会問題の「闇」に震撼
小林よしのり氏と有田芳生氏の対談本『統一協会問題の闇 国家を蝕んでいたカルトの正体』(扶桑社新書)を読んだ。
山上徹也が安倍晋三を殺害してから、30年前の統一協会問題が再燃し、実は日本の中枢がどっぷりと統一協会に染まっていたことが明らかになったときは驚愕した。
ライジングでも、文鮮明が設立し、統一協会の幹部信者らが運営している『世界日報』が主催する講演会で、数多くの保守系知識人たちが弁舌をふるっていたことや、かつて『世界日報』の編集方針をめぐって、血生臭い事件が起きていたことなど(第268回「世界日報と統一協会の深い関係」2022.8.23発行)を書いたが、本書では、有田氏がジャーナリストとして長年調べ上げて来た、さらに衝撃的な事実がたくさん語られていた。
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知らなかった話が多く、あまりの異常さに、読む面白さを感じるとともに、統一協会がどれほど危険なのかという認識がまだまだ甘かったこと、そして、これほどの外国勢力の侵略を受け入れ続けてきていた日本の無防備さに、背筋が凍るような思いをした。
なかでも、コロナでも感じたマスコミ報道の酷さが印象深かった。
2022年7月8日に山上が安倍晋三を殺害した直後は、テレビも新聞も、協定でも結んだかのように「特定の宗教団体に恨みがあった」という不思議な言葉を使って報道し、「統一協会」という団体名は一切伏せられていた。
最初は、よく言われる「コンプライアンスの観点」から、団体名を伏せているのかと思っていたが、殺害の動機について報道する際に、山上自身の供述であるにも関わらず、「安倍氏が団体と深いつながりがあると思い込んで襲った」という不自然な文言がくりかえし使われたことで、「なるほど、マスコミと政府が結託して、『安倍晋三と統一協会の関係は、犯人の思い込みでしかなく、事実ではない!』という印象操作をやっているのだな」と理解した。
山上を逮捕した奈良県警が、供述内容をマスコミに伝えていることに憤った片山さつきが、政治権力を発揮して、警察庁長官を介して圧力をかけたのも、この一環である。
警察庁長官に「奈良県警の情報の出し方等万般、警察庁本庁でしっかりチェックを」と慎重に要請致しました。これ以上の詳細は申せない点ご理解を。霞ヶ関を肌で理解する者同士の会話です。皆様の感じられた懸念は十分伝わっています。組織に完璧はありませんが、国益を損なう事はあってはなりません。
— 片山さつき (@katayama_s) July 13, 2022
よほど、安倍と統一協会の関係を隠したかったのだろう。
ところが、日本統一協会の田中富広会長が、「(山上の)蛮行に強い憤りを感じている」「日本の国民が尊敬し、愛する偉大な指導者を失い、大変胸が痛みます」など、安倍晋三に対する愛のあふれる記者会見を開いたために、状況が一変する。
これがきっかけで、いっせいに「統一協会」という団体名が解禁され、「安倍と統一協会」の関係性が注目される事態になった。
さらに、記者会見が勅使河原秀行にバトンタッチとなり、まったく客観性がなく、怒りを抑えられていない威圧的な言動を見せて、世間の好奇心を一気にかき立てた。
しかも、問題視されている二世信者問題への対応として、協会内の二世信者の男性たちに同じ黒スーツを着せてずらりと並ばせるなど、あまりにもテレビ映えしてしまう「勅使河原劇場」をくり広げたために、ますます注目が集まり、報道は過熱していった。当初の隠蔽姿勢はどこへやら、だ。
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ここまでが、私の認識していたことだが、本書のなかで有田芳生氏が、マスコミが統一協会からの抗議に委縮して、協会にとって差し障りのないコメントに終始するようになっていった様子を語っている。
2022年8月に朝の情報番組に出演した有田氏は、統一協会について「霊感商法をやってきた反社会的集団」と発言しているが、協会は、これを「事実ではない」として有田氏を名誉棄損で告訴。
反社会的集団だなんて、圧倒的事実じゃないかと思うが、協会とズブズブベッタリの政治からも圧力を受けていたテレビ局は、たちまち委縮したらしい。
有田氏は、決まっていたテレビ出演もキャンセルされて、現在まで出演オファーがない状態だという。ジャーナリストとして35年にも渡って統一協会の取材を続け、法的問題を熟知し、脱会の手助けなど最前線の生々しさを体験してきた人物であるにも関わらず、その有田氏だけを避けて、差し障りのない解説をするコメンテーターしか用意できない──それがテレビという腰抜けなのだ。
30年前、統一協会が桜田淳子や山崎浩子を広告塔にして、合同結婚式を行った際は、霊感商法によって多数の被害者が出ていることもセットで報道されていたので、私もよく覚えている。
ソウルのオリンピックスタジアムに、超大勢の新郎新婦がザザーッと並んで、王冠をかぶった教祖夫妻に祝福されている映像は、未成年の私でも「めっちゃ異様」と感じたし、身の回りの人たちもほとんど同じ感覚を共有していて、芸人のコントや、日常会話のなかでも、「ツボ買わない?3,000万円で」というような冗談をよく耳にした。そもそも、当時の統一協会の霊感商法では、逮捕者が出ており、犯罪として警視庁が認めている。
しかし、統一協会は、訴訟に勝つか負けるかなど関係なく、ひたすら言論活動を委縮させる目的で、抗議活動を行っているのだという。
1984年に霊感商法が話題となり、『朝日ジャーナル』が統一協会批判を展開した際は、朝日新聞東京本社に1週間で4万6,000本もの抗議電話が殺到したらしい。さらに、朝日新聞の社屋の隣にある国立がん研究センターや、向かいの築地市場にも大量の抗議電話が入り、ついには近隣一帯の電話回線がすべてパンクするという異常事態が起きたというから驚愕した。
命のかかった患者を抱えた医療機関にまで、問答無用で嫌がらせの電話をかけまくり、外圧を高めようとするのだから、考えることの下劣さとエゴイズムが凄まじい。
そして同時に、地域一帯の回線をパンクさせるほどの電話を、いっせいにかけまくってしまう、軍隊のような従順な信者を大勢抱えていることを考えると、そりゃ政治家にしてみれば、選挙の時こそ、その信者たちをボランティアスタッフとして抱え込んで、有権者への電話作戦を実行してもらいたいだろうなと簡単に想像がついた。
この抗議事件では、朝日新聞は「それ以上続けるなら裁判に訴えて記事にする」と告げ、めげずに批判記事を展開しつづける態度をとったが、その後は、協会を恐れて、根性を発揮するマスコミはいなくなったらしい。
それどころか、2012年4月には、TBS系『報道特集』が、統一協会の合同結婚式を宣伝するかのような番組を放送。しかも、本部広報局が、協会のご機嫌をとるようなメールを送信していたことも有田氏が暴いている。
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また有田氏は、統一協会が、殺傷能力のある大量の武器を入手して武装化を企てていたことも詳細に語っている。この話はまったく知らなかったので、読んでいて、およそ現実とは思えないような感覚に陥り、勅使河原をはじめとする登場キャラの濃い「統一協会劇場」を眺めて楽しんでいた自分ののん気さが怖くなる内容だった。
警視庁や公安は、統一協会をオウム真理教と同様の「危険な団体」と認識しており、一時期は捜査もしていたが、それも政治圧力によって中断されたという。協会は、国会議員の秘書を養成するためのカリキュラムまで用意して(!)、かなり計画的に日本の政治家と一体化し、権力の中枢を手中に収めてしまったのだ。
すでに、少なくない人数の信者が、地方議員として活動しており、協会の教義を実現するために、儒教的な男尊女卑の感覚とセットになった家族観を盛り込んだ法令を通しはじめている。
国会議員も地方議員も、「神武天皇以来、例外なくつづく男系男子継承」などとコピペ文を述べていたら、「統一協会の教義にマインドコントロールされた、男尊女卑の反天皇の人」と指をさしても構わないんじゃないかと思う。
ここまでの事実をつかんでいるジャーナリストがいるのに、なぜマスコミは日本人の安全に関わる危険な事態を一切報道しないのか。
マスコミと言えば、司法・行政・立法の三権と並んで「第四の権力」として、政府に対する監視機能の役割を担う──という文言だけは、すらすらとどこかで習った記憶として出てくるが、現実には「反権力」どころか、「反犯罪組織」「反侵略勢力」としてすら機能しておらず、むしろその広報活動を手伝ってしまうのだから、日本にはジャーナリズムは存在しない、と言うほかない。
TBS系『報道特集』は、2022年の事件発生後は、気骨のあるスタッフが番組を支えているようで、統一協会と政治家の選挙支援問題や、献金の実態、二世信者問題など、積極的な追及報道を重ねている。
だが、その報道も「安倍晋三元首相が殺害され、その動機は、安倍が広告塔をやっていた統一協会への恨みだった」という日本中を驚愕させるウルトラ級の大事件が起きてしまった「がらがらぽん」のような状態になったからこそやれていることであって、早々に統一協会への解散命令が出て、問題解決に向かえば良いが、テレビである限り、どこまでその姿勢を貫けるのかはわからない……というのが、私の率直な感想だ。
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コロナでは、ウイルスの流行と自粛やマスクの着用が、データ上まったく連動していないことに大手マスコミが一社も気づくことなく、まったく追及も検証も行わないまま、極めて非科学的に経済を破壊するために報道し続けた。
ワクチンでは、接種状況と感染状況が、データ上まったく効果を示していないどころか、打てば打つほどどんどん感染者が増えていることに疑問を呈さず、追及も検証も行うことなく、製薬会社のためにワクチンキャンペーンを行い続けている。
そして、統一協会では、「国家が内側から乗っ取られかけている」という非常事態に際して、自分の票が欲しいだけの政治家らとともに、協会の思し召すまま自主的に報道をやめてしまい、見て見ぬふりの「空白の30年」を作り出した。
その間に、山上の家族のような被害者を増やしつづけ、組織の危険性をますます盤石なものに強化・増幅させる手助けまでしていたわけだ。
『統一協会問題の闇 国家を蝕んでいたカルトの正体』では、ジャーナリズムの視点以外にも、思想、安全保障などの面からかなり濃厚な対談が展開されているが、有田芳生氏は、まだまだつかんでいる実態について、語り切れていない様子が伝わってくる。
3月25日(土曜)14時~17時に東京で開催される『オドレら正気か?LIVE「統一協会問題の闇 Special」』は、かなり刺激の強い議論を聞くことのできる、貴重な回になりそうだ。ぜひ会場まで足を運ぼう!
(『小林よしのりライジング』2023年3月7日号より一部抜粋・文中敬称略)
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