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アジアから“厄介者扱い”される日本。台湾問題で「取るべき態度」とは?

3選を果たした習近平国家主席が、13日の全国人民代表大会の閉会にあたり演説した内容について、日本のメディアは「台湾統一」を見出しにして「有事」を匂わせています。しかし、中国が軍事力を行使する可能性があるとすれば、台湾側が独立を宣言する場合だけと解説するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、台湾側にそうした動きをしないように諫めることこそ日本が取るべき行動で、米国に加担し争いを煽るような行動は、中国だけでなくアジア諸国からも疎まれると警告しています。

いよいよ台湾が変わり始めたなか、日本が「台湾有事」を叫ぶことの不思議

昨秋の20大(中国共産党第20回全国代表大会)が閉幕した後、日本では強面・習近平が強引に台湾を取りに動くともちきりになった。多くのメディアは中台を「侵攻ありき」で報じるようにもなった。

だが筆者は、むしろ逆に習近平政権が、台湾に対して融和的なシグナルを送り続けていると伝えてきた。代表的なのは近著・『それでも習近平政権が崩壊しない4つの理由』で詳しく記した。とくに2019年から、中国に顕著に見られる変化だからだ。

この融和の流れは今月開催された全国人民代表大会の李克強総理による政府活動報告にも引き継がれた。台湾に触れた部分は淡白で素っ気ないものだった。ではなぜいま中国はそうした選択をしたのだろうか。一言でいえば、それが「合理的」だからなのだ。

習近平には、自らの手で中国を世界一の大国にするという野心があり、その目標の実現の可能性は決して低くない。中国を世界一にした指導者として歴史に名を残す栄誉は、台湾統一の功績にも勝るとも劣らない。それを成し遂げるためには、中台関係が静かである必要がある。つまり現状維持ならば御の字なのだ。

中国がそう考えれば、基本的に現状維持を望む台湾の人々のニーズとも合致する。逆にもし、中国が統一を迫れば、台湾の人々は抵抗は必至だ。侵攻などすれば中国が被るダメージは計り知れない。もちろん「中国を世界一にする夢」は絶望的になる。損得を考えれば侵攻のメリットはない。

だが、それでも最後の最後の手段として武力行使の可能性はわずかながら残される。最も危険が高まるのは、どんなときなのか。端的に言えば、「台湾が『自分たちは中国ではない』と宣言し、台湾人が中国人ではなくなる」ときだ。

台湾が焦土化する可能性さえある宣言なので、民進党とて軽々にできることではないはずだが、内政という変数が絡めばやっかいである。総統がその地位を脅かされたり、与党が下野の危機に直面したときには、生き残りをかけて毒まんじゅうを食らうことも考えられるからだ。つまり、台湾海峡の平和は国民党と民進党の争いをいかに理性的な範囲にとどめられるかにかかっているのだ。

この状況下でもし日本が、口先だけではなく本当に台湾有事を懸念し、地域の大国としてアジアの火種をコントロールする責任を果たそうとすれば、すべきことは一つしかない。

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民進党に「日本は台湾が独立に向けた動きをして中国を刺激することに断固反対だ」と告げ、「もしそういう行動をとるのならば台湾との関係を切る」と強く迫ることだ。「日本は第二次世界大戦の反省から平和を希求する国であり、戦争の芽を見付けたら、いち早く摘むことに全力を注がなければならないのだ」と通告すればよいのだ。

さらに、返す刀で中国に対し、「どんな理由があろうと、武力の行使は容認できない。もし使うのであれば、日本はかつてない規模で制裁を行い、かつアメリカの進める対中包囲網にも積極的に参加する」と告げるのだ。

台湾有事が現実となれば、戦いがどこに落ち着こうと、アジアの経済発展は大きく阻害される。投資家は紛争地を敬遠するからだ。なかでも戦いのど真ん中に置かれる日本経済のダメージは、紛争当事国にも匹敵する厳しさになるかもしれない。そうなれば経済規模も、下手をすれば新興国レベルにまで落ち込むかもしれない。

そう考えたとき日本にとっての国益とは、海峡危機で台湾に加担して中国を負かすことではなく、戦争を未然に防ぐことであることが自ずと理解できるのではないだろうか。逆にもし日本が地域の危機をコントロールできることを世界に示すことができれば、少なくともアジアの国々は日本に強い信頼を寄せるのではないだろうか。

しかし残念ながら現在の日本の振る舞いは東南アジアの国々から対立を煽る国として見られている。IPEFを日本で開催した際、ASEANの多く国のトップから「米中対立をアジアに持ち込むな」と苦言を呈されたことは、このメルマガで何度も触れている。

さて、前置きが長くなってしまったが台湾の変化に触れておきたい。象徴的だったのはイギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズが3月6日付で伝えたニュースだ。同紙は複数の関係者の話として、台湾の蔡英文総統が4月上旬、外交関係のある中米のグアテマラとベリーズを訪問するのにあわせてアメリカを訪問。西部カリフォルニア州でケビン・マッカーシー下院議長と会談することで一致したと報じたのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年3月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Chaiwat Subprasom/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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