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「算数・数学の自由研究」の見事な想像力。それとは真逆な日本の大人たち

塩野直道記念「算数・数学の自由研究」というコンクールをご存知でしょうか。数学的な見方・考え方を活用して自主的に問題解決を目指し研究した作品を表彰するものです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合さんが、このコンクールの第10回2022年度の受賞作の中から、2作品を紹介。「自分の頭で考え尽くす」子供たちの作品に触れ、マスクの着脱だけを見ても「自分の頭で考える」ことを忘れてしまった大人たちがあまりに多いことに頭を抱えています。

大人たちは「自分の頭で考える」ことを忘れている。常識が「想像力」を奪う

今回は「未来の光」についてお話しします。先日、塩野直道記念第10回「算数・数学の自由研究」の受賞作品が発表されました。このコンクルールは、私が長年編集委員を務めさせていただいた中学生理科の教科書の版元である、啓林館が設立した(財)理数教育研究所が主催しています。

コンクールは、子供の「なぜ?」「不思議だな」という現象を数学で説明する力を養うのが目的です。コンクールの名称になっている塩野直道先生は、旧文部省で国定の小学校算術教科書の編集にあたった算術教育者です。

塩野先生は、「児童の数理思想を開発し、日常生活を数理的に正しく指導すること」を算術教育の目的としました。暗算の重要性を訴え、暗算には日常生活における実用的価値と数概念に基づいた計算を、意識的に使うことにより数学的思考を絶えず働かすという理論的価値があるとした人物でもあります。

暗算教育は筆算教育へと変わっていきましたが、現在も数学の学習では、言葉や数、式、図、表、グラフなどを使って数理的に考え、根拠を明らかにして筋道を立てて説明する力を身につけることを大切にする方針は変わっていません。

根拠を明らかにし、筋道を立てて説明する──。なかなか重い言葉です。なにせ大人たちは「自分の頭で考える」ことを忘れているのです。

なんてことを、子供たちが自分の頭で考えて、考えて、考えて、根拠を示し、筋道をたてて説明した「作品」をみて思った次第です。

というわけで、前置きが長くなりましたが、心躍る子供の作品の一部を紹介します。ぜひとも「自分の頭で考える楽しさ」を思い出してください。

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まず1つ目は、塩野直道賞小学校高学年の部の「草は考えている!?」(小6男児)です。家のお手伝いの草むしりで、抜いた草の根の長さに驚いた男児は、草の地上の長さと草の根の長さの関係性を分析しました。

150本のサンプルの草の地上部分の長さと地下部分の長さを記録。度数分布表で中央値を算出し、それを基準に2つのグループに分けて傾向を考察したり、両者の関係性をもとに5つのグループに分類し最大値を考察したり、相関係数を算出するなど、さまざまなデータ分析の手法を工夫しました。

その結果「草が小さいときは、根を成長させ、ある程度大きくなったら土の状態によって根の長さが変わっていると推察。「つまり、草は考えていたのだ!」という結論を導きました。

そして、これをもとに人間についても思考をめぐらせ、「自分も土台がしっかりした人間になりたい!」というすばらしい感想をまとめています。

2つ目は、学研賞を受賞した「2/365日消える信号」(中2女子)です。これは西日による信号機の視界不良による自動車交通事故をきっかけに、信号が夕日で見えなくなる日を特定できないか?と考え、さまざまな計算を駆使し、特定することに成功した研究です。

まず最初に、自動車が「ブレーキを踏まなければならない地点」を算出。事故の日時から、この地点の日の出・日の入り・日暮を理科年表などのデータをもとに詳細な計算を行いました。

その結果、1年に2回、信号と太陽が重なる日があることを発見。具体的な日時を特定することに成功しました。信号機の西日対策は、信号機のライトや角度を変えることで進められてきましたが、ハード面だけではおぎなえない「穴」を見つけたのは大発見です!

どちらの研究も、日常の生活で生じた「なぜ?」を解く方法を考え、分析し、ただの数字遊びに終わらせるのではなく、社会へのインプリケーションを想像しています。

他界した大江健三郎さんは「想像力とは、対象への能動的な意識である」と解きます。「目に留まってそのものに意識を向ける時、すでに想像力が関与している」と。「どんなものか知ろうとしたり、認識しようとしている時も想像力が働いていて、どんな風に認識するかを想像力が担っている」のだと。

子供たちは、決して目に留まったものを見過ごしません。意識を向け、想像力を働かせている。かたや大人はどうでしょうか?大人の常識が物事の本質を探る目を曇らせているように思えてなりません。「自分の頭で考える」ことの楽しさ、大切さを子供は教えてくれている。

さて、みなさんは想像力を働かせて、ご意見、ご感想お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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