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自衛隊「強制わいせつ」事件への怒りを増幅させたSNS上の誹謗中傷

YouTube動画をきっかけに明らかになった陸上自衛隊内の女性自衛官に対する性暴力事件では、検察審査会が3人の元自衛官に対する不起訴を不当と議決。検察の再捜査を経てようやく「強制わいせつ」の罪で在宅起訴されました。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、健康社会学者の河合薫さんは、この事件で怒りを覚えたこととして、SNSでの誹謗中傷コメントの酷さをあげ、セクハラや性暴力を生む社会構造の問題を指摘。災害時には国民を助け頼りになる自衛隊がその象徴になっていることを嘆き、今回の起訴が変化のきっかけになることを期待しています。

認められた「強制わいせつ」。すべての自衛隊員が生き生きと働ける日

やっと、本当にやっと「罪が罪」と認められました。元自衛官の女性が、自衛隊の訓練中に性暴力を受けた問題で、福島地検は17日加害者とされる男性の元自衛官3人を「強制わいせつの罪」で在宅起訴しました。

この事件は、2021年8月に、男性隊員十数人がいる部屋に呼ばれた部屋で起きました。女性は酒を飲んでいる輪の中に座らせられ、男性隊員に格闘技の技をかけられ、ベッドに押し倒された。そして男性隊員は、脚を無理やりこじ開け腰を振り陰部を押し当てた。周りは笑って見ているだけ。女性は、他の男性隊員2人からも同様のことをされました。

女性は被害届を提出し、3人は強制わいせつの疑いで書類送検されたものの不起訴となっていました。しかし、去年9月に郡山検察審査会が「捜査が十分に尽くされたとは言い難い」などとして「不起訴不当」と議決し、検察が再捜査していました。

で、今回、在宅起訴が決まったのです。女性は在宅起訴を受け、自身のTwitterで、「一時は全員不起訴になり、私がされたことを考えると何故そうなるのか到底納得できないまま、長い時間が経ちました。(中略)関係した方には自分たちのやったことは犯罪なのだということをしっかり認識し、きちんと反省し罪を償って頂きたいと思います」とコメントしています。

私は女性が昨年6月29日に投稿したユーチューブ動画をきっかけに、この事件を知りました。それを見た時の切なさは半端じゃなかった。いったいなぜ、被害者がこんな思いをしなければならないのか。いったいいつまで女性は、「性の対象」として扱われなきゃいけないんだ?なぜ、被害者なのに、「夢」を諦め、退職をしなきゃいけないんだ?まだ22歳。まだ22歳です。

私が怒りを覚えたのは、自衛隊の対応だけではありません。女性の動画が公開されるやいなや、彼女へのバッシングが始まったのです。

女性のツイッターに目を覆いたくなるような卑劣なコメントが多数書き込まれ、9月29日に、防衛省は「複数のセクハラ行為が確認できた」として女性に面会して謝罪したあとも続いたのです。

「自衛隊に対する侮辱罪」「その程度のことも切り抜けられないで自衛官なんて務まるか」「血気盛んな男たちの場所に入る意味をちゃんと考えろ」だのに加え、容姿に関わるものやらなんやら、あることないこと目を覆いたくなるようなコメントの数々がSNSにかきこまれていたのです。

11月19日には女性自身も「私に対して誹謗中傷の件は必ず捕まえます」とツイートしています。

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セクハラはジェンダーヒエラルキー、すなわち性差別が生む暴力であり、社会構造の問題です。「男は外=金を稼ぐ人、女は家=ケアする人」とういう性別役割は、「男は偉い、女は従うもの」という性差別として、日本社会に根付いてきました。

それは「性的被害を受けるのは、女性の側に問題がある」という間違った考えと、「女性の労働は家計の補助的な仕事」という序列を生んだ。職場のセクハラ問題はこの2つの差別が掛け合わされたものです。

つまり、どんなにセクハラをなくそう!セクハラを許してはだめ!と教育をしたところで、働く女性の権利や尊厳の実現と連動することがない限り、セクハラはなくなりません。

防衛省は昨年、全自衛隊を対象に異例の「特別防衛監察」を実施し、組織としてハラスメント対策に取り組む姿勢を見せましたが、働く女性の権利や尊厳の実現には至っていません。

2月27日、セクハラを受けた女性自衛官が損害賠償を国に求める訴訟をおこしたのですが、記者会見は弁護団だけで行われました。なぜか?女性が自衛隊側から処分されることを恐れて、出席できなかったそうです。

セクハラやパワハラを訴えた際に、被害者が職場から批判されたり、居場所を失うのはよくあること。上下関係が厳しく、階層主義が強けば強いほど、声をあげたくてもあげられない、苦しくても泣き寝入りするしかない状況に陥ります。

その象徴が悲しいかな、災害が起こるたびに、多くの人を勇気づけ、助けてくれる隊員たちがいる、「自衛隊」という組織です。今回、在宅起訴になったことが、自衛隊で働くすべての隊員たちが、生き生きと働ける職場づくりのきっかけになって欲しいと心から願います。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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