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なぜ韓国ユン大統領は日本に接近してくるのか?背景にある「3つの要素」

反日を国是とするかのような前政権とは打って変わって、日韓関係再構築に積極姿勢を見せるユン・ソンニョル大統領。複雑な両国の関係は、このまま一気に「雪解け」と行くのでしょうか。そんな日韓の今後を考察するのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、ユン大統領が対日接近を図る背景を紹介。さらに日本が韓国に対して警戒心を捨ててはいけない理由を解説しています。

韓国ユン政権が対日接近を図る理由。「徴用工問題」だけじゃない日韓関係特有の「リスク」に注意せよ

韓国のユン・ソンニョル大統領が3月16日から1泊2日の日程で日本を訪問し、岸田首相との間で日韓首脳会談を行った。会談では、政治や経済など多岐にわたる分野で双方の間で意思疎通を活発化させていくことで一致した。特に、サプライチェーン強化や機微技術流出対策など経済安全保障分野での協力を緊密化させる方向で、両国の首脳が形式にとらわれず頻繁に訪問するシャトル外交を12年ぶりに再開させることで合意した。

ユン大統領と岸田総理は共同記者会見後、すき焼き店と洋食店の2軒をはしごして酒を酌み交わすなど日韓関係の改善を強くアピールした。

ユン大統領は昨年5月に就任してから、ムン前政権で冷え込んだ日韓関係の改善に重点を置いてきた。昨年6月のスペイン・マドリードで開かれたNATO首脳会合や9月下旬の国連総会、11月中旬のASEAN関連首脳会議などを利用し、ユン大統領は岸田総理と言葉を交わし、会談を行うなどし、それが今回の訪日に繋がった形だ。

日本も日韓関係の改善が必要なのは理解してきたが、徴用工問題などがあり自ら歩み寄る行動は取って来なかった。ユン大統領の韓国が日本へ積極的に歩み寄ってきたのが今日の構図である。では、なぜユン大統領は対日接近を図るのだろうか。その背景には、自由民主主義国家韓国が抱える事情があり、日本と同じような課題を抱えている。

狂気の金正恩に危機感募らすユン大統領

まず、北朝鮮の存在だ。北朝鮮は昨年計29回、55発と異例のペースで弾道ミサイルを発射した。今年も入ってもICBM大陸間弾道ミサイルを発射し、北海道の西約200キロの日本海に落下するだけでなく、北朝鮮の偵察用ドローンがソウル上空の近郊まで接近するなど、挑発的な行動を続けている。

北朝鮮は自ら発射したミサイルを米軍が撃墜したら宣戦布告とみなす、太平洋を射撃場にするなどと警告しており、予断を許さない情勢が続いている。これに対してユン政権は米韓合同軍事演習を積極的に行うことで北朝鮮をけん制し、2月には北朝鮮による核兵器使用を想定した机上演習「拡大抑止手段運営演習(TTX)」が米国で実施された。ユン政権としては、北朝鮮のミサイルの脅威に直面する日本との連携を強化し、日米韓3カ国の結束を強化したい狙いがある。

日本より韓国に強い不満を滲ませてきたアメリカ

また、米国の存在がある。今回の日韓首脳会談について、米国は共通の地域的・国際的優先事項を推進する機会を生かせるようになると歓迎する姿勢を示したが、内心米国は歓迎というより安堵したのが本音だろう。

米国にとって日韓は共に価値観を共有し、軍事防衛条約を結ぶ同盟国であり、北朝鮮の核・ミサイル、それ以上に経済的かつ軍事的に台頭する中国に向き合うにあたり、同盟国同士が争う姿に米国は危機感を募らせてきた。米国が日本や韓国に抱いてきた気持ちは、「日韓双方とも領土問題や歴史問題で争っている暇はない。自らが置かれる安全保障環境を直視せよ」というところだろう。

そして、近年、米国は日本より韓国に対して強い不満を滲ませてきた。ムン前政権は日本と韓国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を通告する(その後、終了通告の効力が停止された)など、米国はムン政権に疑念を持ち、米韓関係は極めて悪化した。ユン政権は既にGSOMIAの正常化に着手しているが、米国が抱く強い不満を払拭するため対日関係の改善に努めている。

高まる中国の脅威。クアッドに接近したい思惑も

中国の存在もある。ユン政権になって以降、中韓関係は冷え込む傾向にあるが、韓国にとっても海洋覇権や台湾有事という問題は対岸の火事ではない。韓国の経済シーレーンも台湾周辺にあるので、台湾有事となれば韓国経済が被るダメージも計り知れない。

基本的に専制主義国家中国の極東アジアでの覇権は韓国にとっても深刻な問題であり、ユン政権としても今のうちから価値観を共有する日本や米国と関係を緊密化させ、日米豪印で形成されるクアッドなどに接近したい思惑がある。

なぜ日本は韓国への警戒心を捨ててはいけないのか

だが、このようなユン政権の狙いがあったとしても、日本はそれによって韓国への警戒心を捨ててはならない。過去の日韓関係を振り返っても、いいムードだった関係が一気に壊されたケースもある。

たとえば、イ・ミョンバク政権の時、同大統領は当時日本のメディア番組にも出演するなど日韓関係ではいいムードが流れていたが2012年8月にイ大統領が竹島を訪問したことで日韓関係は急速に悪化した。イ大統領が竹島を訪問した背景には低迷する支持率があり、国家ナショナリズムを高めることで非難の矛先を交わす狙いがあった。

また、韓国の大統領任期は1期5年であり、ユン政権に2期目はない。要は、ユン大統領の継承者が次期大統領になる保証はなく、ムン前大統領の政策理念を掲げるリーダーが選出される可能性もあり、ここに日韓関係において日本が抱えるリスクがある。日韓関係の改善は良いことだ。しかし、我々はこのリスクを忘れるべきではないだろう。

image by: 首相官邸

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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