昭和の時代によく聞かれた、公務員の年金の高さを羨む声。令和も5年を迎えた今、そのような事実はあるのでしょうか。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、かつて公務員が受け取っていた共済年金の歴史を振り返りつつ、その真偽を検証。さらに共済と厚生年金を巡る「注意を要する事例」を紹介しています。
共済と厚年期間がある人で平成27年10月以前に65歳になった人とは貰う年金が違う事例
1.昔は本当に良かった?共済年金
共済からの年金を受給できる人は主に公務員だった人です。
昔から時々、公務員は年金が高いからいいなあという話がありますが、それは本当だったんでしょうか。
確かに昭和61年3月31日までの制度であれば結構違いがありました。
何が違っていたのかというと、厚生年金は定額部分(加入期間に比例した年金)+報酬比例部分(過去の給与の比例した年金)を受給するというのが基本の形でした。
なお、過去の給与記録は原則としてすべての期間を用いるため、新入社員の時のように低い給与の時も使うので、全体の平均が抑えられてしまうというものです。
逆に共済はどうだったかというと、報酬に比例した年金のみを支給していました。
昭和61年3月までの旧年金制度時代の厚生年金のように加入に比例した年金である定額部分というのは無く、完全に報酬に比例した年金のみを支給するという形でした。
更に、厚生年金のようにすべての加入期間の給与を使うのではなく、退職するまでの過去1年間とか3年間の給与記録を使うというようなものだったので、年齢的に給与が高い時の記録を共済年金は使っていたために相対的に高い年金になっていました。
なお、昭和48年に厚生年金が男子の平均賃金の60%以上の年金価値を維持するという大幅な年金水準の改善をしたので、この時に共済も厚生年金のマネをして厚生年金の計算のやり方を導入しました(共済年金が1階部分の定額部分を導入し始めた)。
昭和48年改正までは年金価値の考えは無く、いくらの年金額(例えば20年加入したら月額10万円とか)を設定し、そのための保険料を決めるというやり方でした。
男子平均賃金の60%以上の年金価値を維持するというようなものではありませんでした。
よって、昭和48年からの共済年金は厚生年金の計算のやり方で計算した年金を支給するか、それともいつもの報酬に比例した年金のみを支給するかの選択が可能になり、どちらか多いほうを支給するという形に変わりました。
さらに、共済と厚年の違いは共済は55歳から支給(早く貰いたい場合は50歳あたりから貰えたり)されるけども、厚年は60歳からという違いもあったのでそういう違いも批判が昭和50年代頃から強くなっていきました。
他に、今は常識ですが遺族年金とか障害年金は過去の年金加入記録にあまり未納期間があったら請求不可という制限がありますが、共済にはそのような過去の保険料納付記録などは見ませんでした。
まあ、初診日や死亡日が共済加入中であれば、過去の保険料がどれだけ未納があろうが構わないというものでした。
他にも細かな違いがありましたが、共済は上記のような厚年や国民年金より有利な点が多く、国民からの共済への批判も強くなっていったので昭和61年4月1日からの基礎年金導入時に年金計算が厚生年金と共済年金は統一されました。
この記事の著者・hirokiさんのメルマガ
昭和61年4月1日からはどんな職種であろうと国民年金に加入して、65歳になったらみんなが共通の基礎年金を貰おうねという事になり、報酬比例部分は老齢厚生年金とか退職共済年金として受給しようという形に変化しました。
この時に共済が原則として厚生年金の計算式に合わせる事になり、水準も同じという事になりました。
例えば共済が「報酬比例のみ」で100万円支給で、厚生年金は「基礎年金と報酬比例」で80万支給となる厚生年金計算式に合わせると、共済年金も80万円という事になります。
厚年に計算式を合わせたとはいえ、従来は共済が20万円高かった分はどうするのかというと、ココは職域加算年金という事で共済独自に支給する事になりました(まあ、サラリーマンへの支給である厚生年金も基金加入してる会社が多かったので、公務員のほうが年金は多かったと一概には言えなかったですけどね^^;)。
そのような差は残りましたけど、本質的な部分である「報酬比例部分+国民年金からの老齢基礎年金」という形は昭和61年4月1日から共通となりました。
共済の加入期間も、厚生年金と同じくすべての給与の平均を取るという事になりました。
ついでに配偶者加給年金も共済の期間が20年以上あれば年金(退職共済年金)に加算されるようになりました。
昭和61年3月31日以前までは共済年金はわざわざ加給年金など付ける必要は無かったという事ですね。
このように昭和時代の厚年と共済は、同じようにどこかに雇用されて働く人に支給される年金なのに年金の仕組みに差があったものの、昭和61年4月以降は統一の方向に向かっていきました。
年金計算の面ではそのような差を解消したものの、法律的な違いは残ったままでした。先ほどのように遺族年金や障害年金の過去の保険料納付要件のようにですね。
時は経ち、平成27年10月(被用者年金一元化)になるとそのような細々とした違いも厚生年金に合わせようという事になりました。
平成27年10月以降は公務員も共済加入ではなく、厚生年金の被保険者扱いとなったのです。厚生年金の被保険者になったから厚生年金のルールに合わせる事になりました。
逆に共済年金のルールに合わせたのもあります。例えば端数処理ですね。
端数処理は2ヶ月ごとに支払う年金の1円未満は完全に切り捨ててましたが、その切り捨てた分は合計して2月15日支払いの時に支払いますよという事になり、端数処理による数円程度の損も無くなりました。
共済も厚年に統一したので、将来は公務員だった人も老齢厚生年金を受給するという事ですね。
それまでの共済年金というのは退職共済年金と呼ばれていました。
さて、現在は平成27年10月を機に共済の人も将来は厚生年金を受給するようになったのですが、そうではない人も居ます。
年金制度によくありがちですが、法改正した時に既に従来のやり方で年金を貰ってる人はそのまま従来のやり方で支給しますねという経過措置が存在する事が多いので、平成27年10月以降は公務員の人もみんな厚生年金になったんだ─というとそうではない事も有ります。
よって、気を付けたい違いを事例で比較してみましょう。
この記事の著者・hirokiさんのメルマガ
2.厚生年金に統合される前の共済年金と厚生年金両方の受給者
〇昭和24年4月6日生まれのA美さん(令和5年に74歳)
● 1度マスターしてしまうと便利!(令和5年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法
● 絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和5年版)
高校卒業した月の翌月である昭和43年4月から昭和61年3月までの216ヶ月(18年)は国家公務員共済組合でした。この間の平均標準報酬月額は35万円とします。
昭和61年4月からは専門学校に通うようになり、昭和63年3月までの24ヶ月は国民年金任意加入だったのですが任意加入せず(カラ期間にはなる)。
——
※ 参考
専門学校生は通常は国民年金強制加入でしたが、昭和61年4月から平成3年3月までは任意加入扱い。定時制、夜間、通信などの学生は任意加入はありませんでした。
——
昭和63年4月から平成15年3月までの180ヶ月間は国民年金保険料を未納。
平成15年4月から60歳前月の平成21年2月までの71ヶ月間は厚生年金に加入しました。この間の平均標準報酬額は16万円とします。
さて、この生年月日の人であれば60歳(平成21年4月)の翌月からの支給ですね。
その前に年金の受給資格があるかを確認します。平成29年8月になる前なので、全体で10年ではなく25年(300ヶ月)あるかで見ます。
そうすると共済216ヶ月+カラ期間24ヶ月+厚年71ヶ月=311ヶ月なので300ヶ月以上あるため、60歳からの支給開始年齢から年金が貰える(20歳前と60歳後の共済や厚年期間は年金の受給資格を見る時は実際はカラ期間となりますが、記事の複雑を避けるため20歳前もそのまま共済期間として表示しています)。
国家公務員共済と厚年期間があるので両者からの年金が支払われます。
まず国家公務員共済からの退職共済年金(特別支給の退職共済年金。以下、退職共済年金とします)
先に注意点ですが、支給開始年齢を見る時は厚生年金の男子の支給開始年齢と同じところを見なければいけません。
A美さんは女子なので、よくある厚生年金支給開始年齢の女子の方を見てしまいますと間違ってしまいます。
共済の女子支給開始年齢は厚生年金の男子の方を見ましょう。
- 退職共済年金→35万円×7.125÷1,000×216ヶ月=538,650円
- 職域加算→35万円×0.713÷1,000×216ヶ月=53,903円
次に厚生年金からの特別支給の老齢厚生年金(以下、老齢厚生年金とします)。
- 老齢厚生年金(60歳から報酬比例部分)→16万円×5.481÷1,000×71ヶ月=62,264円
- 老齢厚生年金(62歳から定額部分)→1,621円(令和4年度定額単価)×71ヶ月=115,091円
よって、60歳からの年金総額は退職共済年金538,650円+職域加算53,903円+老齢厚生年金62,264円=654,817円
62歳になると老齢厚生年金(定額部分)115,091円も付いて、年金総額は769,908円となります。
定額部分発生年齢は支給開始年齢表を見て確認しましょう^^
この記事の著者・hirokiさんのメルマガ
その後、65歳(平成26年4月)になると老齢基礎年金が支給開始となります。
基礎年金は20歳になる昭和44年4月から60歳前月の平成21年3月までの480ヶ月間の加入記録で計算します。
- 老齢基礎年金→777,800円(令和4年度満額)÷480ヶ月×(共済204ヶ月+厚年71ヶ月)=445,615円
よって、65歳からの年金総額は退職共済年金(報酬比例部分)538,650円+職域加算53,903円+老齢厚生年金(報酬比例部分)62,264円+老齢基礎年金445,615円=g円(月額91,702円)
(差額加算を共済と厚年それぞれ計算しなければいけませんが少額のため、計算を割愛しています)
特にまた再就職とか記録が訂正されたとかでなければ、この年金額が一生涯続きます。
被用者年金一元化された平成27年10月の前に既に65歳になってしまっているので、そのまま共済は退職共済年金という年金を貰い続ける事になります(老齢厚生年金ではありません)。
ちなみに配偶者加給年金は?と思われたかもしれませんが、それは付きません。
共済期間が216ヶ月と、厚年71ヶ月の合計287ヶ月有ります(20年超え)が被用者年金一元化前は両者を合わせて20年あったら良いという事にしていなかったので従来の人は配偶者加給年金は加算されません。
もし配偶者加給年金を付けたい場合は、共済もしくは厚年のどちらかで20年以上を満たす必要がありました。
配偶者加給年金は付きませんが、もし夫に配偶者加給年金が付いていたならば、A美さんの老齢基礎年金に振替加算が付く場合はあります(A美さんの生年月日による)。
※ 注意
A美さんは共済期間が18年有ります。
厚生年金の制度には20年無くても18年で20年加入したものとみなして(中高齢者特例という)、配偶者加給年金を付ける事がありますが、共済にはそのような制度はありませんでした。
なお、通常の厚生年金の中高齢者特例(昭和26年4月1日以前生まれの人に限る)は女子(A美さんの生年月日による)は35歳以上に18年以上、男子だと40歳以上で18年以上必要になります。
いずれにしても、A美さんには中高齢特例は適用されません―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年3月22日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
この記事の著者・hirokiさんのメルマガ
image by: Shutterstock.com