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70年前の車両も。イラク戦争より旧式の戦車で戦うロシア軍の惨状

ここ数日の間に続々とウクライナに到着し始めた、欧州各国が供与する主力戦車。ロシアが恐れる最強戦車の前線投入まであとわずかと見られますが、プーチン大統領になす術はあるのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、上層部の内紛や動員等、ロシア国内で今起きているとされることを詳しく紹介。さらに「骨董品」のような戦車を実戦で使うしかないロシア軍の惨状を取り上げるとともに、兵器の差がどのような結末を招くかを予測しています。

ついに「プーチン容疑者」に。日米中はどう動くのか?:「デモくらジオ」(3月24日)から

この間、ウクライナ関係ではものすごく大きく動きましたね。意味も分からないし効果も結果も影響もピンとこないものとしては、習近平のモスクワ訪問というね。プーチン大統領と会談をすると。その同じ日にどういうわけか、岸田さんとゼレンスキーさんの会談も行われたという。その辺の関係があるのかないのか。多分偶然なのだろうと思いますけれど、G7の議長国である日本の総理大臣が、G7首脳としては最後にゼレンスキーさんと会いにキーウまで出かけていったと。色々障害はあったのでしょうがそれらをクリアしてウクライナ側が安全を保証した形で、それに乗って、訪問が叶ったということのようですから、それはそれで良かったのだと思います。援助の問題とか色々あったのでしょうが。

今、プーチンさんと言いましたが、ついに「プーチン容疑者」になってしまったということがありますね。これも大変化といいますか。これも国際刑事裁判所の決定の形で。その一つとして国際的な、戦争犯罪などについて裁判するところがあり、条約で保証されているわけですが。ロシアはそれに入っていないといいますが、ウクライナで犯された戦争犯罪に対するものとしてプーチン大統領に逮捕状を、ということのようですね。

まあ、やっていることを見れば、自分の大統領としての意思に基づく何らかの決定が、いくつかの経路をたどった結果ではあるにせよ、膨大な人の命を失う、ここにハッキリ結びついているわけですよね。まあ、すげえ度胸だなと思いますけれども。それを法によって裁く。法といっても国家が定めた法はなくて国際法で、条約によって担保されているのでしょうけれども、これも非常に大きな変化だったと思いますね。

それから、もうちょっと具体的なことで言うと、スロバキアですか。昔はチェコスロバキアという一つの国だったけれど。一つの国ということでいったら、オーストリア・ハンガリー二重帝国というような、連合国家の形をとっていた場合もありますけれど。ヨーロッパはとても複雑ですが、今はチェコとスロバキア。チェコは野球で大活躍して面白かったですね。スロバキアもNATO加盟国で、保有しているミグ29、最新鋭ではないが、ウクライナ空軍が使う航空機としては最新のものと同じものを、何機かは忘れましたが、既にウクライナ空軍に引き渡したということだそうです。

これは新たな訓練の必要が生じることもなく、現役のウクライナ軍パイロットが操縦できる、兵器として使えるものということになるので、F16が欲しい、いや、そう簡単に渡せない、渡したとしても訓練に一年かかる…というような話とは次元の違う、大変具体的な軍事援助になりますね。

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もう3月末になりましたが、あと1ヶ月くらいですかね。ヨーロッパの主力戦車がおそらく数百輛、ウクライナに供与されて、ウクライナ軍の戦術・戦略に大きなインパクトを与え、それは当然、ロシア軍にとっては悲劇的な結果に結びつくのではないかと言われています。まあ、そうなるのではないかと思います。

ウクライナ軍は自分のところの兵士が何人犠牲になっているかなどの具体的な数字、説得力のある数字を一切出していないので、大変な数なのではないかとの懸念がありますが、それよりも、ロシア軍の損害があまりにも大きいので、そちらに目を奪われてしまい、状況がかえって分からなくなるくらいのことです。

今、ロシアを巡っては、内輪もめが一つありますよね。ワグネルという民間軍事会社の代表、親分であるプリゴジンという人の力を削ごうとしているのがショイグ国防相並びにプーチンさんで、ワグネルはもうちょっと「用済み」感があるのかもしれませんが。とはいえ、戦闘経験のあるような人たちだけで出来ている組織ですから、軍事的にはロシア正規軍よりも大きな役割を果たしてきた、というところからすると、本当にそんなことやって大丈夫なのかと。まあ、大丈夫ではなくて構わないのですが、そういう感じになっていますね。

あと、もう一つ、起きていることで言うと、例の部分動員が30万人と言っていたじゃないですか。で、嘘か本当か分かりませんが、既に戦線に投じられたのは15万人で、その大半は既に死亡しているかあるいは重大な怪我を負って兵士としては使い物にならない。

で、残りの15万人はこの間ずっと訓練していた人たちで…という説もあるのですが、これ、本当かなと。ちょっと分からなくて。なぜそういうかというと、おおっぴらに動員をかけるのは9月に部分動員をかけたときに言っていたことで、その後は正式の動員はしていないのですが、実はこっそりやっている。「かくれ動員」なんて言われていて、動員とは違う理由で徴兵事務所に呼び出しておいて、ところでこういう条件で志願兵にならないかと誘いをかける。相手はカネに困っている人で、その求めに応じてすぐに入隊、すぐにウクライナに飛ばされるという…これを「ルート」と言って良いものか分かりませんが、そんなことがあるんだそうです。つまり、事実上の動員態勢にあって、人をかき集めようとしている。なぜそんな必要があるのかと言えば、戦線に投ずる兵士が不足しているから。

戦場というか、最前線に投じられている人の数が、ロシア軍の場合どんどん減っているらしい。死に絶えつつあるというべきかもしれませんが。凄い言葉で、キルレシオという言葉があり、ウクライナ兵を一人戦死させるのにロシア兵が何人死ぬかという率の話。1対5という人と、いやいや1対7だという人がいる。そういう形でウクライナ東部におけるロシア軍の「大攻勢」なるものが行われてきたのですが、失敗と言うべきか、どんどん攻撃の頻度が減っていて、人がいない、武器がない、これがロシア軍の動きを弱らせていると見られているようです。これも、15万人が1年以上の訓練を経てさらに現場に投入されるというようなことがあれば大変な騒ぎになるでしょうが、どうも本当にそんな態勢にあるのかな、と。

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もう一つ、武器の面で言うと、戦車は、西側のシンクタンクが明らかにした数字では、戦車1,800両を含む4,800両くらい、5,000両近くのクルマといいますか、戦車以外にも装甲車、装甲兵員輸送車があり、また自走砲があり…。色んなクルマの類い、これらがたくさん壊されている。ウクライナ軍の発表ではもっと多いのですが、多めにカウントしている可能性もありますから。

とにかくそのような状態で、実はもう使える戦車がないのではないかと。で、今運び込まれているのは何かと言ったら、T54とかT55というほとんど博物館行き的な骨董品ばかり。沿海州の方にそういう武器をストックするための広大な公有地があり、そこから運び込んでいるのではないかと言われていますが、滅茶苦茶古いものなんですよ。作られて70年くらいたっている。本当にちゃんと走るかどうかも分からない、仮に作られた当時の能力を70年たった今も発揮できていたとしても、装甲などは現代の戦車とは比べものにならないくらい弱い。狙われたら簡単に撃破されてしまう。簡単は言い過ぎかもしれませんね、確かに歩兵の立場から見たら、鉄の塊のようなものが走ってきて上から撃たれたり大砲をぶっ放したりされれば、それは怖い存在でしょう。歩兵の立場から見ればやっかいな存在でありますが、精密な砲撃の対象になったときには多分、残骸の山を築くだけではないかと。

思い出すのは、イラク戦争の時、覚えておられますかね。フセインの軍隊と米軍が戦ったあの戦争で、メディアは盛んに「イラク軍は結構強い」とアメリカ軍でもなかなか勝てないのだと軍事評論家も言っていた。大統領警護隊でしたっけ、親衛隊というような、特殊部隊のようなものが10万人くらいいて、この人たちは強いですよと日本の軍事評論家も盛んに言っていた。ところがこのイラク軍部隊の主力である機甲部隊、戦車がいる部隊ですが、開戦して数日のうちにほとんど撃破されてしまいました。

イラク軍が持っていたのはTの60か70のシリーズだと思いますが、今ウクライナでほとんどなくなってしまったものですが、ほとんどやられてしまった。それをやったのが米軍のエイブラムスの最初の頃のバージョンなのではないかと思います。似たようなことが起こるのではないでしょぅか。また。勿論、その間には色々な犠牲をウクライナ軍も払うことになるのでしょう。何もかもそう簡単にはいかないのでしょうが、兵器の差は恐ろしい結果を招くという気がします。

ロシア軍の動員の話はもう一つあって。ガスプロムという巨大企業があり、国営で天然ガスを扱う企業ですが、そこがなんとワグネルに対抗するかのように民間軍事会社を作ったと言われています。そこで高い給料で誘って戦闘経験のある人たちを雇おうという。これ、国営ですよね。軍隊があり、それとは別に国営の軍事会社があり、そこにプロっぽい兵士が集まってくるという。どういったやり方をしてもウクライナ軍と戦ってくれる人が欲しくて欲しくて仕方がないというのが今の状況。

どんな結果になるかは分かりません。悲しいことなのでしょうが、和平の動きはなんかどういう立場でやっているのか分からない中国とか、あるいはトルコの動きとか。そのようなことはあっても、具体的に進みそうなものは考えにくい。ですから、決着は戦場で付けるしかないのだろうなと私などは思っています。ミグの戦闘機がスロバキアに続いてポーランドも供与することになる。その辺の国は大体、ミグを渡した隙間には米国製のF16が入るという感覚なのでしょうが…。

(『uttiiジャーナル』2023年3月26日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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image by: Karasev Viktor / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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