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習近平を完全に怒らせた岸田文雄。石垣島の現地ルポで判明、陸自駐屯地設置で沖縄は標的になる

3月16日、沖縄県石垣市に開庁した陸上自衛隊石垣駐屯地。有事の際には敵国からの攻撃を受けることは確実となった南の島は、今どのような状況となっているのでしょうか。今回、政治ジャーナリストで報道キャスターとしても活躍する清水克彦さんが、新駐屯地設置に揺れる現地の様子をレポート。そこで見えたのは、最優先課題でありながら全く進んでいない「住民避難計画」の困難さでした。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。
著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)、『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)ほか多数。

初の自衛隊基地が設置された沖縄・石垣島、現地ルポ。忍び寄る「戦争の足音」

「外交の岸田」、久々のタイムリーヒットで6月解散、7月総選挙の可能性浮上

岸田内閣の支持率が上昇している。NHKと朝日新聞の世論調査では、ともに2月が35%だったのに対し3月は40%。日本経済新聞の世論調査に至っては、43%だったのが48%と、50%台回復も視野に入ってきた。

その背景には、3月16日の日韓首脳会談で関係改善に舵を切ったこと、そして、3月21日、訪問先のインドから木原官房副長官ら総勢12名でウクライナを電撃訪問したことなどが挙げられる。

特に、モスクワで中ロ首脳会談が開かれる中、極秘にウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談したことは、「中ロ首脳が会談している=キーウへのミサイル攻撃はない」と判断した岸田首相の読み勝ちだ。

また、ウクライナ問題で主導権を握ろうとしていた習近平総書記とプーチン大統領の鼻を明かしたという点でも、久々に打ったタイムリーヒットと言うべきであろう。

特筆すべきは、この先、岸田首相にとって支持率を押し下げそうな事象が少ないことだ。

5月19日から広島で始まるG7サミットは、「外交の岸田」をアピールする絶好の機会になる。岸田政権にとって喫緊の課題である「異次元の少子化対策」も、財源に不安を抱え、「選挙前の大盤振る舞い」との批判があるものの、バラまいてもらう子育て世帯側からすれば批判の対象にはなるまい。

岸田首相としては、自身の再選がかかる自民党総裁選挙(2024年9月)の日程から逆算しつつ、確実に選挙に勝てそうな時期、つまり、G7サミットを終え、6月に「異次元の少子化対策」の大枠をまとめた後の解散・総選挙を想定しているのでは、と筆者は見る。その場合、最も有力な選挙日程は、7月11日公示、23日投開票となる。

石垣島が「武装された島」になった日

こうした中、岸田首相がやり遂げたのが防衛力の強化(防衛費増額)である。その顕著な例が、沖縄の石垣島(沖縄県石垣市)に初めて陸上自衛隊の駐屯地が設置されたことだ。

陸上自衛隊石垣駐屯地の正面ゲート 筆者撮影

もちろん、設置計画自体は、2016年、与那国島に駐屯地が設置された頃からあった話だが、石垣駐屯地が完成し正式に稼働し始めたのが3月16日、弾薬等が搬入されたのがその翌々日の朝であった。

3月18日早朝、石垣市南ぬ浜の旅客船ターミナル。接岸した自衛隊の輸送艦から、地対艦ミサイルや多目的誘導弾などが入っていると見られる車両が次々と陸揚げされた。その数は約20台。

反対派の市民から「石垣に武器は要らない」といった怒号が浴びせられる中、車列は石垣市の中心部を通り、駐屯地の中へと運び込まれた。

石垣港から市街地を通り駐屯地へ向かう自衛隊車両 筆者撮影

台湾までの距離が直線で約260キロと、那覇との距離410キロより近い位置にある石垣島は、この日、武装した島になった。

住民投票を呼び掛けてきた花谷史郎石垣市議は語る。

「石垣市の住民がどう考えるのか示されない中で駐屯地が作られてしまいました。駐屯地内では、まだ工事が続いているのに、弾薬まで搬入されたことを思うと、かつて『基本的に容認』と言ってしまった石垣市の姿勢は軽率だったというほかありません」

駐屯地設置と反撃能力ミサイルで賛否が割れる石垣市議会 筆者撮影

とはいえ、石垣島に駐屯地が設置されたことは、先島諸島の防衛空白地帯が解消され、自衛隊の南西シフトがほぼ完結したことを意味する。

「中国の動きを思えば、駐屯地の設置はむしろ遅すぎたくらい」

地元メディア、八重山日報の仲新城誠論説主幹はこう語るが、筆者もこの考え方には同感である。

あのプーチンを舎弟にした習近平

石垣駐屯地が設置される前の3月13日、中国では全人代が閉幕した。中国の国会に当たる全人代は、習近平総書記が国家主席としても3選を果たし、政府の中枢を李強首相や丁薛祥副首相といった側近で固める式典とも言うべきものとなった。

しかも、次のトップへの登竜門とされる国家副主席ポストには、すでに「一丁上がり」と目されてきた韓正氏を起用した。このことは、習氏が2027年の次期共産党大会で4選を果たすために、後継者を作らなかったことを意味している。

去年10月の共産党大会で独裁体制を強固なものにした習氏は、今度は全人代での政府人事で、台湾侵攻をはじめ何でもできる体制を作り上げたことになる。

加えて言えば、前述した中ロ首脳会談だ。3月20日から21日にかけて行われた中ロ首脳会談では、プーチン大統領との蜜月関係を国際社会にアピールすることに成功した。

より正確に言うなら、ウクライナ戦争の長期化で疲弊しているプーチン氏に、「俺がついているぞ」と手を差し伸べることによって、欧米諸国に、自身の影響力の大きさを見せつけたのである。

外交面では、サウジアラビアとイランとの国交正常化を仲介したこと、台湾を国際社会から干上がらせるため中米ホンジュラスと国交を樹立させたことは記憶に新しいが、中ロ首脳会談では、「プーチン氏を支持する」と語ることで貸しを作り、今後も北の独裁者を舎弟扱いできる道筋を作ったとも言えるだろう。

石垣市民は習近平の不気味さを理解

駐屯地設置や弾薬搬入には反対している石垣市民も、習氏の恐ろしさや不気味さはよく理解している。

「戦争の足音がします。駐屯地がなければ守れないですし、あれば習近平に狙われてしまいます」

街で話を聞けば、老若男女を問わず「習近平」というワードが聞かれることには正直驚かされた。飲食店の店員にホテルの従業員、そしてタクシー運転手やコンビニ店の店員までもが、習氏の動向や中国の軍事力が増強され、「習近平支配」が進んでいることを脅威ととらえているのだ。

実際、台湾周辺における中国の軍事力は、過去20年の間に目覚ましいほど増強されている。アメリカ・インド太平洋軍の調査によれば、1999年には、潜水艦10隻だったのが2021年には56隻に、戦闘機は100機だったのが1,250機にまで増えている。弾道ミサイルも、2021年には1,125発を数え、1999年に比べると倍増している。

対するアメリカは過去20年で、その質はともかく、数の上ではほとんど変化がないことを考えると、防衛省は明言を避けているものの、反撃能力ミサイル配備という方向に行かざるを得ないのではないかと思うのである。

最優先課題は住民避難

3月22日、石垣島では住民説明会が開催されたが、市民の間には、中国から攻撃の対象になる懸念、そして近い将来、長射程の反撃能力ミサイルが配備されるというリスクへの不安が根強い。

ただ、住民の間で合意形成が進んでいないこと以上に問題なのは、住民避難計画が進んでいない点だ。

石垣島に駐屯地が設置された翌日、沖縄県庁では、武力攻撃を想定し、先島諸島5市町村の住民(約11万人)や観光客(約1万人)の計12万人を九州へ避難させることを想定した図上訓練が開かれた。

沖縄県では、航空機と民間の船で1日最大2万人の輸送が可能と試算しているが、12万人を避難させるには単純計算で6日もかかる。

特に、石垣島など先島諸島5市町村のうち、竹富島(竹富町)と与那国島(与那国町)などの住民は、まず石垣島に一時避難する計画なのだが、空港は波照間島にしかなく、頼みのフェリーは、少し風が吹き波が高ければ欠航してしまう。

空港がない島では住民避難に民間のフェリーが使用される見込み 筆者撮影

筆者は、石垣島―竹富島間のフェリーを利用したが、観光客で混雑し、有事となればパニックが起きる危険性も感じさせられた。

石垣島と周辺の離島を結ぶ船は風が強いと欠航になる 筆者撮影

竹富島(竹富町)の前泊正人町長は語る。

「竹富町には4,300人の住民と観光客2,000人程度が常時いると考え、石垣島への避難、そしてその先の避難をどうするか、急ぎ詰めていかなければなりません」

石垣市とは直線で7キロ。竹富島の前泊正人竹富町長 筆者撮影

どの自治体も、防災訓練は実施しているが、有事を想定したシミュレーションは遅れている。シェルターを10万か所も設け、訓練も繰り返している台湾とは雲泥の差がある。

先島諸島の1つ、与那国島では、去年11月、ミサイルを想定した避難訓練が実施されたが、避難先は無防備な公民館しかなかった。それを見た宮古島市は、「公民館への避難では意味がない」と訓練そのものを中止している。

陸上自衛隊の駐屯地設置で守りを固めるだけでなく、「どう逃げるか」についても対策が急務となる。

衆議院を解散する、しないは岸田首相の専権事項だが、石垣島に駐屯地を設け、中国を反発させてしまった以上、国際社会と連携して「台湾有事」を引き起こさせない外交、そして万一に備えた住民避難対策は遅滞なく前に進めてほしいものである。

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清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。
著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)、『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)ほか多数。

image by : 清水克彦

清水克彦

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