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日本人のTikTok動画はなぜマレーシア人を怒らせてしまったのか?

日本人ユーチューバーが街頭インタビューするTikTok動画で、一人の日本人男性が「マレーシア料理は美味しくない」と発言。英語字幕付きだったためか、マレーシアを中心に“炎上”したようです。今回のメルマガ『東南アジアここだけのお話【まぐまぐ版】』では、マレーシアに11年以上滞在する文筆家で編集者の、のもときょうこさんが、マレーシアの大手メディアのニュースを引用し紹介。個人的局所的な経験を単純に一般化してしまうことの危険性を指摘し、今回の件では、どの国の人も自国の料理や食文化を愛していることを尊重し配慮すべきだったと、炎上の要因を分析しています。

なぜ日本人の「マレーシア料理は美味しくない」発言が炎上してしまったのか

日本人がTikTokで「マレーシア料理は美味しくない」と発言したことが、マレーシアで炎上し、大手メディアSaysでのニュースになりました。

元のニュースはこちら。マレーシアでは割とメジャーなメディアです。
Japanese Man Claims Malaysian Food Isn’t Good & Locals Aren’t Having It

うーん、以前、アメリカ人が「インド料理はまずい」といったことで炎上しましたが、マレーシア料理はマレーシアの人々のアイデンティティと結びついていて、いつか起きるんではないかなぁ、と思ってました。

「単純化」をしすぎているのでは

まず記事のリードから。

マレーシア人は多くの文化的トピックについて異なる意見を持っているかもしれません。しかし、ほとんどのローカルが同意できること、それは、マレーシアにはかなり素晴らしい食べ物がある…ことでは?

 

When it comes to cultural things, Malaysians may have differing opinions on numerous topics.But if there’s one thing most locals can agree on, it is that Malaysia has pretty amazing food… right?

TikTokで240万回以上再生され、17万以上の「いいね!」を獲得したこの映像は、多くのマレーシア人がすぐに発見し、男性の発言に純粋な不信感を示しました。

 

Gaining over 2.4 million views and over 170,000 likes on TikTok, many Malaysians soon discovered the clip and expressed their pure disbelief over the man’s remark

「私が訪れたマレーシアの食べ物は素晴らしかった。この男性は何についていってるのか」とあるユーザーは言い、別の人は男性が訪れた「マレーシア」はどこかと質問しました。

ええっとですねぇ。「単純化」「一般化」が早すぎるのでは? と思います。これは多分「観光に行ってどこかのご飯食べた」ものすごく狭い感覚だけで、「マレーシア料理全体に当てはめてディスってしまった」から問題なのでは?と思ったりもします。

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ちょっとお金があるだけで「勝ち組」と決めつける。いい大学いけば人生成功すると思い込む。GDPを見て「負け組だ!」と騒ぐ。みんな根っこは同じだと思う。ジャッジメントが早すぎるのでは。

これが「ドリアン苦手」「ペタイは臭い」とか個別の感想だったら、そんなに問題にならないと思うんですね。それがコメントの「どこに行って何を食べたのか?」なんだと思います。また、マレーシア料理と言っても、本当に色々あるので、一部を見て全部を決めつけたら難しい。それに、外国の料理を食べてすぐに判断するのってそもそも難しくないですか。

異文化の料理に慣れるには、それなりに時間が必要です。赤ちゃんだって、いきなり日本の全部のものが食べられるわけではなく、野菜や肉など、時間をかけていろんな味に慣れていきます。「自分は好き嫌いがない」と豪語する人だって、克服してきた歴史があったりすると思う。

モノカルチャーで育つことの難しさ

マレーシアには自国の食文化に誇りと愛情を持っている人が多いです。マナーとして食べ物だけはディスるな、と言っている人もいます。

「え、日本料理の方が美味しいでしょ」と思われる方もいると思うのですよね。でもでも、同じように、他の国の人も自分の料理が一番美味しいと思っているかもしれない。その視点を持つと、全てが違って見えてきます。

例えば、東京の人が大阪に行って、「関西の食べ物はまずい」とか言ったら、やっぱり議論が沸き起こると思うのですよね。人の舌はそれぞれだから、固有の文化には意味があってそうなってるのです。

今大学院で「反偏見教育」について学んでいて、「自分の正義が他人の正義じゃない」ことを教えるべきでは、という議論をしています。

モノカルチャーすぎる環境の中で育つと、自分達の感覚=正義になってしまいます。教室に多様性がなかったり、そもそも似たような人とだけ育っていることもあると思う(私もつくづく自分はそうだと思う)。SNSも「日本人とだけ」やってる人が多いですね。

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コレが「日本語の中」だけで完結してればいいんですが、翻訳されるとたちまち炎上する。自分のグループの外にいる他者の視点が見えないまま、英語だけ覚えても、アジアで働き出したら、揉め事だらけになります。その意見をどうしても言いたくなってしまうなら、ずっと日本にいた方がマシです。

「なんで好き嫌いを素直に言っていけないの?個人の感覚を素直に伝えてるだけでしょ」と私もきたばかりの頃なら言えましたが、最近では少し意見が変わり、相手の文化へのリスペクトが重要だと思うようになりました。日本の特定の地方に行って、「この地方の料理はまずい」とか言わないのと同様です。

「和食が大好き」なマレーシア人にも本音と建前があり、「毎日日本料理」かというと全然違うし、その「日本料理」だって、マレーシア風にアレンジされてたりします。実は日本食が苦手な方もいて、味噌の匂いが苦手だったり、生魚が食べられない人もいます。

「理解できない」味覚があるのは仕方ない。でも、それに対して、「**料理はまずい」と言ってしまうと、炎上してしまうんですね。そこは理解しておくと良いと思う。

世界の人たちも同様に、自国の食文化を愛している。そこに上下関係はないし、正誤もない。「他者に対するリスペクトが大事だ」と言われますが、他者の文化について意見を言うときには、少し気をつけたほうがいい点かもしれません。

「そんなの正しくなくない?正直に伝えて何が悪いの?」と思われるかもしれないけど、それが周りの人とうまくやっていく秘訣なんだと思います。

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image by:nikkimeel/Shutterstock.com

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文筆家・編集者。金融機関を経て95年アスキー入社。雑誌「MacPower」を経て以降フリーに。「ASAhIパソコン」「アサヒカメラ」編集者として主にIT業界を取材。1990年代よりマレーシア人家族と交流したのときっかけにマレーシアに興味を持ち11年以上滞在。現地PR企業・ローカルメディアの編集長・教育事業のスタッフなど経てフリー。米国の大学院「University of the People」にて教育学(修士)を学んでいます。 著書に「東南アジア式『まあいっか』で楽に生きる本」(文藝春秋)「子どもが教育を選ぶ時代へ」「日本人には『やめる練習』が足りていない」(集英社)「いいね!フェイスブック」(朝日新聞出版)ほか。早稲田大学法学部卒業。

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【著者】 のもときょうこ 【月額】 ¥1,320/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 木曜日

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