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ウクライナ政府も激怒。露を利する米国「国家機密」漏えいの衝撃度

世界を大きく揺るがせている、アメリカ国防総省の機密情報漏洩。捜査当局は21歳の空軍州兵を逮捕しましたが、国際社会の混乱が収まる様子はありません。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、この情報リーク事件が各国に与える影響を解説。殊にロシアと戦うウクライナが被るダメージについて詳説しています。

米国の安全保障に関する「国家機密」リーク事件が意味するもの。ウクライナ戦線の“分岐点”となるのか?

「これはすべての国にとって悪いニュースだ。ウクライナにとっても、アメリカにとっても、どうやってロシアとの戦争を遂行し、これからどのような戦略を進めるのかをリークされたのだから。そして欧米諸国とその仲間たち(同盟国)にとっても最悪のニュースだろう」

これはアメリカの機密漏洩を受け、OSCE(欧州安全保障協力機構)の高官が漏らした一言です。

確か4月11日付のThe Financial Timesだったかと思いますが、事細かにリークされた内容を報じ、それに対して詳細な分析も加えていました。今回の機密漏洩はアメリカ政府にとっては大ショックともいえ、現在、リークで触れられていた各国はもちろん、同盟国に対しての説明に追われています。

何よりも現在、遂行中のウクライナ支援、特に今月末には開始されると言われているウクライナによる対ロ反転攻勢の戦略や装備などの重要な情報が含まれていたことで、ウクライナとしては大きな戦略の変更を迫られることになりそうです。

表向きウクライナ政府は「戦略的な変更はなく、すべて予定通りに遂行する」と言ってはいますが、実際には「なんてことをしてくれたんだ」とアメリカ政府に対して怒り心頭のようです(ブリンケン国務長官がクレバ外相に謝罪したようですが、信頼回復には至っていないようです)。

とはいえ、アメリカは対ロ戦争を支える最大の支援国でもあり、今後の反転攻勢の趨勢を左右する武器弾薬を供与してくれるはアメリカ政府であることも事実ですので、これから約10日から2週間の間に反転攻勢の戦略や配備などについてアメリカおよびNATOと密接に協議して、それなりの変更を加える必要があるものと思われます。

ちなみに今回のリークの中にはいくつか直接的にショッキングな内容もありました。特に【アメリカ政府が同盟国・友好国に対する諜報活動を行っていた】ことを示唆する内容は、エドワード・スノーデン氏によるリークに次ぐ規模と言われており、それは国際情勢の安定を揺るがしており、アメリカ政府も対応に追われる事態になっています。

アメリカ政府も「一部漏洩後に改ざんされていると思われる内容もあるが、今回リークされた内容は概ね事実である」と認め、事態の収束に尽力していますが、なかなか容易に収まりそうにありません。

例えば「エジプト政府がロシアに対して4万発のロケット弾を供与することを検討している」という内容は、これまで度々囁かれてきたエジプトによる武器弾薬の供与という噂の裏付けとなるものと捉えることができるため、これはアメリカ政府もエジプト政府も大いに焦ることになりました。

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韓国政権を吹っ飛ばしかねない事態に発展の可能性も

北アフリカ・中東地域のアメリカの重要な同盟国であるエジプト政府は、もちろん真正面から内容を否定していますが、アメリカ政府も欧州各国も疑念を強めているようです。

一応、エジプト政府外務省は「エジプトは注意深くロシア・ウクライナ戦争に対してはサイドを取ることはせず、距離を保っている」と“第3極”そしてグローバル・サウスとの連帯を強調していますが、旧ソ連時代から長年、ロシアとは友好関係にあり、また現大統領のシシ氏はプーチン大統領とも仲がいいと言われているため、“何が”という点はまだ確認が必要かと思いつつも、“ロシアに対する武器支援”という点については、これまで触れてきた様々な情報に際し、個人的には腑に落ちる内容であったとだけ申し上げておきたいと思います。

次に見たいのは「韓国政府がアメリカを経由してウクライナに武器弾薬の供与を行う」という内容です。

これは韓国政府にとっては外交方針を根底から揺るがす重要な内容です。日本政府の方針と同じく、韓国政府も殺傷能力を持つ武器弾薬を供与しないという方針を堅持していますが、仮にアメリカ経由だとしても、戦争が継続しているウクライナに対して殺傷能力を持つ“なにか”を供与しているとなると、ただでさえデリケートなバランスで成り立つ現政権を吹っ飛ばしかねない事態に発展し得ます。(実際には「50万発の155ミリ砲弾を、韓国軍が米軍に“貸与”する」というスキームと言われています)。

そしてちょうど尹大統領が訪米するタイミングでのリークであったことも、韓国政府内では何らかの意図を感じているようですが、表向きはアメリカに気遣っているようにふるまいつつも、今回のことに対しては大きな不快感を表明しています。尹大統領の訪米は予定通りに遂行中ですが、米韓首脳会談での話し合いの内容に少なからず影響があると思われます。

またこのリークは、ロシアとも特別な経済関係を築いてきた韓国に別のショックを与えることになりそうです。

ロシアの自動車業界と韓国の自動車業界の非常に密接な関係。
シベリア開発における韓国企業の大躍進。
ロシア各地への就航を許可された大韓航空。
北朝鮮との“対話”を可能にする“もう一つのルート”を提供するロシア。

いろいろな特別な関係がロシアと韓国間には存在します。

今回のリーク内容が、もし一部でも本当であることが明らかになったら、この特別な関係の清算が行われるか、ロシア政府から何らかの“見返り”を求められることになるかもしれません。

反米感情が高まっていると言われている韓国国内では、尹大統領の留守中に、早速野党が騒ぎ立てているようですが、尹政権を確実に揺さぶる材料にされてしまいそうです。

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反転攻勢の戦略見直しか。ウクライナが被るダメージ

ではロシアとの戦争を戦うウクライナへの影響はどうでしょうか?

結論から申し上げますと、それなりの影響は否めないと考えます。その理由の一つ目は【反転攻勢の戦略の総見直しが必要になる】からです。

ウクライナ政府の報道官は「戦略に変更はない」と発言していますが、今回のリーク内容には「4月30日ごろを目途に反転攻勢に必要とされる欧米の最新型の戦車(レオパルト2やアブラハムなど)からなる態勢が整う」「ポーランドから供与されたミグ29に改造を施し、NATOの射程200キロメートル超のミサイルを搭載可能にすること」「アメリカより射程150キロメートル超のロケット弾であるGLSDB(ハイマース150)が供与されること」「対ロ反転攻勢はウクライナ南部のロシア軍支配地域、特にハルキウやマリウポリ周辺からスタートし、クリミア半島への攻勢につなげる方針であること(ロシア本土とクリミア半島を切り離すこと)」などが含まれており、その情報が今回ロシアとその仲間たちにも伝わったことは、ウクライナにとっては望ましくない状況を生み出しています。

二つ目の理由は【ウクライナの武器弾薬のストックが枯渇している】との情報が流れたことです。

ニュースでは欧米各国からの武器弾薬の供与を通じ、ウクライナの抗戦能力は維持されていると言われていますが、実際のところ、ロシアと比較して、武器弾薬の保持数の割合は10対1、つまりウクライナはロシアの10分の1ほどしか持っていないというデータが出ています。

質に関しては、2014年以降にNATOから供与された兵器の方が優れているようですが、それを使いきる能力(装備が持つ能力をフルに発揮するスキル)がまだ備わっていないことと、ハイマースなどの最新兵器が、今回の戦争において、ロシア軍側に接収されているとの情報もあり、それを今、ウクライナに対して逆に使用されているとの分析も上がってきています。

実情については明らかにはなっていないので何とも言えないところですが、一つ言えることは、ウクライナの武器弾薬の保有量・残量はあまり楽観視できるレベルにはないと思われます。

それゆえに欧米各国からの支援が急がれるわけですが、提供される武器は、ウクライナが要請しているものよりは能力・性能が劣るものであり、かつ供与のスピードも遅いということです。

またアメリカの戦略的重要性が、再度、台湾情勢への対応と中国への対抗に置かれており、ウクライナが占める戦略的な重要性が低下してきているという内容も、実は今回のリークには含まれていたようです。

もしそれがガセネタでなければ…アメリカ議会が合意した対ウクライナ支援パッケージの期限がくる8月末には、支援が停止するという事態も予想されます。

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リークされたNATO各国がF16戦闘機を供与しない理由

三つ目の理由は【ウクライナに最新兵器を活用する能力が備わっていない】との分析結果です。

今回、供与されるレオパルト2やアブラハムなどを最大限活用するには、どうしても陸・空の連帯態勢が出来ていないといけませんが、戦車から成る部隊を支援する空の戦力が物理的にないことと、対ロ制空権を発揮するだけの実力が(訓練不足という点で)備わっていないため、苦戦が予想されるという内容です。

またそれはアメリカをはじめ、NATO各国が、ウクライナが望むF16戦闘機(通常、1年以上の訓練が必要)を供与しないことにもつながっており、アメリカが描く戦略的なシナリオではこの夏までの決着・反転攻勢が計画されており、その実現にはF16の訓練は間に合わないため、投入しないという決定もリークされています(もちろん、そこにはロシアをあまり刺激しすぎてはならないとの思いもあります)。

ウクライナにとっては失望の内容となるかもしれませんが、雪が解け、足場が固まる4月末のタイミングはもうすぐそこに来ており、すでに編隊のre-arrangementをしているロシア側と交戦するための時間的な余裕はあまりないと思われます。

このような状況を受け、いかにウクライナが戦略を立て直し、実施に移すことができるかが、今後の戦況を占うものと考えます。

では当のアメリカ政府はどうなのでしょうか?

実は先述の通り、非常に困惑・混乱しています――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2023年4月14日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Twitter(@FBI

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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