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読む人の心をざわつかせない。なぜ文筆家は「静かなサイト」を作ったのか?

文筆家の倉下忠憲さんが今月立ち上げたばかりのWebサイト「Knowledge Walkers」。その名の通り「知をわたる人たちの総合サイト」を称するKnowledge Walkersですが、倉下さんはあえて「静かなサイト」として作り上げたといいます。その理由はどこにあるのでしょうか。今回倉下さんは自身のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』で、サイトを必要最低限の機能で構成した狙いを解説。さらにその試みが提起するであろう問題を記しています。

静かなサイトをつくる。昨今のWebが騒がしくなりすぎていることに対するアンチテーゼとして

Knowledge Walkers」は、静かなサイトを目指しています。英語で言えばカーム(calm)・サイト。

昨今のWebが騒がしくなりすぎていることに対するアンチテーゼとして、そうした概念を立ち上げてみました。

ではカーム・サイトとは、具体的にどんなサイトなのでしょうか。

■視覚的に静か

まず上げられるのが、視覚的にうるさくないサイトです。Knowledge Walkers(とR-style)をご覧になればわかるように、画像的要素はできるだけ入れないようにしています。書影画像など、入れておかないと読む人がわかりにくいものについては画像を使いますが、「別になくてもいいんじゃね」的なものについては画像を使いません。

また、ボタンをクリックしたときの動作などUI的なアクションも省きました。大きな動きがまったくないサイトは、使っていても認知的に静かなものです。同様にサイドバーにもフッターにも何も情報がありません。ただ、画面の真ん中にテキストが置いてあるだけです。

以上のように、サイトはただ文章を提示し、読者はそれを読むという以外のことがほとんど何もできないサイトが、カーム・サイトです。

■ごく部分的な広告

上記の発展として、広告的な情報も掲載していません。Googleアドセンスや他のサービスの自動的な広告、画像的な広告、動画的な広告はどのように工夫したとしても「うるさく」なってしまうので、一切を排除しています。

また、たいへん素晴らしい情報が記載されているサイトであっても、本文の段落と段落の間に画像広告が入り込むと途端に認知資源が消耗してきます。読み飛ばせばいいわけですが、人間の「目に入ったものを処理する」力は無意識のものですし、文章を読もうという気持ちが高まっているときほど画像などを無視するのは難しくなります(逆に言えば、ほぼ本文を読んでないサイトでは広告も目に入っていないと言えます)。

だからこそ、文章を読んでもらおうとするのならば、広告的情報は少なくとも本文内に入れるのは避けた方がよいでしょうし、もっと言えば視野には入れない方が良いのだと思います。

これは別に「インターネットに広告を入れるべきではない」という先鋭的な意見ではありません。たとえば、書店で売っている雑誌にはさまざまなページに広告が入っていますが、それがうるさいと思うことはないでしょう。もともと雑誌という媒体が「ぱらぱら読む」ことを想定しているからです。

しかし、文庫本の小説の本文の途中に広告が入っていたらさすがにげんなりするでしょう。

つまり、インターネット上のWebサイトを作る際、そのサイトが何を目指しているのかを考えて広告の有無を判断したほうがいい、という話になります。文章をじっくり読んでもらいたいなら、できうる限り(経済的に無理がない限り、という意味です)広告的要素は減らしていく。少なくとも本文の中に入れ込むようなことは避ける。そういう心がけが必要でしょう。

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■内容的にも

上記をさらに発展させれば、たとえ広告表示がなくても、そこに書かれている文章が「騒がしい」のならばカーム・サイトとは言えないでしょう。簡単に言えば、炎上目的で極端な意見をズバズバ書き込む文章はカーム・サイト向きではありません。

その意味で、カーム・サイトは読む人の心を不必要にざわつかせることはしません。もちろん、何一つ心の動きが起こらないなら、そもそも読む必要がなくなってしまうわけで、静かすぎるのは考えものでしょう。しかし、心に動きを作るにしても、その「作り方」にはいくつものやり方がありえます。カーム・サイトは静かな声で、人の心を静かに動かすことを目指します。

■通知もしない

同様に、カームサイトは認知資源を奪うことを避けます。たとえば過剰な通知を投げることをしませんし、SNSへの共有を促すこともしません。共有自体を禁じるわけではないのですが、Webサイトの画面においてそれをプロモートはしないのです。

Knowledge Walkersでは、その静かさをよりラディカルに目指しています。具体的には、ブログで見かけるRSSフィードを設置していません。よって、RSSリーダーに登録してもらい更新があったら情報が自動的に読者に届けられる、ということもありません。読みたい気持ちになったとき、自分で読者に訪問してもらう形になっています。

また、フィードがないので、SlackやDiscordへの自動投稿できません。知らせる必要があれば、自分の手を動かしてその投稿を行う必要があります。これは面倒ではあるのですが、その代わりに受け手が「通知が溜まってしまって精神的にしんどいことになる」が回避できます。これはよいことでしょう。

さらに、書き手側から見ると、読者に通知がいかないので何も気にせず更新が行えるメリットがあります。ほとんど更新をしなくても誰も気にしませんし、過剰に更新してもそれが読者の負担になることがありません。書き手はただ書き、読み手は必要に応じてそれを読む。そんな形になるのです。

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■メモリ的な軽さ

上記のようにカーム・サイトは情報的に「重くない」ものを目指しますが、その副産物としてプログラム的にも「重くない」ものになります。

UIがシンプルなので使われるJavaScriptも最小限です。広告を表示するためのコードや画像を読み込むためのコードも不要です。ページの切り替えも素早く行えますし、Cookieなども使っていないのでそのための処理もまったく不要です。

結果的に最近のWebのリッチなページからはほど遠いものができ上がっています。利便性も至らないところがたくさんあるでしょう。でも、自分が書いた文章をWebを経由して他の人に読んでもらう、という目的であれば十分に満たせる程度の機能は備わっています。必要最低限のファンクション。それだけで構成されているのです。

これはまた閲覧時の処理の重さの問題だけではありません。その環境を管理する手間の「重さ」にも関係しています。

たとえば、Textboxシステムを使った記事の「更新」作業を考えてみます。私はまずテキストエディタで記事の本文をマークダウンで書き、その記事のタイトルをファイル名にして保存します。次に、index.mdなどどこでもいいので、その記事のリンクを載せたいページのmdファイルに先ほど書いた記事タイトルのリンク(ダブルブラケットでタイトルを囲ったもの)を追記します。

あとはその二つのファイル、つまり新しい記事とその記事へのリンクを追加した既存の記事のファイルをサーバーにアップロードすればそれで完了です。サーバーへのアップロードはターミナルからコマンドを叩けば実現できるので、実質私がやることはそうしたコマンドをまとめた「make」というコマンドを叩くだけです。

それで記事がWebにアップされ、他の人から読めるようになります。

Textboxシステムではこれ以外のことは何もできませんが、個人的にはこれだけできれば十分です。記事のデータを保存するデータベースも不要ですし、mdファイルからHTMLファイルを生成する変換もいりません。ただ本文の文章を書いて、それをアップするだけ。

それでできあがるのは、おそろしく原始的な「Webサイト」なのですが、原始的であって何が悪いのだと開き直ることは可能でしょう。というか、はたしてそれは「開き直り」なのでしょうか。利便性を求めて次々にバージョンアップしていくツールは、本当に私たちが必要としているものなのでしょうか。

Textboxシステム、あるいはカーム・サイトを目指すという試みは、そうした状況を批判的に捉え直す問題提起だと言えるかもしれません。ちょっと大げさかもしれませんが。

(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2022年4月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい。

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image by: Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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【著者】 倉下忠憲 【月額】 ¥733/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

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