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挨拶の代わりなのに…職場での「握手」や「ハグ」で訴えられた

日本ではあまり見られない、挨拶代わりに握手とハグをするという行為。それが、セクハラだと言われてしまった上司がいました。今回、無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんは、その裁判の結果と理由を紹介し、セクハラにあたるかどうかの判断基準についても説明しています。

挨拶代わりの握手やハグはセクハラになるのか

コロナ禍で大きく変わった習慣をひとつ挙げるとすると、「握手」ではないでしょうか。

そもそも日本人同士だと必ずやるほど習慣化されていたとも言えないかも知れませんが、それが所謂、「グータッチ」に変わりました。

その起源は巨人の原監督という説もあるそうですが、医学的には、握手をするよりも病原菌の拡大を防げる可能性があることはアメリカの医学誌でも発表されています。

コロナが話題になった当初、アメリカや欧米に比べて、日本での感染数が少なかったのはこの握手やハグの文化の違いという説もありましたね(真偽は不明ですが)。

この文化の違いは会社でも同じことが言えます。

外国人採用が珍しくなくなり、取引先等も含めると、みなさんの中にも仕事で外国人とのつながりがある人は多いのではないでしょうか。

ただ、この文化の違いには注意が必要な点もあります。

それについて裁判があります。

ある外資系アウトドア用品の会社で、不当に解雇されたとして社員が会社を訴えました。

この社員はその訴えの中で、ある行為を「セクハラである」と主張しました。

その行為とは、挨拶時の「握手」「ハグ」です。

ではこれらはセクハラと認められるのか?

裁判所は「それらはセクハラにはあたらない」と判断しました。

その具体的な理由は以下の通りです。

・(この会社が)米国に本店を置く外国会社の日本支社であることからすれば、社会通念上許容される挨拶行為である
・それまでに(この社員が)握手等を拒絶する意思を明確に示したことがあったとの事実は認められない
・ハグをした行為は、握手の代わりに(この社員が)求めたのに応じてされたものであるから、違法に権利等を侵害したものとはいえない

いかがでしょうか?

一応、念のためにお話しておきますが「握手やハグは挨拶代わりだからセクハラとは認められない」という意味ではもちろんありません。

この裁判でも言われていますが、握手をしたくないと思っている相手に対して握手をすることは、例え挨拶のつもりだったとしても、セクハラとされる可能性はあります。

では、その行為が「セクハラか、そうでないか」はどう判断すれば良いのか。

一言で言うとすれば、非常に漠然とした言い方にはなりますが「相手が嫌がっている(であろう)行為はセクハラ」と考えるのが一番良いでしょう。

例えば、性的な冗談に対してセクハラという話をすると、「ただの冗談なのに…」と言う人がいます。

そこには「それは冗談である」という言った側の視点しかありません。

「それを聞いた人はどう感じるか」という相手の視点が完全に抜けているのです。

これがセクハラにつながります。まずはこの視点を持つことが重要でしょう。

ただ、難しい問題もあります。

例えば、ロングヘアだった女性社員が、髪をバッサリ切ってショートヘアにして出社したとします。

その際に「似合っているよ」は、セクハラになるのか?

これはこの裁判でも取り上げられていますし、某厚生労働省のガイドブックには「避けるべき行為」として出ていた気がします(すいません、うろ覚えですが…)。

ただ、です。

ロングヘアだった女性が思いっきりショートヘアで出社してきているのに、何も反応しないのもどうなんでしょうか。

それも逆に不自然な気もします(それに対して「似合っているよ」が適切かどうかはわかりませんし、誰が言うかや、その言い方も影響しますので判断が難しいところですが)。

相手の気持ちを考えない「無自覚なセクハラ」はもちろん大問題ですし、現状ではこれが大半です。

これは決して許されることではありません。

ただ、なんでもセクハラと言ってしまう「過剰なセクハラ」も、社内の雰囲気をギクシャクさせてしまうような気もします。

そうならないように日頃のコミュニケーションを大切にしたいですね(これはある程度のセクハラは許容せよ、という意味ではもちろんありません。念のため)。

image by: Shutterstock.com

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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