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Seoul, Republic of Korea - March 2019: An eighty year old woman with a stick crosses the road.

高齢化社会へ突入した韓国。この国ではなぜ高齢者が「差別」を受けるのか?

日本と同様に高齢化問題が深刻になりつつある韓国では、高齢者関連の制度が整備されるようになってきました。今回の無料メルマガ『キムチパワー』で、韓国在住歴30年を超え教育関連の仕事に従事する日本人著者が、その制度に貢献した「大韓引退者協会」というものについて詳しく紹介しています。

韓国で老人はなぜ差別を受けるのか

チュ・ミョンリョンさん(78)。大韓引退者協会(KARP)代表。2000年代初め「老齢社会を先導するNGO」を掲げて活動を始めた。過度な政治色もなく、政府支援なしに会費と寄付金(プラス自分の金)だけで運営されていた。

13日、ソウル広津区(クァンジング)の商店ビル地下にあるKARP事務所を(東亜日報の記者が)訪れた。天井から水が漏れたりトイレもない90坪余りの空間は、各種冊子と書類がぎっしり詰まった事務室と会議室、講義空間などに分かれていた。隅ではちょうど高齢の講師が生徒2人(お年寄り)に携帯電話の使い方を講義していた。

大韓引退者協会は1月15日、創立21周年を迎えた。その間、韓国社会も大きく変わった。特にシニア関連制度、すなわち年齢差別禁止法、住宅年金、定年延長、基礎老齢年金などが導入されたことには彼が寄与した役割が少なくない。

――最もやりがいがあると挙げる業績は何ですか。

「住宅年金が導入されたことですね」

07年7月に実施された住宅年金制度は、実需要者が多くなった最近さらに注目されている。住宅年金制度は、今住んでいるマンションなどを担保として(マンションの価格に応じた)年金をもらい、生の終わりまで年金をもらい続けていくというもの。

KARPは創立初期に派手な照明を浴びた。2002年に韓国プレスセンターで開かれた創立総会には、当時の金元吉(キム・ウォンギル)保健福祉部長官、米国引退者協会(AARP)テスケンザ会長、駐韓米国大使館公使、ムン・テジュン韓国社会福祉協会長ら名士が総出動した。

ソウル麻浦(マポ)に家賃1,000万ウォン以上の事務所を設け、職員18人を採用した。

――背後にすごいスポンサーがいるのかと思いました。

「スポンサーが私でした。私財を投入しました。オフィスに電話機を100台も置きました。アメリカで見た引退者協会の感じを生かそうと思ったんです(笑)。何年か投資すればうまくいくと思っていました。本当に無謀でした」

毎年6億ウォンずつ赤字が出て、3年ほど経つと「現実自覚タイム」がやってきた。「大変だな…」と。結局、事務室を現在の広津区(地価の安い)商店ビル3階に移した。3年前には再び地下階に降りてきた。

――今協会はどのように運営されていますか。

「私たちの年会費が10万ウォンです。全国会員18万人といってはいるんですが…。真の会員があまりいないので…。運営費を賄うためにお菓子工場やカフェ、食堂も運営してみましたが、うまくいきませんでした」

――モデルにした米国引退者協会は会員3,800万人、予算2兆ウォン規模で盛業中ですが。

「最大の違いは収益モデルです。1950年代に退職教師協会から始まったアメリカ協会は、保険会社が入って財政が定着しました。最近は米国メディアがAARPを『世界で一番大きな保険会社』と批判するほどです。私も韓国で保険の方を調べてみたんですが、既存の保険会社の支部の役割しかできなくなっていましたね。保険会社の取り込みを諦めるしかなかったんでいきなり大変になったんです。結局はお金が問題です」

――チュ代表は普段、韓国社会に老人差別、老人軽視文化が蔓延していたと指摘したりします。韓国で高齢者はなぜ差別を受けると考えますか。

「差別されるということは弱者だという話です。なぜ弱者になったのでしょうか。自ら力をつけて声を出せないからです。差別から抜け出すためには、自ら賢くならなければなりません。ただ、責任を果たしながら権利を主張しなければなりません」

ここにはニューヨーク韓人会長として働きながら、米国政界を相手にした時の経験が深く溶け込んでいる。

「私たち韓国のお年寄りは待遇を受けようとする考えが強い反面、自ら寄与しようとする考えは少ない傾向があります。民主市民の訓練や社会システムが整っていない時代を生きてきたからです。しかし世の中が変わりました。老人になったことを官職(ふんぞり返る)についたかのように錯覚した瞬間、無視されてしまいます」

彼によると、米国引退者協会のモットーは「ボランティアを受けずに奉仕せよ(Serve、not to be serverd)」だ。高齢者になっても社会に寄与し、本人分の責任を果たしながら権利を探すという姿勢だ。反面、自らの力を自覚できなければ、タダを望んで利己的にならざるを得ない。

「利己的で次世代のことを配慮しない老人だったら、悪口を言われるしかないですよね」

その例として地下鉄の無賃乗車論議を挙げた(韓国では65歳以上の人は電車、地下鉄が無料。外国人は例外)。

「(無賃乗車を主張する側は)どうせ動いている電車なんだから何人乗っても何の問題かと言いますが、それはすべて費用が発生します。ただ乗りは、恩恵年齢層を高め差別化しなければなりません。障害者などは無料、高齢者は割引制でいくらかでも払って乗るべきですね。なぜこのようなことで後輩世代に負担をかけるのですか」

「同じ理由で会員たちに『マ・カ・イ』を勧めている。『学んで稼いで生きよう』を略した言葉です。大した仕事が欲しいわけでもありません。国民年金と合わせて月150万ウォン(15万円)程度確保できる働き口で十分です。引退者にも強調します。大金を稼ごうと欲張るな、半分は奉仕、半分は暇つぶしだと思ってありがたく働こう」

チュ代表は、20代で大韓航空に入り、乗務員から事務長まで9年間働いた。30代で米ニューヨーク・マンハッタンに定着した。一帯でマクドナルド売り場を4つも経営し、現地メディアの注目を集めた。

――アメリカで成功したのに、国内に戻ってきた理由は何ですか。

「どうすればやりがいのある有意義な老後を送ることができるか悩んでいたところ、AARPを発見しました。ニューヨークからワシントンまで4時間車で行き来しながらAARPについて勉強しました。1996年ニューヨークに大韓引退者協会を設立し、在米韓国人のための翻訳サービス程度の仕事をしていました。ところが1997年末、韓国にIMF(国際通貨基金)通貨危機が起きました。高齢化と経済危機を同時に迎えた韓国に役立つことをしなければならないと決心しました」

帰国数年でアメリカ国籍を捨てた。「政治をしようとして来た」とか「ちょっとして帰る人」という視線が多くて最初から国籍を整理してしまったのだ。これまで協会活動に私財数十億ウォンを投じてきた。米国から持ってくるお金で駄目になると、忠清南道牙山市(アサンシ)にあった土地を徐々に売った。後には先祖からの山まで無くしてしまった。

「子供たちは皆アメリカ人になってしまったし、私が死んだら墓があっても来る人がいません。なのでこれを機に山も整理しました」

米国と韓国を行き来しながら過ごす夫人は帰国数年後、夫に「だまされた」と言った。実状は彼も同じ気持ちのようだ。アメリカでやっていた通りにすれば何でもうまくいくと思ったが、彼の善意はあまり効かなかったようだ。

彼は先日から「協会を代表する人物を探す」という書類を持ち歩いている。「離れ際を知らなければなりません。しかし多くの人が関心を示しながらも『お金にならない、かえって自分の金を使うことになってしまう』という言葉だけが聞こえてきて困っています」

「後任者が見つかるまで、力の及ぶ限りやってきたことを続けるつもりです。オフィスの人たちに話します。ある日出勤してみたら、私が倒れているとしても驚くなと。ハハ」

彼が故国に帰ってきた2000年代初めに高齢化率7%を超えたばかりの韓国は、2025年には20%の超高齢社会を目前にしている。社会環境は、やっと彼が撒いた種が花を咲かせる環境になりつつあるわけだ。

韓国社会が少しでも準備された状態で高齢社会を迎えることができるようになったのには、彼の苦労も一役買ったようだ。栄誉ある人生後半を夢見て歩んできた彼の最後のダンスがどのように展開されるのか、気になるところだ。

(無料メルマガ『キムチパワー』2023年4月26日号)

image by: Shcherbakov Ilya / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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