先月、50年間地元の人々に愛され続けたあるお店が廃業してしまったそうです。こうした廃業は「どこの個人商店にもいつか起きる可能性がある」と、メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』で著者の佐藤きよあきさんは言います。今回は、「続ける」「辞める」の決断を迫られる商売人の難しさについて語っています。
ある食堂の決断!“誇り”を守るために廃業する!!
2023年4月25日。50年に渡って、地域の人びとに愛され続けてきた食堂が廃業しました。
中華をメインに、約70種類の定食や一品料理、惣菜などを、安く、早く、美味しく、そしてボリューム満点で提供してきました。
焼きめし300円をはじめ、酢豚定食や海老マヨ定食など、600~800円程度の価格帯が中心です。
また、朝の定食にもファンが多くいました。
貝汁にご飯と漬物がついた定食は400円。かす汁定食も400円。とん汁定食400円。日替わり具材のみそ汁定食350円。ミニ和風天津飯&ミニみそ汁の朝丼330円。
驚きの安さに、朝早くからやって来るお客さまもたくさんいました。
このお店は、朝4時59分に開店し、夜は0時01分に閉店します。
以前は、ほぼ24時間営業だったようですが。
59分や01分というのは、お店の心遣いです。粋な計らいとも言えます。
1分でも早く入ってもらい、1分でも長くゆっくりしてもらいたい、という思いからです。
遊び心のある表現でもありますが、素晴らしいアイデアです。
お客さまの心に響くことは間違いありません。
豊富なメニュー、長時間営業、低価格、ボリューム。すべてはお客さまのため。
これが、長年愛され続けてきた理由です。
では、なぜ廃業してしまったのでしょうか。
その理由は、どこの個人商店にでも起こり得る問題です。
経営者・スタッフの高齢化、後継者の不在、そして、もっとも大きな要因は人手不足です。
特にこのお店は、メニューが多く、長時間営業なので、オペレーションが難しく、働こうとする人がいなかったのです。
メニューを減らし、営業時間を短くすれば、問題は解決するのかもしれませんが、このお店らしさは失われます。
店主は、そのジレンマに苦しみ、廃業を決意したのです。
ただ続けるだけなら、やる意味があるのだろうか。
メニューが少なくなると、お客さまが悲しむ。朝早く来てくれる人の楽しみを奪うことになる。価格を上げると、食べられなくなる人がいる。
しかし、いまのまま続けることはできない。
ならば、「ここらが引き際かもしれない」。店主は、そう決断したのです。
50年も続いた老舗を閉めるのは、辛く悲しいことでしょう。寂しいことです。
お客さまに申し訳ない、という思いもあります。
コロナがなければ、人手不足にならなかったのかもしれません。
世界が平和であれば、原材料の値上げもなく、安いまま続けられたのかもしれません。
しかし、店主は愚痴を言うこともなく、静かにお店を閉めることにしたのです。
商売人の最後。お見事です。
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