MAG2 NEWS MENU

プーチン激怒。クレムリン無人ドローン攻撃を仕掛けた“実行犯”の正体

5月3日の未明に発生した、ドローンによるクレムリンへの攻撃。世界中に衝撃を与えたこの事件ですが、どのような勢力がいかなる目的を持って実行に及んだのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、巷間語られている3つのシナリオを分析するとともに、「番外編」として意外な人物からのメッセージである可能性を指摘。さらに激化する情報戦の現実を詳細に解説しています。

プーチン暗殺未遂か。クレムリンへのドローン攻撃を仕掛けた勢力

「クレムリンに2機の無人ドローンが攻撃を加えた」

この一報が入り、ドローンと思わしき物体がクレムリンの屋根近くで爆発する様を確認し、その爆発が実際に起きたものであることが確認された際、「これは大変なことになった」とぞっとしました。

そしてすぐさまロシア・ウクライナ双方から「ウクライナによるテロ攻撃であり、明らかにプーチン大統領を標的にしたものだ」というロシア政府側の情報と、「ロシアによる自作自演であり、ロシア国内の危機感を煽るための策に違いない」というウクライナ政府筋の情報が提供され、事態の混乱と不可思議な点がクローズアップされました。

主な関心は【いったい誰が、何のために、この時期にこの攻撃を実行したのか】ということです。

各国メディアでは主に3つのシナリオが挙げられ、専門家が様々な角度から解説を試みていますが、果たして事実はどこにあるのでしょうか?

その3つのシナリオとは【ウクライナによる攻撃】【ロシア政府による自作自演】そして【ロシア国内の反プーチン勢力(パルチザン)によるロシア政府への攻撃】ですが、実際にはどうなのでしょうか?

これまでに入ってきている情報と分析結果を踏まえ、いろいろな角度から探ってみたいと思います。

十分にモスクワを攻撃する能力も意欲も有するウクライナ軍

一つ目に【ウクライナによる攻撃】の可能性について見てみます。

まず「なんのために?」という目的から探りたいと思います。

可能性の高いのは【ウクライナの持つ対ロシア攻撃能力の誇示とロシア政府への警告】です。

先日、アメリカでリークされた秘匿情報の中に、「今年初めにウクライナ国防相がモスクワへの攻撃を計画していたのをアメリカ政府が止めた」という内容のものがありましたが、それが示すものは「ウクライナ軍(とその仲間たち)は十分にモスクワを攻撃する能力も意欲も有している」ということです。

アメリカ政府は、ウクライナ軍によるモスクワ攻撃が与える影響とロシアによる報復のエスカレーションを危惧してその時は止めたようですが、もし今回のクレムリンへのドローン攻撃が、近く開始が噂されるウクライナによる対ロ反転攻勢の本格化に向けた“スタートピストル”(よーいドン)だったとしたら、今後、ロシアによるかなり激しい報復攻撃が予想されます。

すでにロシア議会の過激派の中には、キーフのゼレンスキー大統領の公邸への攻撃、そしてウクライナに対する核攻撃を考慮すべきとの意見が溢れており、もしその声が大きくなってきた場合、プーチン大統領としてもかなり激しい報復を実施せざるを得ない状況になることが予想されます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

何一つ無い「ウクライナを利するもの」

ただ、仮にこれがウクライナによる攻撃だったとした場合、不可解な点がいくつか挙げられます。

1つは「近々、本格的な対ロ反転攻勢を実施する」と言われている直前に、あえてプーチン大統領とロシア政府を刺激する行動を取るかという疑問点です。

先に挙げたように、これが実は反転攻勢のスタートピストルという位置づけであれば、予想されるロシアによる報復攻撃を受けて、一気に攻撃の本格化に移行するものと思われますが、ロシア政府とプーチン大統領が非常に重要視する5月9日の対独戦勝記念日のパレード前に攻撃・反攻の狼煙を挙げることは、完全にプーチン大統領にケンカを売る行動とされ(意図的にそう理解され)、ロシアによるウクライナ攻撃のレベルを数段階エスカレートさせることにつながることになります。

私はまだロシアによる対ウクライナ核攻撃はないと見ていますが、メドベージェフ氏を含む過激派の声が再度ロシア政府内で大きくなり、それがプーチン大統領の支持基盤への影響に繋がる場合は、そのような過激な決定に走る可能性も否定しきれないように思います。

2つ目はすでにお話ししている通り、今回の攻撃によって何かウクライナを利するものがあるかどうかという疑問です。

結論から申し上げますと「ない」と思われますが、もしゼレンスキー大統領と政府がウクライナ軍全体の統率を取れていないか、正規軍ではない義勇軍的な組織による実施だった場合、“ウクライナによる実行”という可能性を100%否定できなくなる事態に陥ります。

今回の報を受けてアメリカのブリンケン国務長官は「現時点では判断できず、まずしっかりと事実究明をする必要があるが、何が真実化を探る手立てはない」と少し通常より距離感のある反応を示していますが、これは「仮にウクライナによる仕業だった場合に、アメリカの関与を否定するための逃げ道を保っているもの」と考えられます。

「ロシア政府による自作自演説」への疑問

では2つ目の可能性である【ロシア政府による自作自演】はどうでしょうか。

自作自演については、これまでロシア政府・プーチン大統領が用いる常套手段ですので十分にその可能性はあると考えます。

ただ引っかかるのが、先ほども挙げた【5月9日の対独戦勝記念日パレード】の存在です。

実際に今回攻撃を受けたクレムリンが位置する赤の広場周辺は厳戒警備体制が敷かれており、普段からドローン飛行禁止区域に指定されている場所でもあり、防空体制も敷かれているはずですので、クレムリンへのドローン攻撃という失態をあえて自作自演であっても犯すかどうかといわれると疑問です。

「ウクライナからの攻撃に備えてモスクワはもちろん、ロシア各地の防衛体制は万全だ」とロシア国民に訴えかけ、安心するように演出しているわけですから、それを覆し、下手するとロシア政府とプーチン大統領の体制の弱体化をイメージづけかねない事態になる危険性を冒してまであえて自作自演で行うかは疑問です。

ただ、ここ最近、対ウクライナ戦争に対する国民の関心が薄れていることも事実のようで、近々起こるウクライナによる本格的な反転攻勢を迎え撃つために、国威の再掲揚はマストで、かつ今後、全土厳戒態勢を敷き、ウクライナとの本格戦争を“アメリカと欧州各国の企みを挫く”という名目の下に実施する方向に持って行きたいという思惑があると言われているため、国内の引き締めと国民の対ウクライナ戦争への支持取り付け、そして政府内で大きくなりつつあるという“反プーチン勢力”の鎮静化(もしくは抹殺)、そして“対ウクライナ特別作戦”の行き詰まり感を打破するための攻撃レベルUPの口実作りという、いろいろな観点から、自作自演の可能性は否定できないとも考えています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

プーチンが見せつけるお馴染みかつお得意の演出

それもあえて自身が大事にする5月9日の対独戦勝記念日パレード直前という危険な橋を渡ってでも「やっぱりウクライナはアメリカと欧州にたぶらかされた反ロシア勢力であり、今、叩き潰すことこそがロシア国家および国民の生活の安全と安心のために必要」というロジックを作り上げようとしているというシナリオは、まだ疑問が残るものの、大いにあり得る気もしています。

憶測の域は出ませんが、何しろ無名のKGBの大佐から一気にエリツィン大統領の後任に躍り出た策士でもあり、元KGB、そしてFSB内にたくさんの“駒”を持つというのも、プーチン大統領の絶対的な権力の源とも言われていますので、プーチン大統領の命令なしには誰も動きませんが、プーチン大統領の命令の微かな証拠もすべて消したうえで、今回の作戦が実施され、その後始末を見事にやってのけるプーチン大統領という、お馴染みかつお得意の演出の一部を見せられているようにも感じています。

そして何よりも午前2時に起きた事態であり、2機のドローンが実際にはクレムリンに被害を与えていないことが、いろいろな憶測を呼んでしまうと思いますが、いかがでしょうか?

プーチンへの反撃の機会を虎視眈々と窺っている勢力

そして3つ目のシナリオが【ロシア国内の反プーチン勢力による犯行】という可能性です。

この場合“反プーチン勢力”には大きく分けて2パターンあります。

一つ目が“ロシア国内の反プーチン勢力”、言い換えると野党的な位置づけの勢力です。

これはプーチン大統領が絶対的な権力を築き上げる過程で邪魔になり、虐げられた勢力と言えますが、“幸運なことに”まだ生きている元オリガルヒまたは親エリツィン派の人たちの集まりという特徴を持ちます。

プーチン大統領とその仲間たちに屈した勢力でありますが、まだ影響力を完全には削がれておらず、反撃の機会を窺っている勢力でもあります。

気になるのは、ピュアに反プーチンのロシア人ではなく、確実に背後にアメリカまたは英国の支援が入っている勢力でもあると思われることです。

これまで親プーチン派の権力者の娘の爆死事件やインフラの破壊行為などを主導し、“犯行声明を必ず出す”のがこの勢力の特徴です。

しかし、これまでのところ、どのグループからも“犯行声明”は出されておらず、“国内の反プーチン勢力”による単独の仕業という線は薄いように思われます。

ロシア国内に潜む「モグラ」の正体

もう一つの“反プーチン勢力”とはどのような性格なのでしょうか。

それはウクライナの工作員とも言われる勢力で、長くロシア国内に潜み、特殊任務を担っているとされる勢力です。

このグループの特徴は、ロシア国内の戦略的な基地やインフラへの攻撃を時折行い、混乱を引き起こしていることですが、表面的にはゼレンスキー大統領や政権との直接的な関係はなく、また指令も受けていないだろうという点です。

目的はプーチン大統領と政権の力の源になっていると思われているものを攻撃して力を削ぐことと、国内にモグラが潜んでいることをあえて知らしめ、プーチン大統領とその周辺の猜疑心を煽ることと言われています。

確信はありませんが、もしこのグループによる関与があり、かつクレムリン内にモグラが潜んでいたと仮定した場合、今回の攻撃の謎が解けるカギになるかもしれません。

それは普通ならばかい潜ることが非常に困難とされるクレムリンと赤の広場周辺の防空システムが、ドローン接近前に何者かによって解除され、攻撃ドローンの侵入を許したというシナリオです。

もしこのシナリオが成り立つのだとしたら、不可解なのは「どうして2機のドローンがクレムリンを実際には攻撃せずに、すれすれのところで爆発するにとどまったのか」ということですが、これ以上はあえて詮索しないことにします。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

捨てきれぬ「意外な勢力からのメッセージ」の可能性

そして“番外編”は【ワグネルによるロシア政府へのメッセージ】という可能性です。

昨今、ロシア軍・国防相とワグネルとの確執が報じられていますが、プリコジン氏が腰の重いロシア政府とプーチン大統領に対して、「このままだと本当にワグネルは撤退するぞ」という脅しを投げかけたのが、今回のドローン攻撃だったのではないかとの見解です。

あくまでも想像の域は出ないのですが、そうであれば、あえてクレムリンに激突させなかった理由も見えてくるような気もします。

事実は実行犯と指示した者にしか分かりませんが、今回のサプライズは今後のロシア・ウクライナ戦争の戦況と見通しに少なからず影響を与えそうです。

ロシア議会の過激派がいきり立つ“核兵器使用”については、ロシア存続というゴールがある限りはないと思われますし、プーチン大統領とその周辺もNATOをフルに巻き込む事態は避けたいと思われるため、限りなく可能性は低いと考えていますが、プーチン大統領が考えることはいつも謎めいているため、“ない”とは言い切れません。

また「ゼレンスキー大統領の暗殺」や「大統領公邸への攻撃」なども可能性として挙げられていますが、こちらも未知数です。

ただ確実に起こることは、ここ数日中に(でも5月9日までに)ロシアによる大規模な対ウクライナ報復が行われることで、標的の一つにキーウが入っていることだと考えます。

激化する各国諜報機関による情報戦の現実

今回のドローン攻撃前には、クリミア半島の石油備蓄施設が何者かによって爆破され、2万トンを超える燃料が失われた事件が起こっており、プーチン大統領はすでにそれに対する報復にもGOサインを出していると言われているため、今回のドローン攻撃への報復と合わせて、かなり激しい報復を加えるものと思われます。

それはロシア国民への強いメッセージとなるでしょうし、ロシアの戦力に関して情報提供を続ける欧米の情報機関への挑戦状とも受け取れるかもしれません。

今回のドローン攻撃、そして先日のクリミア半島での爆発を前に、様々な角度から情報戦が繰り広げられていました。

アメリカの欧州部隊の司令官は、連邦議会で「ウクライナの戦力及び能力については、いくばくか計算違いはあるものの、十分に対ロ反転攻勢をかけ、成功できるレベルにある」と述べるとともに「ロシアの戦力はまだウクライナに対して優位に達しており、戦場がウクライナの“外”に広がった場合には、NATO加盟国にもその戦火が広がる可能性は否めない」という発言を行っています。

これは、ロシア向けではないですが、戦争の長期化から支援疲れとウクライナ支援の停止を口にする勢力に釘をさす目的があったと思われ、ロシアの戦力に関する分析内容には、若干の誇張があるように感じています。

ウクライナ政府のポドリヤック大統領府顧問やNATOのストルテンベルグ事務総長が言うように「ウクライナによる本格的な反転攻勢の時期や中身について変更はなく、加盟国から供与された戦車部隊と航空部隊もすでに臨戦態勢に置かれている」という内容は、NATO各国へのメッセージとともに、ロシアに向けたメッセージとも受け取ることが出来、ロシア軍側を臨戦態勢に置かせるように仕向けることで、心理的な疲労を増大させたい狙いも見て取ることができます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

「最後に決定的な動きをする」英国の情報網

情報戦とした場合、最も内容的に怪しげでありながら、非常に計算された形で実行されているのが英国のmilitary intelligence舞台による情報戦です。

ロシア軍の戦力優位についての情報を定期的に世界に流し、ウクライナへの支援を促す狙いと、ウクライナ東南部のロシア・ウクライナ戦線最前線の戦況についての“情報”を上手に操作することにより、実情が見えづらくなるという、一歩間違えば大事につながる戦略を実行しています。

これまでに築き上げられた情報ネットワークを駆使し、恐らく世界のインテリジェンスの中では最も早くに情報を得、最も深くにまで入り込んでいるのが英国の情報網の特徴と言われていますが、得た情報を巧みに操作して戦況を操り、心理を操り、敵味方関係なく影響を与えて動かし、自国の利益になると踏んだタイミングで“最後に決定的な動きをする”のが英国流です。

情報戦のプロと言えますが、これ、今回のクレムリンに対するドローン攻撃との兼ね合いで見た場合、全く別の可能性が浮かび上がってきますが…これ以上は詮索しないでおきます。

岸田総理がアフリカを歴訪し、閣僚たちが外遊に出ている間に、ロシア・ウクライナをめぐる国際情勢は緊迫感を高めていますが、G7議長国としてロシア・ウクライナ問題への対応を提案する身として、この緊迫化した世界にどう向き合うのかをしっかりと検討し、可視化した上で、G7各国と方向性を共有できるかが問われていると考えます。

ゴールデンウイーク明けの世界がどうなっているか。非常に私は心配しています。

以上、国際情勢の裏側でした。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け