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G7広島サミットで岸田首相が「核なき世界」を語ってはいけない理由

19日にG7広島サミットが開催されます。岸田首相にとって、今後を左右する重要な局面であることに違いありませんが、サミットを成功させるには何をすればいいのでしょう?無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、「核なき世界を語るのは非現実的」とした上で、成功へのポイントを解説しています。

岸田さんがG7広島サミットを成功させる方法

5月19日から5月21日まで、G7広島サミットが行われます。今日は、これについて考えてみましょう。

世界3大問題とは?

今の世界を見るに、3つの大問題があります。

・ロシアーウクライナ問題
・中国―台湾問題
・北朝鮮問題

です。この三つ、どれも「同じような問題」に見えますが、一つだけ次元が違います。それが、ロシアーウクライナ問題です。

中国、北朝鮮は現状、戦争をしていません。しかし、ロシアとウクライナは、現在進行形で戦争をしています。それで、世界3大問題の中で、「ウクライナ問題が最重要」なのです。

ウクライナ問題と台湾問題はつながっている

次に大事なこと。

日本にとって、ウクライナ戦争の結果は、どうなるのが国益なのでしょうか?これは、「ウクライナが勝つこと」です。なぜ?

ウクライナに侵略したプーチン・ロシアが勝利したと仮定しましょう。習近平は、「プーチンは、ウクライナに侵略して勝利した。俺が、台湾に侵攻しても勝てるだろう!」と考え、台湾侵攻の可能性が高まります。

「ウクライナに勝った」といいますが、実際は、ウクライナの背後にいる、「西側(日本と欧米)に勝った」という意味になります。そうでしょう?ウクライナは、欧米からの武器支援なしでロシアと戦えないのですから。

習近平は、「モデルケース」として「ウクライナ戦争」を観察しています。

「日欧米は、ロシアにどんな制裁を科すのかな?」

「日欧米は、どの程度ウクライナに資金や武器支援をするのかな?

結果、プーチンが逃げ切れたら、習近平は、「俺だって逃げ切れる」と自信を深めるでしょう。

もしこの戦争にロシアが負けて、プーチンが失脚すれば?そうなれば、習近平は、「ウクライナに侵攻してプーチンは失脚した。台湾に侵攻すれば、俺も失脚することになるだろう」と考え、台湾侵攻の可能性が減ります。だから日本は、ウクライナを助けることで、「台湾侵攻を阻止する戦い」をしているのです。

ウクライナ支援の核G7も揺らぐ

さて、G7の他にG20があります。参加国は、日本、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ、EU、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ。

ここにはロシアがいる。中国、インド、ブラジル、サウジアラビア、南アフリカなどは、ウクライナ戦争で中立的な立場です。

一方G7は、自由、民主主義、人権、言論・信教の自由などの価値観を共有し、「反ロシア」「親ウクライナ」で一体化している。だからG7は、ウクライナ支援の「核」です。

しかし、そんなG7も一枚岩ではありません。ドイツ、フランス、イタリアは、「ウクライナの領土を一部ロシアに譲っても、早く停戦するべきだ」という考えてに流れがち。

ウクライナ支援の「核の核」は、もちろんアメリカとイギリスです。しかし、アメリカでは、共和党トランプ派がウクライナ支援に反対しています。3月5日、テレ朝ニュース。

<トランプ前大統領は4日、共和党保守派による大規模イベントの演説で大統領への返り咲きに自信を示し、そうなれば、最優先でウクライナ支援を止めると表明しました。>

「最優先でウクライナ支援を止める」そうです。そして、トランプさんは、様々な問題を抱えながらも、現在共和党の最有力候補の座にとどまっています。彼は、「有言実行」の男なので、大統領に返り咲いたら、ほぼ確実にウクライナ支援を止めるでしょう。だから、ゼレンスキーに残された時間は、そんなに長くないのかもしれません。彼的には、年内に決着をつけてしまいたいところでしょう。

岸田さんは、揺れるG7諸国を「ウクライナ支援」で一つにする必要があります。繰り返しになりますが、「ウクライナを支援することで、台湾侵攻の可能性が下がる」のですから。

 

広島について

いうまでもなく、世界中の人が、広島を知っています。そう、原爆を落とされたからです。岸田さんは広島で、「核兵器のない世界に向けて力強いメッセージを発信したい」そうです、日経4月4日。

<岸田文雄首相は4日、首相官邸で国内外の有識者が核軍縮を議論する「国際賢人会議」の委員らと面会した。5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)では「核兵器のない世界に向けて力強いメッセージを発信したい」と述べた。>

気持ちはわかりますが、これどうでしょうか?

まず、アメリカは、世界で唯一核兵器を使った国です。岸田さんが、「原爆の悲惨さ」を強調しつづければ、バイデンさんは、一人気まずい思いをすることになるでしょう。

さらに、G7の中で、アメリカ、イギリス、フランスが核保有国です。プーチンが、核使用でウクライナと世界を脅している時に、この3国が核兵器を放棄したらどうなるでしょう?プーチンは、報復を恐れることなく、ウクライナに戦術核を使うでしょう。

私たちは、理想の世界を目指していますが、プロセスにおいて現実的でなければいけません。プーチンが「核を使うぞ!」と脅す状況で、「核なき世界」を語るのは、かなり非現実的です。

では、広島の悲劇を、世界平和に用いる方法はないのでしょうか?あります。「ロシアが今、核による恫喝を繰り返していることの非人道性」を強調するのです。

岸田さんは、核保有国アメリカ、イギリス、フランスに、「広島では、プーチンが核の使用に言及していることを厳しく糾弾しよう!」と伝え、安心させるべきです。

というわけで、「岸田さんがG7広島サミットを成功させる方法」について考えてみました。ポイントは、

・G7最大の課題は、「ウクライナ問題」である
・ウクライナ問題と台湾問題はつながっている
・ロシアがウクライナに勝てば、台湾侵攻の可能性が高まる
・ロシアがウクライナに負ければ、台湾侵攻の可能性は減る
だからG7は一体化してウクライナ支援を継続しなければならない
・「核なき世界」を強調すると、核保有国アメリカ、イギリス、フランスが困る。特に、ロシアが核で脅迫している今、西側が核を放棄することは非現実的
・だから岸田さんは、「核で脅迫しているプーチンの非人道性」を思い切り強調すべき

となります。

その他、いろいろなことが話しあわれるでしょう。しかし、「心を一つにしてウクライナ支援をつづけ、ウクライナを勝たせよう」となれば、成功といえます。

3月、ウクライナを訪問した岸田総理は、「ウクライナの美しい大地に平和が戻るまで、日本はウクライナと共に歩んでいきます」と約束しました。そんな岸田さんのことを、ゼレンスキーは、「国際秩序を強力に守る人」と呼びました。

岸田さんは、今こそウクライナとの約束を果たすべきです。それが、善悪論でも勝敗論でも日本の国益に合致しているのですから。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年5月13日号より一部抜粋)

image by: photowalking/Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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