コロナの影響で、人々の価値観や働き方が大きく変わりました。最近では、これまで重要視されてきた「やり抜く力」から「やめる力」を推奨する声もあるそうです。無料メルマガ『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』で土井英司さんが紹介するのは、 「やめる力」の重要性を説いた一冊です。
人生戦略を考えるヒント⇒『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』
ジュリア・ケラー・著 児島修・訳 日本経済新聞出版
こんにちは、土井英司です。
コロナ以前と以後では、人々の考え方や働き方が大きく変わりましたが、どうやらそれは人生戦略においても同じようです。
日本で『やり抜く力 GRIT』が出たのは2016年ですが、あれからどうやらアメリカでも、「GRIT疲れ」なるものが出てきているようで、キャリアの論調が大きく変わっています。
【参考】『やり抜く力GRIT』
本日ご紹介する一冊は、GRITの反動として、今話題になっている『QUITTING(=やめる力)』を取り上げた、注目の一冊。
著者は、ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト兼小説家のジュリア・ケラーさんです。
面白かったのは、動物の本能として、また脳の仕組みとしての「やめる力」を解説している点。
なるほど、「動物は無意味なタスクに貴重なエネルギーを使いすぎると死んでしまう」。
だからやる気がなくなったり、やめたりするというのは理にかなっています。
また、魚の実験ですが、前に進むのをあきらめた瞬間に活性化する細胞がある、というのが興味深かったです。
第3章 <「やめること」は、メディアでどう描かれてきたのか>や、中盤の自己啓発批判は、ありきたりでちょっと退屈ですが、我々がなぜ「やめてはいけない」という信念を持つに至ったのかという考察は、読んでおいて損はないでしょう。
オビにも書いていますが、<科学的に正しく「やめた」人ほど前向きに人生を切り開ける>。
やっぱり、脳は新しい挑戦をすると活性化するようにできているんですね。
さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。
「やめること」は自分自身と未来に対する寛容な態度であり、自分自身に「これじゃない。今じゃない。後で、何か別のことをしよう」と語りかけることだ
「やめること」なくして人類の進歩はなかった。科学の発展は、新たな発見に伴い、古い概念を捨てることで成り立っている。つまり「やめること」は、知的な進歩の中心にある
私たちの人生は、やめることでポジティブに変化させられる
「忍耐は、生物学的な観点では、うまくいっていない限り意味がない」(シカゴ大学名誉教授 進化生物学者ジェリー・コイン)
動物は無意味なタスクに貴重なエネルギーを使いすぎると死んでしまう。そのため、役に立たない行動には労力を投じなくなる
アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクロゴリアという3種類あるグリア細胞のうち、放射状アストロサイトと呼ばれる細胞が、魚が前に進むのをあきらめた瞬間に活性化した
ブルーチャスらは実験によって、マウスが「もう十分に行動した」と判断して行動を停止するのとほぼ同じタイミングで、ノシセプチン神経細胞の活性化が高まっていることに気づいた。ドーパミンは、ノシセプチンが放出されることで抑制される
脳には、やめることのためだけに使われる特別な領域がある
脳は挑戦することで成長する。研究者が様々な実験で証明しているように、ある活動をやめ、別の活動を始めると、脳は夢中になり、問題解決能力を高め、パフォーマンスを研ぎ澄ませて新たなタスクに取り組む
「長期的な目標を持つのもいいが、本当に必要なのは、集中しやすい短期的な目標を持つことです。あのときの私は、1日1日を乗り切る必要があったんです」(地雷を踏んだクノッセン)
フェイスブックでかつて最高執行責任者を務めたシェリル・サンドバーグの有名な言葉を借りれば、エジソンはやめることに「リーン・イン」(仕事などに積極的に取り組むこと)したのだ。彼は、「連続してやめる」というテクニックを編み出した
本書を読んで、GRIT(やり抜く力)が大事なのか、QUITTING(やめる力)が大事なのか、議論する人がいそうですが、おそらくどちらも大事。
本書の主張から考えると、上手く行っている時はGRIT(やり抜く力)を発揮する、上手く行かない時はQUITTING(やめる力)を発揮する、というのが、動物としては合理的な選択のようです。
もちろん、人間の取り組みはそんなに単純じゃないところが面白いんですけどね。
ちょっと冗長ですが、人生戦略を考える際、ヒントとなる一冊だと多います。
ぜひ読んでみてください。
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