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今年だけで1万人以上が国外流出。習近平の帝国化を嫌う富裕層が中国から逃げてゆく

先日掲載の「腰抜けニッポン。中国の邦人“不当拘束”に抗議が『控え目』な岸田政権」等の記事でもお伝えしている通り、中国で相次ぐ外国人の拘束事案。当局がその根拠としているのが「反スパイ法」ですが、そんな法律が改正され7月1日から施行されることとなりました。在中邦人の人権は、これまで以上に蹂躙されることになるのでしょうか。国際政治を熟知するアッズーリ氏は今回、「習近平帝国化」が進む中国の現状を詳しく紹介。さらに改正反スパイ法の運用開始後に起こりうる事態を予測するとともに、中国で事業を展開する日本企業に対しては迅速な撤退を呼びかけています。

【関連】腰抜けニッポン。中国の邦人“不当拘束”に抗議が「控え目」な岸田政権

中国国内で日本企業などへの監視や圧力が一層強化へ。中国からマネーが離れつつある現状

中国国内では習近平帝国の構築が着々と進んでいる。中国では6月上旬、日本の大学センター入試にあたる「高考」が実施されたが、出題問題の作文試験で、3月に習国家主席が欧米をけん制する内容の演説をしたことをどう思うかという出題があった。これは共産党政権が一種の洗脳教育を徹底している証左であり、習国家主席を批判する内容の作文を書いた学生は、その後当局による監視ブラックリストに加えられ、自由や権利を制限される恐れもあろう。肯定的な意見しか許されない、一種の尋問と言えよう。

そして、徹底した洗脳教育が進められる中、習政権は外国企業への監視や圧力もいっそう強化しようとしている。たとえば、中国当局は4月、米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーの上海事務所を事前の告知なしに突然捜索し、事務所からコンピューターや写真など機密情報に関わるものを押収した。この際、幸いにも事務所に勤務する社員は誰も拘束されなかったというが、中国でビジネスを展開する外国企業の懸念は強まっている。

5月にも中国当局はニューヨークと上海に拠点を置く米コンサルティング会社キャップビジョンが国家機密を漏らし、外国の情報機関とつながっているとして、同社のオフィスを家宅捜索して従業員を尋問し、機器を押収した。

中国にある英国企業で構成される在中英国商工会議所は5月に調査結果を公表し、中国でビジネスする英国企業の間で地政学リスクへの懸念が広がり、中国でのビジネス継続を悲観的に捉える企業の数が過去最多(回答した企業の7割あまり)に上ったと明らかにした。

「習近平帝国」から逃げ出す中国人富裕層

そして、同月、中国江蘇省蘇州市の裁判所は反スパイ法に違反した罪で起訴されていた70代の米国人男性に対し、無期懲役の有罪判決を言い渡した。この男性は香港での永住権も保持しており、一昨年4月に反スパイ法に違反した容疑で逮捕されたが、どのような行為が法に抵触したなど詳しいことは今でも一切説明はない。欧米企業の懸念は高まるばかりだ。

ちなみに、こういった締め付けも影響してか、中国からマネーが離れつつある。英国のコンサルティング会社ヘンリーパートナーズが6月に発表した調査結果の中で、100万ドル以上を投資できる資産を持つ中国人富裕層の国外流出が今年1万3,500人になると予測した。この数字は世界最多で、同じくらいの人口を有するインドの6,500人と比較しても極めて多い。

中国ではゼロコロナ政策が3年間徹底されて経済的な不満を抱く市民も多く、自由を求める中国人富裕層の中では諸外国へ移住する動きが拡がっている。お金が中国が離れていく1つのケースと言えよう。

邦人拘束も増加か。7月1日から施行される改正反スパイ法

そして、このような中、ついにスパイ容疑の定義が大幅に拡大された改正反スパイ法が7月1日から施行される。全国人民代表大会の常務委員会は今年4月、2014年に運用が始まった反スパイ法の改正案を可決したが、これによってスパイ行為の範囲がこれまでの“国家機密の提供”に加え、“国家の安全と利益に関わる資料やデータ、文書や物品の提供や窃取”にまで拡大される。

また、その他のスパイ行為など曖昧な表現も依然として残っており、改正法が中国当局によって恣意的に運用され、外国人がさらに拘束される恐れがある。中国の情報機関トップの陳一新・国家安全相は6月、欧米など敵対勢力の浸透、破壊、転覆、分裂活動などを徹底的に抑え込むため、外国のスパイ機関による活動を厳しく取り締まると改正法を積極的に運用していく姿勢を強調した。

そして、これは日本企業にとっても他人事ではない。2014年の反スパイ法が施行されて以降、今日までに拘束された日本人は確認されているだけで17人に上る。今年3月には、大手製薬会社のアステラス製薬所属の50代の日本人男性が帰国直前になって突如拘束されたが、上述の米国人同様に具体的にどのような行為が反スパイ法に違反したのかなど詳しいことは中国当局から一切説明はなく、今後の動向が懸念されている。

昨年秋には、日中友好に積極的に努めたいたにも関わらず、反スパイ法に違反したとして6年の実刑判決を受けた日本人男性が刑期を終え帰国した。2019年には同じく帰国直前に中国近代史を専門とする研究者が同じく帰国直前に一時拘束されたが、中国国内で得たデータや知識を母国に持ち帰り、それが対中政策に活かされることを防止する狙いが中国当局にあると思われる。

「法の支配や遵守」などそもそも存在しない中国

今後、改正法が積極的に運用されることで、中国各地で日本人が拘束されるケースがいっそう増えることだろう。改正法をじっくりと理解し、それを法的に解釈することに意味がないとは言わないが、改正法は中国当局が監視を強化するためのお墨付きでしかない。法律に則って行動するとは言いながらも、憲法の上に共産党がある国家において、法の支配や法の遵守などといったことはそもそも存在しない。改正法の運用状況は、今後の大国間対立の行方によるのだ。

しかし、日中関係が高い確率で悪化する方向で動く中では、拘束される日本人はプラス成長となることだろう。もう、中国依存を減らす、中国から徐々に撤退していくことを日本企業は検討するべきだろう。これにも関わらず、引き続き中国にどっぷりとつかっていては、中国に対して日本の弱点をさらすことになる。日本企業にとって、既に脱中国の時代だ。

image by: Graeme Kennedy / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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