日本維新の会が自民党との連立の条件として掲げた、「衆院議員定数削減」という看板政策。しかし17日に閉幕した臨時国会では審議すら行われなかったにもかかわらず、維新は「動議」を出すのみで矛を収めてしまいました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、今国会における各党の思惑を丹念にたどり、この不可解な顛末を検証。さらに維新が、約束を反故にした自民との連立解消の姿勢を見せなかった理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:議員定数削減は先送り。維新が“動議”だけで引き下がったのはなぜか
なぜ維新は「動議」だけで引き下がったのか。議員定数削減先送りでも連立離脱せぬ当然の理由
議員定数削減は先送り。維新が“動議”だけで引き下がったのはなぜか
がっかりというか、やっぱりというか。日本維新の会が連立の絶対条件と息まいていた衆院議員定数削減法案は、委員会で審議されることもないまま、臨時国会の閉幕を迎えた。
「茶番劇。そんな国会、まっぴらごめんだ」と維新の吉村代表は憤って見せた。まさに自民党が仕組んだ三文芝居というほかない。はなから成立させる気のない法案を、維新との連立のために提出し、いかにも力を合わせて通す努力をしているような言動、素振りをしてきただけだった。
だが、自民党だけのせいでもない。吉村氏にしても、連立の政策合意なるもののインチキ性くらい最初からわかっていそうなものだ。定数削減法案について「成立をめざす」というのは、霞が関や永田町の文法では、やる気がないのとほぼ同義である。
だからもちろん、議員定数削減法案の不成立をもって維新が連立を離脱するはずがない。連立政権入りした最大の狙いは「副首都構想」の実現にあるからだ。副首都構想について連立合意では、法案を「成立させる」とある。当然、意気込みが違っている。
もともと衆院議員定数削減はメインの政策ではなかった。連立入りするにあたって、自民党が嫌がる企業・団体献金の禁止を取り下げた代わりに、本質的ではなくとも手っ取り早くわかりやすい政治改革として引っ張り出してきただけのこと。大阪府知事が国政に割り込んで、かつて大阪で成功した政策を押しつける構図に苛立ちを覚えた自民党議員も少なからずいるだろう。
この法案を審議するはずだった衆院政治改革特別委員会。15日に起きた異変は維新の置かれた状況を如実に示していた。
特別委のメンバーは、自民17人、立憲13人、維新3人、国民2人、公明2人、れいわ・共産・有志各1人の計40人である。立憲のうち1人は伴野豊委員長で、原則として採決には加わらない。定数削減法案が審議入りし、採決に持ち込みさえすれば、自民と維新の20人が賛成して可決できるというのが、維新の算段だった。
ところが、政治改革特別委員会では先に企業・団体献金見直しに関する3つの法案が審議されており、野党側から見れば定数削減法案の提出じたい邪魔な動きだった。
1995年に導入された政党交付金は、企業・団体献金をなくすことを前提とした改革だった。にもかかわらず自民党はいまも政党交付金と企業・団体献金の巨額“二重取り”を続けている。この長年の懸案を解決するのが野党サイドの目的だ。献金の「受け皿」を政党本部と都道府県組織に限定する国民民主、公明提案の法案には立憲も賛意を示していた。
野党側は「企業・団体献金」に決着をつけるのが先だという理由で、議員定数削減法案の審議入りに待ったをかけ続けた。企業・団体献金に関する議論も遅々として進まない。そこで、維新の浦野靖人議員が動議を出した。
「直ちに企業・団体献金法案の採決を求める」
さっさと結論を出して、定数削減法案の審議に移れという催促だ。野党各党が「撤回を求める」とこれに猛反発したため、伴野委員長は休憩を宣し、そのまま散会した。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう
今や維新に連立を持ちかけたときの自民党ではない高市政権
維新にとって問題はここからだ。立憲の笠浩史国対委員長が自民の梶山弘志国対委員長に、動議の撤回を求めたところ、梶山氏は「伴野委員長の判断に従う」と表明したのである。浦野議員に撤回せよとは言えないが、どう扱うかは伴野委員長に任せると言うわけだ。
梶山氏は、維新の遠藤敬国対委員長との間では、「協力して法案の成立をめざそう」と励まし合っておきながら、あっさりと白旗をあげた形だ。伴野委員長が動議を取り上げるはずがなく、定数削減法案は宙に浮いたまま時間切れを待つばかりとなった。
それから間もなく、維新の中司宏幹事長は会見に応じ、法案の成立を事実上断念することを明らかにした。報告を受けた吉村代表は大阪府庁でこう語った。
「審議すらされていない。採決すべきと我々は主張しているが採決すらしない。(企業・団体献金の)結論が出ない限りは、定数削減の審議もしないということだから、やりようがない」
「やりようがない」というのは、自民を責めることはできないという意味もあるのだろうか。連立協議のさなかにテレビ番組に出演したさい「議員定数の大幅削減をこの臨時国会でやるべきだ。そこは僕、譲りません」と意気軒高に語っていたあの勢いはどこへ行ったのか。
翌日上京して高市首相に会った吉村氏は、会談後、記者団にこう話した。
「法案を審議されることなく会期の終わりを迎えることは非常に残念だ。来年の通常国会はしっかり時間があると思うので、定数削減を実現させたい」
まだ国会で継続審議になるかどうか決まらない段階だったが、吉村氏は来年の通常国会で成立をめざすと言い切った。野党はもちろん、自民党国会議員の多数が本音では反対している状況は来年になっても変わらないと思われるが、あくまでその「成立」を連立の絶対条件とし続けるつもりらしい。
維新にとって「連立」はどんな価値があるのか。創設者の1人、橋下徹氏が12月4日の「PRESIDENT Online」に寄稿した記事「気を抜けば一瞬で消滅する…それでも『維新の連立入り』を僕が評価する理由」に、興味深い一節がある。
長年続いた自公連立が解消し、自民・維新の新連立が成立、さらに初の女性首相が誕生。この展開にはワクワクしました。15年前の大阪で、わずか6人のメンバーが立ち上げた政治グループが国政の中枢で政策実現に突き進む。大阪府知事が総理大臣とタッグを組んで日本の政治を動かそうとしているんですよ!
これが、吉村代表ら維新の“大阪グループ”といわれる人たちの実感だろう。定数削減法案への自民党の不熱心さに「連立離脱だ」と怒るどころか、いざという時になって強い姿勢を封印してしまう理由がここにある。
橋下氏は維新とは無関係を装っているが、メディアやSNSなどで発信するその考え方は、間違いなく維新の“大阪グループ”に影響を及ぼしている。自民との連立に関しても、もとをただせば、橋下氏の発信が起点になっていた。
しかし今の高市自民党は、維新に連立を持ちかけたときの自民党ではない。国民民主と公明が補正予算案に賛成したことで、政権運営に自信を持ち始めている。
国民民主の玉木雄一郎代表は党首討論で「一緒に関所を越えましょう」と高市首相に言葉を合わせ、補正予算案に賛成した。まるで自民と国民民主の連立政権のように見える。自民党としては当面、維新との連立を維持しながら、国民民主など一部の野党を取り込んで政権運営をしていくつもりだろう。
むろん、高市首相が来年早々、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性は大いにある。自民党が単独過半数を取れば、維新の立場は一気に弱くなる。連立政権が発足してもうすぐ2か月。「大阪府知事が総理大臣と日本を動かす」という陶酔感からそろそろ抜け出したほうがいいかもしれない。
この記事の著者・新 恭さんを応援しよう
image by: 日本維新の会 - Home | Facebook