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恩をアダで返す中国、声を上げぬ日本。元国税調査官が考察する「誤解だらけの日中関係」と外交問題の処方箋

天安門事件で国際孤立の危機にあった中国を救ったのは「日本」でした。しかし中国は「恩をあだで返す」かのように、事件から5年後の1994年、江沢民政権下で「愛国主義教育実施要綱」を制定し、徹底的な反日教育を開始。韓国も90年代以降、同様の道を歩みます。なぜ日本はこうした敵対政策を許してきたのか。その背景には「国際法を守っていれば世界はわかってくれる」という日本外交の“稚拙さ”がありました。メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では、著者の元国税調査官・大村大次郎さんが、日中関係の誤解と日本外交の課題を鋭く分析しています。

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天安門事件後、中国を救った日本への「恩返し」

前回、中国が天安門事件の時に国際孤立しそうになったとき、それを救ったのは日本だということを述べました。当時、日本企業が中国に巨額の投資をしていたこともあり、日本は批判を最小限にとどめ、中国との交易を閉ざすことはなかったと。

そういうことをすれば、さぞ日本と中国の関係は良好になるだろうと、日本人なら思うでしょう。しかし、実際はその逆だったのです。中国は日本に対して、絵にかいたように「恩をあだで返す」のです。

というのも中国は、国民の民主化への不満をそらすために、徹底的な反日教育を施すようになるからです。天安門事件から5年後の1994年、江沢民政権は「愛国主義教育実施要綱」を制定し、強力な反日教育を始めました。

小中学校の授業では、旧日本軍が行なったとされる蛮行などが繰り返し取り上げられました。映画やテレビでも同様に、旧日本軍を鬼畜のように描いた作品が数多くつくられるようになりました。そのため、この時代以降に生まれた中国人は、日本に対して強い偏見、嫌悪感を持っている人も多いのです。むしろ、それ以前の中国人はそれほど日本に対して嫌悪感は持っていません。

そして、これとまったく同じことを韓国もするようになったのです。韓国も今のような酷い反日教育をするようになったのは、90年代以降のことなのです。そして中国も韓国も、国内政治で国民の不満が高まると、日本を叩くという政治手法が常態化していきます。にもかかわらず、日本は呑気に中国にも韓国にも様々な経済支援、技術支援を続けていたのです。

「世界はわかってくれる」では通用しない

日本が中国や韓国の日本敵対政策を許してきたのは、日本外交の稚拙さが要因の一つでもあります。日本の外交は、「国際法にのっとってやっているし、国際法に違反しているのは韓国の方だから、世界もいずれわかってくれるはず」という気持ちでやっています。

日本は「ルールや約束はきちんと守る」けれど、相手の出方を見て駆け引きをしたり、臨機応変に対応するようなことは非常に苦手です。日本は島国根性の国であり、自分たちの価値観が世界標準だと信じ込んでいます。しかし、国際関係の場では声の大きいものが勝ったり駆け引きや宣伝がうまい方が勝ったりするものです。日本人同士では以心伝心が通用しますが、それは世界では通用しないということです。

日本人の多くは、「中国政府は嘘つきで傲慢で世界中から嫌われている」と思っています。が、中国政府は、日本以外の国に対しては、それほど嘘をついたり傲慢な態度は取らないことが多いのです。特に先進諸国には決してそのような態度はとりません。また途上国には日本以上に巨額の経済支援を行なっています。だから日本より中国の方が信頼できると思っている国も少なくないのです。

国際政治の舞台では、「世界を納得させるだけの情報発信をした方が勝ち」なのです。それが、嘘か本当かに関わらず、です。ひどいことを言われても黙っていればそれが真実になってしまうし、いろんな国からつけ込まれることになります。その点について日本は認識を改める必要があります。

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中国の若者失業率と高まる反日リスク

特に最近では、中国は若者の失業率が非常に高く国内の不満が高まっています。現在の中国は、政府の発表したデータにおいても18歳から24歳までの若者の失業率は17%に達しています。実際には20%以上の失業があるのではないかと見られ、大学を卒業しても就職先がない若者が4割もいるという統計データもあります。ネットなどでは、若者たちの不満が溢れかえっています。

中国は急速な経済発展をしていますが、それは決してバランスの取れたものではなく、先行き不安な人も大変に多いのです。だからこれから中国政府は、ますます日本に対して国内外で敵対的なプロパガンダをすることが多くなると予想されます。

日本は、中国や世界に対して納得させるようなメッセージを、全力で送り続けなくてはなりません。「自分たちは間違っていないんだから、世界はいずれわかってくれる」というような考え方は、国際外交においては通用しないのです。

高市首相の台湾有事発言にしても、質疑全体を見ればそれほど問題があるとはいえません。台湾に対して中国が武力攻撃を行い、それに対してアメリカ軍が救援に向かったような「最悪の場合」についてとしての回答だったからです。質疑全体を見ればわかると思いますが、周辺海域が封鎖されて日本の輸出入ルートも塞がれ、台湾に在留邦人が取り残されていたようなケースという、最悪のケースを想定しての回答なのです。全体の流れを見れば、「そりゃあ自衛隊も動かざるを得ないだろう」というような質疑になっています。

だから日本は中国や世界に向けて、「アメリカと中国が台湾で軍事衝突したような場合、日本はアメリカの同盟国であり、台湾の近隣国としてアメリカに協力せざるを得ない」「そうならないように望んでいるし、そのための協力は惜しまない」というようなメッセージを声を大にして発していくべきなのです。そういうメッセージならば世界のどこの国も納得するだろうし、中国も強い態度には出れないはずなのです。

中国が日本の軍事力を恐れる理由

ところで中国は、今回の台湾有事発言だけではなく日本の軍事力についてたびたび警戒する発言をしています。今回の台湾問題に関しても、中国は「日本は再び軍国主義化している」として国際世論に訴えようとしています。

これについて日本人の多くは、痛くもない腹を探られている気分になっていると思われます。「日本が他国を侵攻するなどあり得ないし、そんな軍事力も持っていない」と大半の日本国民の思っているはずです。「むしろ、あんた(中国)の軍事侵攻の方がよほど心配だよ」と。

中国は核兵器も持っていますし、陸海空軍も日本とは比べ物にならないほどの規模を持っています。軍事費だけを見ても日本は中国の5分の1以下です。高市首相の台湾に関する発言も、中国がこれほど大きな反応をするとは思わずに軽い気持ちでなされたものだと思われます。が、この件に関しても、日本側は認識を改める必要があります。中国は、日本人が思っている以上に日本の軍事力を警戒しているのです。

というのも、戦前の日本は、世界有数の軍事大国であり、英米仏など世界中の大国を相手にして戦争を繰り広げています。中国とも戦争し、中国側は当時の首都だった南京をも陥落させられているのです。中国4000年の歴史の中で、戦争において首都を陥落させられたのは、モンゴル帝国と日本との戦いだけなのです。

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世界初の空母保有国だった日本

軍事技術についても、戦前の日本は非常に高度なものを持っていました。たとえば、現代の戦争において重要な地位を占める兵器として「空母」があります。空母とは航空機の離発着ができる軍艦のことです。第二次大戦直前にこれが発明されるや、海上兵器の主力の座を戦艦から奪い、現在に至るまでもっとも重要な軍艦の地位を占めるものです。

空母を建造し運用するには、高い科学技術が必要とされます。船という非常に限られたスペースの中で、航空機を離発着させなければならないのだから、その構造には精密なバランスが要求されるのです。だから、空母を建造するには、相当の工業技術、国力が必要になるのです。

日本は、この空母を大正3(1914)年につくっています。貨物船の若宮丸を、水上機を搭載する母艦に改造し、「若宮」と改称して軍艦籍に入れたのです。航空機の母艦として、正規の軍艦籍を入れられたのは、世界でこの「若宮」が最初です。

それ以降、日本海軍は空母を重要な軍事アイテムと位置づけ、太平洋戦争開戦時点では、アメリカよりも空母の保有数は多かったのです。その後、アメリカは空母と航空機を大量生産したため、最終的には航空兵力で圧倒されることになりますが、開戦時点ではアメリカに引けを取らないほどの航空兵力を持っていたのです。

当時と現代では航空機等の性能に違いがあるので単純な比較はできませんが、中国が空母を保有できたのは、なんと平成24(2012)年になってからのことです。しかも、すべてを自国で製造したわけではなく、ウクライナから中古の空母を購入してそれを改造したのです。つまり、日本は中国よりも100年も早く空母を保有していたのです。

中国が日本の軍事力を恐れるのも無理はない、という面はあるのです。今、日本は憲法の制約などで軍事力を制限しているけれど、もしこれを解除すればとんでもない軍事強国になる、と彼らは思っているのです。

日本の宇宙技術を警戒する中国

筆者はケーブルテレビで各国のニュース番組などを時々見ているのですが、中国のニュース番組は、日本が人工衛星の打ち上げに成功したときなどはトップニュース扱いになります。日本ではそれほど大きく取り上げられていないにも関わらず、です。

日本は人工衛星などの宇宙技術において世界のトップクラスです。また原子力の分野においても世界有数の技術を持っています。人工衛星も原子力も、もともとは軍事技術から発展したものです。だから、いつでも軍事に転用できるのです。日本が北朝鮮のミサイル実験のニュースを苦々しく思っているのと同じような感じで、中国は日本の人工衛星打ち上げのニュースを見ているのです。

もちろん日本人のほとんどは、人工衛星技術や原子力技術を軍事転用できるなどと考えたことはないでしょう。が、軍事専門的な目で見れば、日本はすぐにでも軍事大国になる可能性を持っているのです。

その辺については、日本側も認識しておく必要があると思われます。過去のことを平身低頭して謝罪し続けるとか、高度な軍事技術をひけらかすということではなく、相手がそれなりに恐れを抱いているということをわかった上で、適切な対応を考えるべきなのです。今の日本は「中国側の強がり」には敏感に反応しますが、「中国側の恐れ」についてはまったく認識していないようなのです。高市首相の発言にも、この認識は欠如していたように思われます。

とにもかくにも、相手は何を考えているのか?をしっかり把握し、自分たちはどう考えているのか?をきちんと伝える努力をしていかないと、とんでもない災いを招いたりするのです。小さな誤解で戦争にまでなったという例は、世界史の中でいくらでもあるのです。

(本記事はメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2025年12月16日号の一部抜粋です。「ふるさと納税の大誤解」 「所得税調査事績にみる国税庁の愚かさ」 を含む全文はご登録の上ご覧ください。初月無料です)

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