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文章チェックのプロが伝授。ヘミングウェイも教わった記事執筆法

結構な確率で目にする、丁寧さを心がけたと思われるもまどろっこしさを感じてしまう文章。陥りやすいこんな「罠」にはまらないためには何を意識すればいいのでしょうか。今回のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では朝日新聞の元校閲センター長という経歴を持つ前田安正さんが、ヘミングウェイが新聞記者時代に教わったという「記事の書き方」から2つのコツを伝授。具体例を上げつつ、その実践法をレクチャーしています。

丁寧に書くと何度も同じことを繰り返す謎

『老人と海』などを書いたヘミングウェイは、高校を出ると新聞記者になりました。

その新聞社で教わった記事の書き方がいくつかあります。そのうち、特に重要なものを二つ紹介します。

です。「文は短く」は、文章を書く際によく言われるものです。英語では、

Use short sentences.

とあります。つまり、一文を短くすることです。文章全体を短くしろというわけではありません。短い文を重ねて書け、ということなのです。

文を短くするには、接続助詞や用言の連用中止法を使わないなどの方法があります。このコラムでも、何度か紹介しました。

ところが「無駄なことばは全部削る」は、そう簡単ではありません。これには、法則のようなものを見つけるのが難しいからです。ただ、ヒントがないわけではありません。

繰り返し同じことばが続くと…

それは、まず同じことば、同じ表現を多用しないようにすることから始めていけばいいのです。たとえば、ある自治体の広報を見てみます。

次世代のA市を担う高校生と、議員が意見交換を行い様々な意見をいただくことで、議会活動に反映させることを目的とし、令和2年度、3年度と行ってきました。

 

3回目となる令和4年度は、議員が各常任委員会で構成する班に分かれ、X高校、Y高校、Z高校の3校を訪問し意見交換を行いました。

高校生に地方自治を体験してもらう取り組みは、とてもいいと思います。若い世代の政治離れ解消と、高齢化の進む地方の将来を考える機会になります。

そこで、この広報です。とても丁寧に書かれていることがわかります。書き出しに、

意見交換を行い様々な意見をいただく

とあります。意見交換とは、様々な意見を頂戴することです。こうした重複表現を避けるようにします。また、2文目にも「意見交換を行いました」とあります。これまでの2回と今回を分けて説明する意図はわかります。しかし、そこまで同じ表現をしなくてもわかるのではないでしょうか。

令和2年度、3年度と行ってきました。

 

3回目となる令和4年度は、~行いました。

開催年度を重ねて書き、最後は「行ってきました」「行いました」で締めくくっています。ここも整理したいところです。

令和2年度、3年度に、次世代のA市を担う高校生と議員の意見交換会を開きました。これは、若い世代の意見を議会活動に反映させることが目的です。

 

3回目となる令和4年度は、各常任委員会の班ごとに議員が分かれ、X高校、Y高校、Z高校の3校を訪問しました。

初めに、いつ、何をしたのかを書きます。その次に、その目的を記します。一つの文にたくさんの要素を盛り込んでいるため、説明が長くなるのです。

「3回目となる令和4年度は」も、開催年が自明であれば省略して「今回は」としてもいいところです。

初めに「高校生と議員の意見交換会」としたので、最後もその流れで3校を訪問することは、文脈を追えばわかります。

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同じことばが、文脈を阻害する

「無駄なことばは全部削る」というのは、文脈を追えるような文を重ねていくということでもあるのです。

広報の続きを見ていきます。

生徒も議員も始めはお互いに緊張していた様子でしたが、いずれも学校でもたくさんの意見を出してもらうことができ大変有意義な意見交換となりました。

ここも長い一文です。それは、「様子でしたが」の「が」と「意見を出してもらうことができ」の「でき」に、その原因があります。

「が」が接続助詞、「でき」が用言の連用中止法です。ともに、文の要素をつなぐ役目があります。

1)生徒も議員も始めはお互いに緊張していた様子でした(が)

 

2)いずれも学校でもたくさんの意見を出してもらうことが(でき)

 

3)大変有意義な意見交換となりました

という三つの要素を「が」と「でき」でつないでいるからです。接続助詞と用言の中止法をやめれば、文は短くなります。

結局「一文が長い」という共通点がある

生徒も議員も始めはお互いに緊張していた様子でした。

 

いずれも学校でもたくさんの意見を出してもらうことができました。

 

大変有意義な意見交換となりました。

単に文をばらしただけです。これをさらに、整理します。

生徒も議員も、初めは緊張していた様子でした。

 

しかし、各校からたくさんの有意義な意見が出されました。

とすれば、ほぼ趣旨を変えずに二つの文にすることができます。

「たくさんの意見」は「大変有意義」であったはずです。

「始めは」は「最初のうちは」という意味なので「初めは」とします。

同じことばを使うのは、そもそも文の構造がおかしいから

広報はさらにこう続きます。

高校生のみなさんから頂いた貴重な意見、提言が活かせるよう議会として取り組んでまいります。

 

頂いた貴重な意見、提言はとりまとめの上、市に提出いたしました。回答については次号に掲載いたします。

ここにも、

頂いた貴重な意見、提言

2がカ所あります。

議会としてしっかり取り組むために、「市に提出」したのです。この辺をまとめてみます。

高校生のみなさんから頂いた貴重な意見、提言が活かせるよう議会として取り組んでいきます。またこれらは、とりまとめて市に提出しました。回答については次号に掲載いたします。

「これら」などの指示語を使って、同じことばの繰り返しを避けるようにします。この段落に来て「まいります」「いたしました」「いたします」などの敬語が急に増えます。ここまでの流れに沿って、自然なことばづかいにしても問題はないように思います。

(メルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』2023年6月5日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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【著者】 前田安正 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 5日・15日・25日

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